伊勢志摩の名著「潮騒」
伊勢志摩の文学書といえば、三島由紀夫の小説「潮騒」(初版:昭和29年・新潮社)はあまりにも有名である。何度も映画化され、神島(鳥羽市)でのロケの度に話題を提供してきた。神島を舞台に、島の若い男女の純愛を描いたこの青春ものの純文学小説は、伊勢・志摩の文学史においては追随を許さず、その後ほかに類例を見ない。神島の風土や生活も地方色豊かに的確に描写され、かつ絶妙であり、真に優れた作品である。
あふれる程ある「伊勢志摩」の本
それが大衆文学となると一変し、当地方は旅情エッセイや旅行ガイド・ブックがあふれ、推理小説(トラベル・ミステリーを含む)ともなると、売れっ子作家達が雨後の筍のように、次から次へと新書や文庫本を出版し、新刊書店のみならず、古書店に行ってもあふれきっている。 西村京太郎しかり、内田康夫しかりであり、書き出せば切りが無い。
伊勢志摩は、名作を生む素材の宝庫
さて、この伊勢・志摩地方の数多い文学書や郷土史・誌等の中で、これはすごく良いと思うスグレモノの名著を、筆者の郷土資料と古書コレクションの中から何冊か紹介しよう。
当地方の文学関係書のリストは、かつて鵜方に近鉄興業経営の「志摩民俗資料館」があった頃、平成3年の新春特別展で「 志摩の文学と風土 1 」として紹介され、当時、そのリストを掲載したガイド冊子が出されている。著名作家を拾い出すと、三島由紀夫、江戸川乱歩の他、石坂洋次郎、井上靖、田山花袋、吉川英治、森 鴎外、佐々木信綱、壺井栄、林 恵美子、山口誓子、伊良子清白、岩田準一、柳田国男、串田孫一、西村京太郎、島田莊司、山村美紗など、そうそうたる作家が出揃い、当地方をテーマにした小説や紀行文、エッセイ等を、ふんだんに執筆していることが伺える。
無論、郷土誌家や地元の研究者のほか、無名作家の作品も数多くあり、伊勢・志摩地方はライター(作家・文筆家)にとっては、素材の宝庫とも言える場所なのである。
「伊勢すずめ」が選んだ、伊勢志摩のベスト書
当地方の郷土資料や古書に目を通すと、このような無名作家達の、一般には知られていない名作に接する事が少なくない。筆者「伊勢すずめ」が、それぞれ「ベスト3」として年代順にピック・アップした、以下のリストを参照されたい。
- 古文書
- 伊勢参宮細見大全(和本、明和三年・芙蓉山人 著)
- 伊勢参宮名所図会(原本和本、初版:寛政九年・なはの海驢 著。復刻版あり)
- 伊勢参宮道中獨案内(版字本、明治二十二年・有馬百鞭 著)
- 郷土誌
- 伊勢名勝志(明治二十二年・宮内黙蔵 著。復刻版あり)
- 度会郡誌(明治三十年・小川稠吉 著)
- 二見名勝誌(大正二年・坂本徳次郎 編集)
- 旅行案内
- 両宮案内(大正貮年・川原松聲 編集)
- 志摩巡り(昭和四年・上野梅吉 著)
- 旅の絵本 伊勢志摩-伊勢志摩全域観光絵地図-(1985年・高橋光生 執筆兼イラスト。観光案内図集)
- 郷土選書(伊勢すずめの選ぶ郷土の名著)
- 二見名所考(昭和三年・松本正純 著)
- 志摩の地名の話(昭和二十六年・中村精貮 著)
- 真珠の博物誌(2002年・松月清郎 著。新刊書)
- 旅行記・旅情紀行文、他
- 近畿景観・第九編「伊勢志摩」(昭和十七年・北尾鐐之助 著)
- 伊勢志摩 吉野熊野-国立公園紀行 第二編-(昭和30年・北尾鐐之助 著)
- 志摩-文学小旅行-(近鉄沿線風物詩 文学7 。昭和42年・近畿日本鉄道・宣伝部 編集・発行)
- 文学小説・文学書、他
- 潮 騒(三島由紀夫 著・初版:昭和29年)
- 志摩の海女(岩田準一 著・昭和46年)
- 伊勢・志摩の文学(橋爪 博 著・昭和55年)
- 学術書、学術ガイド書
- 志摩の民俗(上巻、及び下巻。昭和44年・鈴木敏雄 著)
- 伊勢志摩の自然観察(昭和52年・財団法人 日本自然保護協会発行)
- 志摩地方地学のガイド(1985年・南平秀生 著。学術冊子風のガイド・ブック)
下の画像写真は、上から
- 日本自然保護協会発行 伊勢志摩の自然観察
- 研成社発行 真珠の博物誌
- 志摩巡り
- 旅の絵本 伊勢志摩