カルテ番号 の・7(18)
野上香織は少し考えてから、目を瞑ったまま話し出した。
「先生が、変わらなくていい、と。
その時、そんな事は大した問題じゃない。
個性の一つだ、というように聞こえたのです。
そしたら、急に息が楽になって、気持ちが軽くなりました。
私が変なのだから、いつか、治さなければならない。
それは怖いけれど、変わらなければいけない。
普通にならなければ、いけない。
それが、そんな事は、どっちだっていい、と思えたのです」
院長は黙って聞いている。
「そうしたら、心が楽になったら、私のなりたい事が浮かび上がったのです。
先生が最初に、私にこう言った、ですよね。
野上さんは、何を望んでいますか?と。
その言葉もひっかかっていたのですが、それが急に解ったのです。
何で、先生が、そういう事を訊いていたのか、その時は解らなかった。
私、変わりたい。
それまでの、変わらなければならない、ではなく、変わりたい。
それが、私の素直な気持ちだったのです」
院長は少し微笑んだようだった。
「少し、めんどうくさい話をしますね。
人も、動物も、この世のあらゆるものが、常に変わっているのです。
どう変わるのかは、ともかく、としておいて下さい。
この世は物質と時という条件の下で存在しています。
時、とは、変わる、という意味なんです。
ですから、変わらない物質なんて、一つもありません。
ですが、矛盾していますが、一時的に変わらないモノがあります。
マクロの目で見れば変わっているのですがね。
でも、人間からは変わらないと思えるモノがあります」
(登場する人物・組織・その他はフィックションです)
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