語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~

2013年03月17日 | 社会
 (1)TPPは、「産業の空洞化」を最も促進する。日本国内の雇用は減る。日本に工場が残っても、海外からの安い雇用が増える。今までになく日本人の雇用が失われる。
 米国の最近の世論調査でも、69%がTPPもFTAもやめてほしい、と回答した。なぜなら、雇用が失われるから。米国では儲かるのは「1%」の人々であることが理解されている。

 (2)なぜ「1%」の利益が尊重されるのか。
 米国においては、その選挙資金がないと大統領になれない政治家、「天下り」、「回天ドア」(食品医薬品薬局の長官と製薬会社の社長が行ったり来たり)で一体化している一部の官僚、スポンサー料でつながる一部のマスコミ、研究費でつながる一部の学者などが「1%」の利益を守るために国民の99%を欺き、犠牲にして顧みないからだ。
 日本も同じだ。すでに、そうした人々の圧力により、規制緩和の嵐の中で、大店法を撤廃し、派遣労働を緩和した。全国の駅前商店街はシャッター通りになり、所得が200万円に満たない人々が続出している。
 以前の自公政権がやろうとした極端な規制緩和は、若者を含む多くの雇用を奪い、地域の商店街を潰し、地域医療も崩し、人々が支え合う安全・安心な社会を揺るがした。
 その結果、3年前に「ノー」を突きつけられたはずだが、性懲りもなく、「経済財政諮問会議」「産業競争力会議」「規制改革会議」などを復活し、大手企業の経営陣とそれをサポートする市場至上主義的な委員を集め、「規制緩和を徹底すれば、すべてうまくいく」という時代遅れの方向性を強化し、それを貫徹する「切り札」としてのTPPを「ごり押し」しようとしている。

 (3)TPPは史上最悪の選択肢だ。
 TPPで食料自給率が13%になったら、国民の命の正念場だ。医療崩壊、雇用減少、損失は過去最大だ。しかも、得られる経済利益はアジア中心のどのFTAよりも小さい(内閣府の試算)。
 TPP推進者は、具体的なメリットも日本の将来構想も示していない。示せないのだ。ひとたび、すべてを撤廃するTPPに乗れば、他の柔軟な協定(日中韓やRCEP)ができなくなってしまう。
 TPPのメリットがないことは関係者にもわかっている。分かっていながら、原発での失政や、国内経済政策の失敗から国民の目先をそらして自己防衛するために、TPPにバラ色の未来があるかのように偽って推進することは、自己の目先の利益と保身と責任転嫁のために、国の将来を売り飛ばすようなものだ。

 (4)TPPの内容を知りたいなら、韓米ETAを見てくれ、と米国は日本に対して2年前に示唆した。日本政府は、慌てて「韓米FTAを国民に知らせるな」と箝口令を敷いた。
 実は韓国政府も韓国国民に韓米FTAの内容を隠し続け、批准の直前に言わざるを得なくなって、韓国中が騒然となった。もう1日置いたら10万人、20万人規模のデモになってしまうことが分かったので、その前日に、催涙弾を投げ込まれても、与党単独で強行採決に踏み切った。
 韓米FTAには、いまTPPで問題になっている事項がすべて入っている。
 しかも、韓米FTAにおいては、交渉開始のための「頭金」として支払ったのが、①遺伝子組み換え食品について米国が大丈夫といったものは自動的に韓国でも受け入れる、②国民健康保険が適用されない米国の営利病院が認められる医療特区をいくつも作る、③BSEに関わる輸入牛肉の条件緩和、などだ。
 「頭金」を支払ったら抜けられない、と韓国は日本に警告しているのだが、日本政府は国民に知らせずに「頭金」を払って入れてもらおうと必死に画策を続けてきた。

 (5)条件闘争では立ちゆかない。かつ、関税だけでなく、日本独自のルールが非関税障壁として否定され、国民生活全体に多大な損失をもたらす。ひとたび受け入れてしまえば、取り返しがつかない。

