伊勢市は、商店街や歓楽街等も含めた市の中心域が、市役所や近鉄宇治山田駅のある岩渕からJR駅前の吹上、さらに旧道沿いの岡本、外宮前の本町、そして一志、八日市場、宮町、一之木、大世古、曽祢、二俣、辻久留、常磐、浦口、中島、宮川、宮後、河崎、船江等の町街地となっている。
松阪方面から旧国道23号線(県道 松阪-鳥羽線)を伊勢に向かうと、やがて宮川の度会橋に至るが、この橋を渡ると沿道の景色が一変して、市街地へと入る。市街地に通じるこの幹線道路は、度会橋から真っ直ぐ東方の伊勢市駅前まで続き、駅前で右折してすぐ南の外宮前に至る。
外宮前からは、岩渕を通り内宮前に至る御幸道路と、岡本から尾上を通る旧道(参宮街道)に分岐し、拡幅された旧道は外宮の神苑の前を過ぎると、さらに内宮手前の猿田彦神社の辺りまで続く御木本道路に分岐する。市街地はこれらの幹線道路に沿って発展して来ているので、だいたい宮川から勢田川までの間の、JRと近鉄線の沿線と言う事が出来る。
その背後には、伊勢神宮・外宮の宮域を成す山地(深山、御山・みやま)や世儀寺山(瀧浪山)などがあって、緑豊かな森林の緑地となっている。
伊勢市の人口は約10万人強で、かつては大神宮(外宮・内宮)の観光と、商業や農・林業中心の小都市であったが、昨今ははっきりしなくなった。しかし、伊勢市は何と言っても、両神宮の鎮座するかつての「神都」である。
隣接町・村との合併前までは、伊勢神宮の宮域が市の面積の約3分の1を占めていた。その殆どが宮域林であるが、市街地の中のまとまった緑化地帯と言えば、外宮神苑や、徴古館・倭姫宮~伊勢球場にかけての倉田山公園、内宮に隣接の五十鈴公園の他は、月読宮や各神社・寺社の小規模な雑木林ぐらいである。
新緑の息吹く春先から初夏の頃に、雑木林を縫ってゆったりと森林浴に浸りながら散策の出来る自然公園は、市街地には皆無と言ってよい。
近年になって、市町村の統廃合で隣接する度会郡の小俣町、御薗村、二見町が伊勢市に編入合併された。この結果、既述のような散策の出来る自然公園が幾つか増えはしたが、市街地からはかなり距離があって、どこもかも不便である。
ここで、町なかにある児童・少年らの遊び場スペースや遊具のある公園、並びに幹線道路沿いの小公園を除き、自由に散策の出来る伊勢市内の緑化・整備された自然公園らしき場所を拾い上げ、出来るだけ記してみよう。
外宮神苑(勾玉池の周辺) ・ 内宮神苑 ・ 徴古館界隈 ~ 倉田山公園 ・ 五十鈴公園 ・ 朝熊山上広苑 ・ 音無山公園(二見町) ・ 宮川親水公園(小俣町) ・ ラブリバー公園(御薗村) ・ 離宮院公園(小俣町) ・ 県営大仏山公園(一部が小俣町) ・ 三郷山公園(辻久留町)
以上であるが、かつて森閑としていたこの内の幾つかは、樹木が伐採されスポーツ施設や資料館等が出来るなど、人の往来も頻繁で随分騒々しくなってしまった。それ以外は、交通の不便さもあってか、案外知られていない場所もある。
六月も終わりに近づいた27日、朝から真夏日を思わせるような梅雨晴れの上天気となったので、離宮院公園をぶらついてみた。
離宮院公園は、JR宮川駅の南側にあり、 駅裏の道路を挟んで「官舎神社」(かんしゃじんじゃ)と一体となった常緑樹林が、東西に400mほど細長く続くが、この東半が主に「離宮院公園」である。
市民に開放された園内には、ちょっとした「梅林園」があって、初春の頃は「梅の名所」として知られているが、それ以外のシーズンは殆ど散策する人も無く、林間を東西に貫く官舎神社の参道や、芝生と雑草の遊歩道を辿ると、木立が日光を遮るものの、園内は木漏れ陽が眩しく、人気(ひとけ)が無くひっそりとしている割りには、かなり明るい。
この日は、早々(はやばや)とニイニイ蝉が鳴いていた。
この公園は8世紀末に創設され、その昔、斎王が斎宮から伊勢神宮に行幸する途中に宿泊した施設の跡地である。入口は宮川駅南口の真ん前で、駐車場があり、右手の隅にその説明板がある。
園内に入ると芝生広場があり、すぐ東方に「飛舟」と記された石のモニュメントがあり、参道の東口寄りには「梅林園」や「力藤」と記された藤棚などがある。遊歩道の各所に立て札や案内板があり、トイレや給水場、ちびっ子広場も設置されている。 園内へは、参道の東西の入口からも出入りが出来る。
帰りには、交通安全の霊験あらたかな、参道西口寄りの「官舎神社」に参拝した。
小俣町は、伊勢市の市街地からみれば郊外であり、外宮神苑の勾玉池の周りを自由に散策出来無くなってしまった今、離宮院公園ほどの緑地スペースが伊勢の市街地の真ん中にあればと、ふと思ってみた次第だ。