伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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伊勢志摩地方の消滅した鉱産地と、当時採集した鉱物標本について

2018年04月29日 | 三重県の鉱物など

少年時代に採集した「赤崎鉱山の銅鉱石」の標本

 歳をとったせいか、昨今は水石の探石に明け暮れていて、鉱物採集に出かける機会が殆ど無いままに、ここ数年が過ぎた。 小学生の頃、伊勢市とその近郊から始めた鉱物採集は、中学・高校へと進むにつれて、県内各地の著名な産地から近府県、そして全国の主産地へと広がっていった。
 その間、幾つかの鉱山へも行ったが、大学を出て郷里に戻って奉職してからは、もっぱら三重県下の鉱産地に絞って採集を続けて来た。

 水石も、県内の石は探石がてらたくさん見てきたが、地元の伊勢志摩から奥伊勢(主に度会郡)にかけては、かなり良質の水石(名石)が得られる事もあり、殆ど遠出をする機会が無くなって、今日に至っている。

 昨年から、揚石した水石の整理と共に、長年ダンボール箱に封印していた、昔の鉱物標本のコレクションを引っ張り出して、整理をしはじめた次第である。
 少年時代に、マッチの空き箱に入れていた小型の標本も、何十年ぶりかに手にして見ると、懐かしさはもとより、今は消滅したそれらの産地や、当時の採集行の想い出がいろいろと回想される。
 当時幾つかあった伊勢市内の産地も、今は住宅街となっていたり、雑草に被われて立ち消えとなっていたり、痕跡すら消滅してしまっていて、絶産となった鉱物種が殆どである。


絶産となった辻久留産の「オパール脈」の標本


 今回は、当地方を代表するような、見て判るレベルの鉱物種にしぼり、知られざる産地の絶産種や産地の消滅標本も含み、写真にてその幾つか取り上げてみよう。

 少年時代に、何度か採集に行ったのは、まず五十鈴公園背後(伊勢市宇治館町)の通称 「水晶谷」 (古名は、施餓鬼谷・せがきだに)であり、よく祖父に連れられて 「針水晶」 を拾って来たものだ。
 その後、この鉱物は方解石であることが判ったが、ここは伊勢市の人々には、「針水晶の産地」 としてかなり知れわたっていた。
 水晶谷のある岩井田山(通称、菩提山・ぼだいせん)には、左隣りに似たような 「西行谷」 が並んでいて、ここでも方解石がよく採れた。
 その後、この山に 「伊勢志摩スカイライン」 の工事が始まり、続いて志摩方面に行く為の伊勢道路の 「五十鈴トンネル」 の掘削工事が成され、西行谷の切り破った岩盤やトンネルの廃石から、放射束針状の集形が実に綺麗な菊花状や、カリフラワー状を成す霰石が多産した。


当時採集した西行谷産の「霰石の標本」


 次によく行ったのは、鳥羽市赤崎にあった赤崎鉱山(当時は、赤崎銅山と呼んでいた)であった。 そのきっかけは、二見街道沿いの二軒茶屋の勢田川の土手に、この鉱山のバラストが運ばれて来ていたのを、中学校の同級生らが見つけてきて、金が入っていると見せびらかしていた事による。 その後、その石の出所が鳥羽の赤崎鉱山である事が判明し、その金色の鉱物は黄銅鉱であった。
 当時、坑道は塞がれていて、切り崩したズリ山のバラストには、希に黄銅鉱があり、鉱脈の酸化帯の二次鉱物である孔雀石や珪孔雀石などは、幾らでも採集出来た。

 さらに、何度か祖父に連れられて行った場所は、朝熊山の金剛証寺の周辺であった。 当時は、尾根伝いの旧道をボンネットバスに乗って登り、途中の急坂に差しかかるとエンストをするので、乗客全員が降りてバスを押したものだ。
 少年時代の記憶であるが、山上には金剛証寺の門前まで、無人の古びた木造の家屋が何軒か並んでいて、一番奥に 「野間万金丹」 の立派な店舗があり、老婦人が営業をしていた。 参詣者はこの店の軒先の縁台で休み、暫しお茶をご馳走になっていた。


朝熊山上・野間万金丹前産の「母岩付きの武石」

下記の文献に自然銅として記載(誤記)された「武石の図」

 実はこの店の真ん前の路上に、一辺数ミリ程の 「武石」 の単晶が産していた。 よく探さないと見つからなかったが、2~3個見つけた記憶がある。
 明治期の書物や文献にその記載があって、鉱物の専門家らには産出鉱物としてかなり知れわたっていたのだが、最初の文献と思われる 「三重県管内鉱物属一覧・三重本草巻の29」 (北勢 鎌井松石 自著、発行年不明)には、「一種自然銅、度会郡朝熊岳、野間氏万金丹見世 前なる坂道、又渓間に産出す。」 とある。 これは今にすれば誤記であるが、図入りで紹介がなされているので、貴重な記録である。
 当時の採集品は無くしてしまったが、その後、拡幅されたこの路面にて、母岩付きのごく細かな標本を採集して来たが、現在は絶産となっている。


 鉱物採集の思い出を綴ると切がないので、上述の場所を除き、その頃よく行った当時の産地と、採集した鉱物種を記し、並びに近年の採集鉱物を付記し、その内の主な標本写真を掲載しておきます。