 (7)全国の多くの地域がTPPに反対している。賛成する都道府県知事は、6人しかいない。都道府県議会は、47分の44が反対または慎重の決議をしている。市町村議会の9割が反対の決議をしている。だから、自民党議員の6割が反対を唱えている。
 全国各地の地域社会の声が、東京中心のメディアの発信では、ほとんど伝わらない。

□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「許しがたい背信行為 ~この国に未来はあるか~」(「世界」2013年4月号)

 【参考】
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~

2013年03月16日 | 社会
 (1)米国では、1%が米国の富の40%を握る。そのごく一部の多国籍化した巨大企業が、米国でも世界中でも格差社会に広義するデモが起きてやりにくくなってきたのを打開するために、時代の流れに逆行して、TPPによって無法ルール地帯を無理矢理に世界に広げることによって儲けようと推進しているものだ。
 TPPは、米国の巨大企業中心の「1%の1%による1%のための」協定である。大多数を不幸にする。

 (2)政策・制度は、相互に助け合い支え合う社会を形成するためにある。「1%」の人々の富の拡大には邪魔だ。だから、米国のいわゆる「競争条件の標準化」の名の下に、相互扶助制度や組織(国民健康保険・共済・生協・農協・様々な安全等)を、国境を超えた自由な企業活動の「非関税障壁」として攻撃する。
 攻撃を貫徹する切り札として、公平な社会を守るセイフティーネット、人々の命を守る安全基準や環境基準までも、自由な企業活動を邪魔するものとして、国際裁判所(米国の傘下)に提訴して損害賠償や制度の撤廃に追い込める「ISD条項」が準備されている。
 地方自治体の独自の産業振興策(<例>学校給食の食材は地産地消で)も攻撃される。地方自治否定の「競争条件の平準化」だ。
 ISD条項が実際に発動されなくても、威嚇効果を狙っている。
 地方自治行政の存在意義そのものが喪失しかねない。

 (3)韓米FTAで、韓国は、国民健康保険が適用されない米国の営利病院が認められる医療特区をいくつも作る、といった譲歩を行った。

 (4)米国は、北米自由貿易協定(NAFTA)で、メキシコやカナダに対してISD条項を使って、セーフティネットや安全基準、緩急基準までも、自由な企業活動を邪魔するものとして国際裁判所に提訴し、損害賠償や制度の撤廃に追い込んだ。
 ISD条項を用いれば、米国の保険会社は、日本の健康保険制度を「参入障壁」だとして提訴することで、損害賠償の獲得と制度撤廃に追い込める。
 日本の薬価決定に米国の製薬会社が入り、薬の特許も強化され、安価な薬の普及ができなくなり、国民健康保険の財源が圧迫され、崩されていく。
 すでに長年、米国は日本の医療制度を攻撃し、崩してきている。この流れにとどめをさすのがTPPだ。TPPで攻撃が止まるわけがない。
 ケガをしても病気になっても病院で門前払いされる無保険者が5,000万人に達する米国医療が、明日の日本の姿になる。

 (5)TPPで遺伝子組み換え(GM)食品がさらに広がる。
 GM食品などについて、米国が科学的に安全と認めたものを表示するのは消費者を惑わすから止めるよう、豪州、ニュージーランドもTPP交渉の中で米国から求められている消費者の選択の権利が失われる。
 GM種子の販売は、米国の穀物メジャー数社のシェアが大きい。特許で守られているから、農家はそれまで自家栽培してきた種を、毎年高い値段で買い続けなければならなくなる。そのための借金などが途上国の農村経済に暗い影を落としている(インド農村における自殺率の上昇)。
 GM種子は、飛散して在来種を「汚染」していく。
 TPPでGM農産物がさらに広がっていくと、世界の食料・農村は米国の穀物メジャーによってコントロールされていく危険性がある。

 (6)ポストハーベスト農薬(防腐剤や防カビ剤など)も日本の基準は厳しすぎるからもっと緩めるよう、米国から求められている。
 TPPによって米国自身が日本の基準をチェックして変えられるシステムに変更することに執念を燃やしている、とマランティスUSTR次席代表は2011年12月の公聴会で発言している。
 ISD条項による提訴も想定される。
 すでに米国からの要求で次々に基準緩和をしているのだから、TPPがこれを加速し、とどめを刺す。

