六月に入って「入梅」となった。今月も、先月より続いていた好天と悪天の繰り返す日々が続いており、晩春から初夏にかけての天候としては、例年とはどこか違った感じがする。 五月には夏日があったと思えば、次の日は曇天や雨天で、その翌日にはまた天気が回復して五月晴れとなり、外気の気温差も甚だしく、かなり身体に堪えている。
さて、今はまだ梅雨前線が南の太平洋の海上にあり、前線に沿って発生した温帯低気圧が足早に東進を繰り返しているが、七月から八月にかけての今夏は、いったいどのような「夏の日」となるのだろうか …。
水石や鉱物採集も、今年は儘にならないでいるが、やはり夏の期間には納涼を兼ねて、良石の探石に近郊の河川や林道に分け入り、まぶしい程の夏陽 ( なつび ) を受けながら、体の動くうちに、趣味を介して心身のリフレッシュに努めたいものである。
今夏は、特に横輪川の未知の石溜りを見つけ、2 ~ 3個はこれと言った「名石」をゲットしたいと思っている。 歳のせいか、昨今は原産地の激減した鉱産地巡りよりは、人知れずの渓流の奥などで、意のままに水石趣味ならではの「探石」にチャレンジしようかと、密かな意欲の沸くのを禁じ得ないでいる。
さて、表題の「伊勢市の水石と美石鉱物」であるが、「水石」は何度も河川や林道奥の渓流を跋渉しない事には、良石には巡り遭えない。
「美石鉱物」の方は、もはや過去の産物でしか無く、かつての原産地の消滅がはなはだしく、伊勢市内の現存の鉱産地となると、ごく限られた場所しか無い。 新道の建設工事や新たなトンネルの掘削がない限り、目ぼしい鉱物には滅多にお目にかかれない。
真夏を前に、今回はこれまでに揚石をした秘蔵の「水石」と「美石鉱物」を、幾つか取り上げてみようと思う。
水石は、伊勢市内では五十鈴川の上流と、その支流の島路川が名石の宝庫であるが、いずれも神宮宮域ゆえに、公然とした探石はまず不可能で、親子連れの子供らの川遊びに入り混じって忍びで探すか、宇治橋より下流の川原を、時間をかけてじっくりと探すしかない。
自由に探石の出来る場所はと言えば、横輪川と朝熊川だけである。 宮川は何処の川原に降りても、丸っぽい「ごろた石」ばかりでつまらない。
横輪川は、五十鈴川とよく似た堆積岩の良石の宝庫でもあり、昭和の水石ブームの頃には、奥伊勢の五里山川や彦山川、小萩川、藤川 ( いずれも度会郡 ) などと共にかなりの名石が産し、爾来世に出回っている。
当地の主な水石は、赤鎧石、白鎧石、伊勢赤石、伊勢古谷石、紫雲石、龍眼石、石灰岩の五色石などであるが、これらの堆積岩類は、風化や河川の差別溶食 ( 溶解侵食 ) 等により、時には見事な滝石や段石、溜り石、島形石、遠山石などの「山水景石」の他、紋様石や形象石 ( 姿石 ) 等も産し、地元の愛石家や伊勢市内・外のコレクターらによって、かなりの名石が揚石され、秘蔵されている。
横輪町の交流施設の「風輪」(「道の駅」風のレスト・ハウス )には、小形の「水石」が置かれていて、販売もされている。
朝熊川では、大した水石は揚がらないが、奇抜な形状の「朝熊石」や、巨晶斑糲岩の「晶洞の転石」が流れ出ており、希に美石としての「異剥石」の群晶が得られる程度であり、岩石の種類も三波川変成帯の広域変成岩類と、朝熊山から流下した塩基性深成火成岩類の転石のみである。
伊勢市内で、かつて産した鑑賞石に値するレベルの「美石」としては、五十鈴川上流の高麗広産の「赤瑪瑙石」と「赤玉石」があるだけで、他には昭和40年頃に五十鈴トンネルの掘削工事で産出した、蛇紋岩に伴う「霰石」の美晶脈ぐらいである。 後は、結晶等のきれいな幾種類かの鉱物も、かつて市内の各地から産したが、いずれも標本程度のレベルに過ぎない。