産地の消滅した藤里団地産の「ドーソン石」


産地の消滅した藤里団地産の「菱鉄鉱」


 ◆ 主な産地
  ・ 伊勢市白石山(褐鉄鉱。 現在は宇治山田高校のグランドになっていて、産地消滅)
  ・ 伊勢市藤里町・藤里団地の造成地(ドーソン石、菱鉄鉱、苦灰石、他。 現在は住宅街となっていて、産地消滅)
  ・ 伊勢市朝熊山上の山上広苑内の崖(異剥石の巨晶。 斑糲岩ペグマタイト脈中に晶出)
  ・ 伊勢志摩スカイライン中腹の崖(球顆状の水苦土石、絶産)
  ・ 伊勢市辻久留の通称 「論出の土採場」 (玉髄、蛋白石、苦灰石、方解石、黄鉄鉱、珪ニッケル鉱、他。 ほぼ絶産)
  ・ 伊勢市辻久留の宮川河床の礫岩層( 「くい違い石」 の産地。 繊維状の含ストロンチウム霰石)
  ・ 伊勢市円座採石場(繊維状蛇紋石、灰鉄柘榴石、方解石、透輝石、滑石、石綿、クロム雲母、他。 立入り禁止)
  ・ 伊勢市上野町・沼木中学校手前の道路のカッティング(滑石、蛇紋石。 産地消滅)
  ・ 伊勢市小俣町の大仏山( 「植物化石」 の産地。 亜炭、藍鉄鉱、白鉄鉱質団塊、琥珀。現在は 「県営大仏山公園」 となっている)

絶産となった大仏山産の「藍鉄鉱」


  ・ 伊勢市二見町松下のマンガン鉱山跡(二酸化マンガン鉱、黄鉄鉱、石英。 産地ほぼ消滅)
  ・ 伊勢市二見町溝口の切通し(黄鉄鉱、石綿、蛇紋石、石英、葡萄石、スチルプノメレーン、他。 現在は切通しが消滅)
  ・ 度会郡玉城町積良の滑石山(滑石。 滑石掘り場の跡で、産地は立ち消え)
  ・ 度会郡度会町栗原・栗原鉱山跡(菱マンガン鉱、バラ輝石、ベメント石、ヨハンセン輝石、二酸化マンガン鉱、他)

栗原鉱山跡希産の「菱マンガン鉱の結晶」


  ・ 志摩市磯部町の石灰岩採石場跡、及び通称 「廃窯の穴」 (方解石、緑簾石、各種の鍾乳石、菱マンガン鉱、他)
石灰岩採石場跡産の「鍾乳石を置換した菱マンガン鉱」
  ・ 志摩市阿児町立神・立神鉱山跡(含マンガン赤鉄鉱、二酸化マンガン鉱、他)
  ・ 志摩市阿児町裏城・裏城団地造成地(高師小僧、褐鉄鉱。 現在は住宅街となっていて、産地消滅)
  ・志摩市浜島町大崎・浜島鉱山跡( 「合歓の郷」 郷内の海岸にあった。 含マンガン赤鉄鉱、二酸化マンガン鉱、他)
  ・ 鳥羽市菅島・鶴田石材採石場(ソーダ珪灰石、ソーダ沸石、透輝石、霰石、含クロム灰礬石榴石、他)
  ・ 鳥羽市安楽島町安久志・志州鉱山跡( 「鳥羽シーサイドホテル」 下の海岸。 黄銅鉱、磁硫鉄鉱、孔雀石、珪孔雀石、他)
  ・ 鳥羽市船津町・鳥羽レストパーク付近(黄鉄鉱の単晶、金武石、緑簾石)
  ・ 鳥羽市河内町奥河内・鳥羽鉱山(黄鉄鉱の単晶、二酸化マンガン鉱、含マンガン赤鉄鉱、菱マンガン鉱、他)
  ・ 鳥羽市白木町・丸又鉱業採石場(ソーダ珪灰石、ソーダ沸石、葡萄石、バニア石、霰石、方解石、他)
  ・ 鳥羽市安楽島町白根崎付近の海岸(水晶。 主に砂岩中の石英脈に微粒が簇生)


 ◆ 近年になって採集した鉱物
  ・ 菱マンガン鉱(伊勢市矢持町菖蒲の、国見山鉱業の開発した 「伊勢鉱山跡」 から下ろした貯鉱場跡の鉱石中)
  ・ 珪ニッケル鉱(伊勢市上野町の河岸の露頭、及び度会郡南伊勢町河内の採石場)
  ・ 緑簾石の結晶(伊勢市上野町の河岸の露頭、及び度会郡南伊勢町河内の採石場)
  ・ 黄鉄鉱の美結晶(鳥羽市河内町の、第二伊勢道路の 「鳥羽河内トンネル」 の廃石中)
  ・ 蛋白石(度会郡南伊勢町河内の採石場、及び志摩市大王町名田の海岸 ~ 蛋白石化した漂礫)

名田の海岸産の「内部が蛋白石化した漂礫」


  ・ 碧玉の転石(度会郡度会町火打石の彦山川)

彦山川産の「碧玉脈を含む転石」


彦山川産の「研摩した碧玉(ジャスパー)」


  ・ 瑪瑙 ~ 玉髄質鉄石英の転石(伊勢市宇治今在家町高麗広の五十鈴川)
  ・ ジェットの転石(黒玉となる無煙炭。 度会郡度会町日向の一之瀬川)
  ・ 方解石の巨晶(度会郡南伊勢町村山の、国見山石灰鉱山の敷地内のズリ)
  ・ 鏡鉄鉱(赤鉄鉱。 度会郡南伊勢町河内の採石場)

南伊勢町河内の採石場産の「鏡鉄鉱」


  ・ 重晶石(度会郡度会町栗原・栗原鉱山跡)



栗原鉱山跡産の「重晶石含むマンガン鉱石」


上掲写真の「重晶石のアップ」のEP

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