□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「許しがたい背信行為 ~この国に未来はあるか~」(「世界」2013年4月号)

 【参考】
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【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~

2013年03月15日 | 社会
 (1)自民党は、公約に書いたことは行わず、書いていないことを実行しようとしている。前政権とそっくりに。
 地域の民意を受けて6割を超える議員がTPP反対と訴えていながら、一部の官僚と官邸が暴走しつつある。有権者に対する信じがたい背信行為だ。

 (2)2月22日の共同声明は、「全品目を交渉対象として、高い水準の協定をめざす」ことを確認した上で、「交渉に入る前に全品目の関税撤廃を一方的に求めるものではない」と形式的には当たり前のことを述べているだけで、「例外があり得る」とは言っていない。
 にもかかわらず、安部総理は、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃を前提としないことを明示的に確認した」と称し、残された自動車の規制緩和などの「前払い金」交渉を早急に詰め、TPP交渉に向けて舵を切ろうとしている。

 (3)TPPでは、「すべての関税は撤廃するが、7~10年程度の猶予期間は認める」との方針が合意されている。米国は、乳製品と砂糖について、豪州、ニュージーランドに対してだけ難癖をつけて例外扱いにしようとごり押ししているが、両国は反発、かかる例外を認めるならTPPに署名しない、と言っている。圧倒的な交渉力を持つ米国でさえ例外が認められそうもないのに、日本がどうやって例外を確保できるのか。
 そもそも「聖域」とは何か。コメだけでも例外にするのは不可能に近い。今まで日本が「聖域」にしてきた(関税分類上の)840品目を守ることは不可能だ。全国の地域コミュニティ崩壊は避けられない。
 日本にとっての「聖域」は到底守られない。「聖域なき関税撤廃」は回避できない。

 (4)日本がどの段階で交渉に参加しようが、法外な「入場料」だけ払わされて、ただ、できあがった協定を受け入れるだけで、交渉のの余地も逃げる余地もない。
 米国は、「日本の承認手続きと現9ヵ国による協定の策定は別々に進められる」と言っている。最近、米国がメキシコやカナダの参加を認めたときも、屈辱的な「念書」が交わされ、「すでに合意されたTPPの内容については変更を求めることはできないし、今後、決められる協定の内容についても口は挟ませない」ことを約束させられている。

 (5)共同声明では、「自動車部門や保険分野に関する残された懸案事項」について、日本が早急に「入場料」を支払うよう明記された。「その他の非関税措置」についても対処を求められた。「入場料」だけ一方的に求められるようなものだ。
 「入場料」交渉については、国民にも国会議員にも隠されてきた。今回の共同声明で「公然の秘密」となった。「情報収集のための事前協議」とウソを言い続け、水面下では自動車、郵政、BSEの規制緩和など、米国の要求する「入場料」に対して必死で答える裏交渉を煮詰めてきた。
 自動車については、ゼロ関税の日本市場なのに、「米国車に最低輸入義務台数を設定せよ」と「言いがかり」の要求を突きつけられている。これを国民に知らせて、あからさまに議論したら、日本国民も猛反発するに違いないから、所轄官庁が極秘に譲歩条件を提示している。隠蔽の責任をとれるのか、と良識ある官僚が迫れば、「はき違えるな、我々の仕事は、国民を騒がせないことだ」と言われる始末だ。
 日本が「頭金」を払ったと米国が認めたときが、実質的な日本の「参加承認」だ。東アジアサミット(昨年11月)で日本の「決意表明」が見送られたのは、国民の懸念を反映したからではない。まだ米国が「頭金」が足りない、と言っているからだ。

 (6)総選挙における自民党の公約は6項目あった。「聖域」問題はもちろん、ほかの公約も守られる保証はない。
 それどころか、「自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない」と公約しながら、共同声明では、逆に、日本の交渉参加の承認条件の一つとして「前払い」することを確約させられている。
 他方、米国の自動車関税2.5%は、米国側から猶予期間を要求されている。
 「国民皆保険制度を守る」「食の安全基準を守る」「国の主権を損なうおゆなISD条項は合意しない」という公約も守られる保証はない。
 TPPは、関税だけの問題ではなく、「規制緩和を徹底すれば、すべてはうまくいく」という「時代遅れ」の方向性を強化し、若者を含む多くの雇用を奪い、地域の商店街を潰し、地域医療も崩し、人々が助け合い、支え合う安全・安心な社会を揺るがす「切り札」だ。

