年が明け、1月が過ぎ、2月に入って早や立春も過ぎた。春間近な寒梅の季節である。伊勢の街は今が一番寒々とし、底冷えがする。しかし、奥志摩に行くと、北西の季節風が紀伊山地から続く奥伊勢の山々にさえぎられてか、少しは暖かいはずなのだが、今年は南からの海風も何故か冷たい。 道端には、枯れ果てた浜木綿の球根がむき出しになっており、海岸道路から少し奥まった山あいに入ると、こじんまりとした谷地いっぱいに築かれた棚田も乾燥しきっており、周囲には葉を無くした冬枯れの雑木が居並び、殺風景なこの季節をひっそりと物語っている。野鳥もヒヨドリだけが盛んに鳴いている。
やはり、冬の風物となると、まず荒磯から眺める真っ青な奥志摩ならではの海原であろうか。 浜島から宿田曽に辿っても、岬角間の砂浜には誰もいない・・・。コンクリートの防波堤に干してあるワカメが、冬の奥志摩ののどかさを示してはいるが、真夏のような観光客など一人としていない。あの真夏の賑わいがウソのようである。 二月の上旬、好天に誘われ冬の奥志摩へと車を走らせた。
田曽浦漁港の外れの防波堤には、磯釣りの天狗たちが何人か釣糸をたらし、磯の大ものを狙ってか、気長に糸先の浮を眺めている。誰もが完全武装の防寒着である。大潮前の中潮(なかじお)ゆえ、魚類も根魚ぐらいで、余り動かないのか、半時間ほど車中から眺めていたが、いっこうにかからない。今の時期はメバルかアイナメぐらいであろうか。餌取りの小っぱグレ(メジナの小魚)では仕方が無い。余り釣果はなさそうだ。
ここは、年間を通して磯釣りの本場、著名な大物磯魚のメッカであり、平日でも釣り人たちが車を乗りつけている。我が輩もかつては、磯釣りに興じた事もあったし、素もぐりで魚を突いたり鮑を採ったりした事もあった。
冬の風物詩としては、まあこんなところであろうか・・・。
ここ田曽岬に続く荒磯は、山地の崖崩れが一段と進行し、海食崖形成の進行現場でもあるのだ。