□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「許しがたい背信行為 ~この国に未来はあるか~」(「世界」2013年4月号)

 【参考】
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【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加

2013年03月14日 | 社会
 (1)公的医療保健制度が揺るがされることを懸念している。①薬価や医療技術、②私的医療保健、③株式会社の参入・・・・の3つが対象になれば、国民皆保健の崩壊につながる。【横倉義武・日本医師会会長、2月27日の記者会見】
 米国企業が病院経営に乗り出すと、人材や設備のコストを削減し、儲かる分野に注力して利益拡大を図る。日本で医療保険ビジネスを展開するためには、公的保険制度が“民業圧迫”し、邪魔となるため、制度変更を求める。さらに、保険対象の診療と保険対象外の自費診療を並存させる「混合診療の全面解禁」も要求する。
 混合診療が全面解禁されると、高度な医療技術や新薬の保険適用化がなくなり(自由診療のままとなり)、国は喜び(国庫負担が減る)、民間も喜び(医療保険が売れる)、結果的に最先端の医療はカネのある人だけのものとなる。カネのない人は、薬を7日分出すべきところを3日分にしたりすることになる。今でさえ、国民健康保険料を払えないため、保険証を持っていない人が、そうした状態にある。TPP参加後は、「規制緩和」の名の下に、まるで米国のように、普通の人がいい治療を受けられなくなる。

 (2)マイケル・ムーア監督『シッコ』(米、2007)に、こんな場面がある。
 事故で指を2本切断した大工が、医師に言われる。「薬指を付けるには12,000ドル、中指は60,000ドルです」。医療保険に加入していなかった大工は、薬指しか元に戻らなかった。
 映画では、入院代を払えない患者が、点滴のチューブがついたままの状態で路上に捨てられる場面も映し出されている。
 医療保険に加入していないため、歯医者に行けず、歯痛をじっと我慢し続ける人もいる。
 低所得者向け医療制度はあるが、問題は、普通に働いている中流の米国人が、高額の医療保険に加入しないとまともな治療を受けられないことだ。

 (3)米校の医療保険会社が参入したら、日本人の医師が保険診療をやりたがらなくなって、カネになる自由診療に専念する人が続出しかねない。
 医学部では医師1人を養成するのに数千万円をかけている。国立大学なら、大半は税金だ。国民の血税のおかげで医師になりながら、儲かるから、と美容専門の皮膚科医になる人が今でもいるのだ。私的医療保険がメインになれば、もっと激しくなるのは目にみえている。

 (4)TPP参加で、価格が安い後発医薬品(ジェネリック)も危惧される。
 先発品と同じ成分で、薬価を抑制する切り札だが、元の新薬を開発した米国の製薬会社の利益にならないため、米国側は「知的財産権」を盾にジェネリックつぶしを図っている。
 米国側は、後発会社がジェネリック医薬品をつくる際に再び一から治験をやって臨床データを出させるよう制度変更を要求してくる模様だ。そんなコストをかけていては安価な薬はできない。つまり、米国の望みどおりの協定が締結されたら、ジェネリック医薬品は消えてなくなるおそれがある。【厚生労働省関係者】
 ジェネリック医薬品は、特に発展途上国では裕福でない人の強い味方になっている。<例>エイズ治療薬。2002年には一人当たり年間10,000ドルかかったが、10年後には同じ成分のジェネリックによって年間60ドルで投与できるようになった。価格が100分の1以下になったことで、600万人以上が治療を受けられるようになった。日本政府がTPP交渉で途上国の患者に及ぼす影響を適切に考慮しなければ、これまでの進歩が台無しになる。【「国境なき医師団(MSF)

□奥村隆(本誌)「医療制度崩壊を招くTPP参加」(「サンデー毎日」2013年3月17日号)

 【参考】
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
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【震災】復興利権を狙う米国
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【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~

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【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~

2013年03月13日 | 社会
 (1)私立正智深谷高校(埼玉県深谷市)と派遣会社「イスト」(東京都渋谷区)は、非常勤講師を違法な偽装請負で働かせ、昨年9月に東京労働局から是正指導を受けた【注】。

 (2)これらを告発した非常勤講師(20代)は、3月4日、両者を相手どり、自らの正規職員としての地位確認と、450万円の未払い賃金支払いなどを求めてさいたま地裁に提訴した。
 偽装請負で働かされた教員が高校を訴えたのは、日本では初めて。【原告側弁護士】

 (3)2008年にイストに登録した原告は、同社と業務委託契約を結び、2010年4月から正智深谷高校に勤務。
 業務委託の場合、請け負った側が自己の裁量で仕事を進めることが前提。
 しかるに、原告ら同校の業務委託講師は、授業の進め方などを学校から直接指揮命令されていた。また、試験問題の作成や採点など、契約外の業務も課されたにも拘わらず、「コマ契約」ゆえにこれらの対価はゼロだった。直接雇用の人たちとまったく同じ働き方だったにも拘わらず、年収は160万円だった。

 (4)原告は、こうした働き方に疑問を覚え、昨年1月、当時の校長に直接雇用の非常勤講師として採用するよう打診。学校側もいったんは受諾し、契約書を取り交わした。しかるに、その後学校側は、「イストとの信義に反する」などの理由で反故にし、ついで業務委託の契約更新も拒否した。【原告】

 (5)同校では、この後、業務委託講師を派遣契約に切り替えた。
 その時点で学校から排除されていた原告自身は、今も救済対象外だ。

 (6)全国の私立学校で、少なくとも140人の派遣や請負の講師が存在する。【全国私立学校教職員組合連合の調査、2012年実施】
 派遣は合法とされているが、学校の先生まで派遣でいいのか、問題提起したい。【原告】

 【注】「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負

□古川琢也「偽装請負を告発した非常勤講師 高校と派遣会社を提訴」(「週刊金曜日」2013年3月8日号)
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【社会】「教員駆け込み退職」と地方自治の不具合

2013年03月12日 | ●片山善博
 (1)埼玉県では、3月に定年退職を迎える教職員のうち、1月中に退職した者が100人を超えた。
 上田清司・埼玉県知事は、記者会見で、早期退職を申し出た教職員たちに不満を述べた。
 下村博文・文部科学大臣も憤った、と伝えられる。
 埼玉県だけではない。他の多くの府県や大都市でも似たようなことが起こった【注】。

 (2)埼玉県の2012年12月県議会で「職員の退職手当に関する条例」が改正された。これが、埼玉県における事の発端だ。改正の結果、<例>勤続35年以上の職員が3月末に退職した場合、改正前の水準より退職手当が約150万円減額されることになった。ただし、1月末までに早期退職すれば、減額されない(満額支給される)。
 これは、企業における人員整理と同じ手法だ。Xデ一までに辞めてくれ、というメッセージをこめて、「Xデ一までに早期退職すれば退職金を割り増す」or「Xデ一までに退職しなければ退職金を減額する」。
 埼玉県の条例も同じメッセージを発している。Xデ一よりも後(2月以降)も在籍するなら減額というペナルティが科せられるからだ。
 よって、埼玉県知事の教職員批判は、支離滅裂と言うしかない。企業の整理解雇の募集に応じて早期退職した社員に対し、当該企業が「無責任だ」と非難するようなものだから。

 (3①)国家公務員退職手当等の一部改正と、②埼玉県のくだんの条例改正と、制度はほとんど同じだ。しかし、ハッキリ違う点がある。
  (a)施行時期の違い。①は本年1月から、②は本年2月から、と1ヵ月のズレがある。その結果、(2)の<例>によって試算すれば、
    ①の場合、1~3月分の給与および3月のボーナスを貰うから、早期退職のメリットはない。
    ②の場合、2ヵ月分の給与とボーナスで、その合計額は150万円を下回る。・・・・まさしく3月まで働いた者がペナルティを課されるわけだ。これが理不尽なことは、子どもでもわかる。要するに、埼玉県知事の知的能力は低かった。

  (b)国は自治体と違って現場部門は多くない。特に義務教育の分野における教職員の数はわずかだ(<例>国立大学附属小中学校)。
 他方、地方公務員の中で最も数が多いのは小中学校の教員だ。
 自治体が国の制度に倣うのであれば、こうした彼我の違いに十分注意する必要がある。埼玉県知事は、その注意を怠った。

 (4)この条例を最終的に決めたのは、埼玉県議会だ。その議事録を見ると、反対意見にさえ、早期駆け込み退職を助長し、教育現場を混乱させかねない危惧や懸念には触れられていない。肝心のことに思いが至っていない。
 議会は原案のまま条例を成立させた。議会のチェック機能はまるで果たされていない。
 議会がチェック機能を果たさないのは、この件に限らない。その原因の一つは、地方議会が総じて執行部の説明しか聞かないからだ。この議案は問題だらけだ、などと執行部の職員が説明するはずはない。問題があるか否かは、議員自らが検証しなければならない。
 その検証を行うには、当事者(本件の場合は定年退職者・学校長・保護者など)が住民の意見を聞いてみればよい。.そのために、地方自治制度には公聴会や参考人質疑の仕組みが用意されている。この仕組みを実施していれば、この条例の問題点が明らかになったはずだ。
 全国の地方議会では、公聴会や参考人質疑はほんど活用されていない。当事者や住民の意見を聞く・・・・これこそ、昨今あれこれ議論されている議会改革の第一歩だ。

 【注】「【社会】「かけこみ退職」に走る教育現場の実情 ~退職金減額に対する自衛策~

□片山善博(慶大教授)「「教員駆け込み退職」と地方自治の不具合 ~日本を診る 42~」(「世界」2013年4月号)
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【本】『モサド・ファイル』 ~検証~

2013年03月11日 | 社会


 佐藤優は、外務省のインテリジェンス業務の一環としてモサドとも交渉し、当時の長官エフライム・ハレヴィとも親交があったらしい【注1】。
 そのハレヴィの回想録【注2】『モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」』が出たあたりから感じていることだが、イスラエルという国あるいはモサドは、内部で過去を検証しているのか、公開できる事実は公開することを恐れなくなったらしい。
 内部告発【注3】を圧力をかけて出版を差し止めようとした頃とは変わったのか。
 むろん、外部のジャーナリスト【注4】や歴史家【注5】によるモサド研究は数多い。
 しかし、マイケル・バー=ゾウハーらによる本書は、イスラエルという国の内部から、そしてその国のインテリジェンス活動に関わった人が、モサドの活動の歴史となった部分を記しているのが本書だ。参考文献およびソースが非常に多い。ヘブライ語の文献はわざわざ英訳してある。
 ミュンヘン事件とそれに対するモサドの活動についても、ノンフィクション【注6】と本書とを比較すると、やはり本書は歴史を描こうとしている、と思う。

 【注1】「【読書余滴】佐藤優の、上司と部下の危険な関係
 【注2】エフライム・ハレヴィ(河野純治・訳)『モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」』(光文社、2007)
 【注3】「書評:『モサド情報員の告白』
 【注4】「書評:『憂国のスパイ -イスラエル諜報機関モサド-』
 【注5】「【読書余滴】イスラエルのインテリジェンス・コミュニティ」  「書評:『モサド -暗躍と抗争の六十年史-』 ~インテリジェンスと国家~
 【注6】「書評:『標的は11人 -モサド暗殺チームの記録-』

□マイケル・バー=ゾウハー/ニシム・ミシャル(上野元美・訳)『モサド・ファイル ~イスラエル最強スパイ列伝~』(早川書房、2013.1)

 【参考】マイケル・バー=ゾウハーの著作
(村社伸・訳)『過去からの狙撃者』(:ハヤカワ文庫、1978)
(:田村義進・訳)『二度死んだ男』(:ハヤカワ文庫、1978)
(:田村義進・訳)『エニグマ奇襲指令』(:ハヤカワ文庫、1980)
(広瀬順弘・訳)『パンドラ抹殺文書』(:ハヤカワ文庫、1981。後に2006)
(広瀬順弘・訳)『ファントム謀略ルート』(:ハヤカワ文庫、1982)
(広瀬順弘・訳)『復讐のダブル・クロス』 (:ハヤカワ文庫、1983)
(広瀬順弘・訳)『真冬に来たスパイ』 (:ハヤカワ文庫、1986)
(広瀬順弘・訳)『無名戦士の神話』(:ハヤカワ文庫、1988)
(広瀬順弘・訳)『悪魔のスパイ』(:ハヤカワ文庫、1994)
(広瀬順弘・訳)『影の兄弟』(:ハヤカワ文庫、1998)
(横山啓明・訳)『ベルリン・コンスピラシー』(:ハヤカワ文庫、2010)
(水木光・訳)『ダッハウから来たスパイ』(:ハヤカワ文庫、1986)
(広瀬順弘・訳)『復讐者たち』(:ハヤカワ文庫、1989)
(横山啓明・訳)『ミュンヘン -オリンピック・テロ事件の黒幕を追え』(:ハヤカワ文庫、2006)
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【原発】除染効果は疑問、避難生活で疲弊 ~原発周辺住民8万人~

2013年03月10日 | 震災・原発事故
 (1)「週刊ダイヤモンド」今週号の「特集2」は「大震災2年の試練 復旧か復興か」。
 (a)「漂流するまちづくり」、(b)「遠い産業復興への道」、(c)「福島の現実」・・・・の3つの視点から切り込む。

 (2)(1)-(c)の副題は「効果に疑問符の付く除染事業 避難生活で疲弊する住民」。
   (a)国が主体となって除染する区域・・・・帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域
   (b)自治体が策定計画の下に除染する区域・・・・(a)を除く区域で、空間線量が0.23μSv/時(1mSv/年)超の地域

 (3)これまで除染関連で費やされた予算は1兆5,000億円超。
 にもかかわらず、計画は遅れに遅れている。
 2012年7月に始まり2014年3月末までに終わる予定の(2)-(a)は、役場や学校をなどの公的施設と周辺道路は着手したものの、住民の生活に関わる住宅、農地については、4町村(田村市・楢葉町・川内村・飯舘村)に着手したのみ(他は手つかず)。
 (2)-(b)についても、住宅地除染が終わったのは、全体の計画のわずか15%のみ。・・・・①個人資産の所有者の事前承諾作業に手間取っている。②剥ぎ取った土を詰めた土嚢の仮置き場の設置場所の調整に手間取っている。③そもそも、除染で発生した剥ぎ取り土を集めて処理する中間処理施設の建設場所もまだ決まっていない。

 (3)避難指示区域の住民アンケート調査で、帰還意思を示した住民の比率はどれも低い。
  (a)除染は行われているものの、何かが変わったわけでも、将来の見通しが示されたわけでもない。
  (b)若い世代ほど、帰還するとの回答が少ない。避難先の街での便利な生活に慣れ、田舎の元の町に帰りたくなくなった、etc.。
  (c)除染そのもの効果に疑問符が付く。特に(2)-(b)の目標数値以下に除染で下げることは難しい。

 (4)放射線リスク以上に、長期にわたる避難生活が福島県民を苦しめている。大震災を生き延び、その後亡くなった福島県民は1,121人(2012年9月末現在)。全国の震災関連死の半分を福島が占める。震災から1年半の時点でも増加し続けている。ストレスによる過度の飲酒、生活習慣病の発症件数の増加。経済に与える影響は言うまでもなく甚大だ。

 (5)これだけ実害を与えている避難生活だが、居住制限解除の用件を定めるの明文はどこにもない。
 民主党政権時代に設定された1mSv/年・・・・根拠はない。

□鈴木洋子/前田剛(本誌)「大震災2年の試練 復旧か復興か」(「週刊ダイヤモンド」2013年3月16日号)
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【経済】「日本売り円安」を防げ ~「ミスター円」榊原英資~

2013年03月09日 | 社会
 今の為替レートの水準をどう見ればいいか。今回の円安が進む前の1ドル=80円台だった局面は、実質実効為替レートだと大した円高ではなかった。金融緩和を相当進めたことで円安が進んだが、88円から98円ぐらいで動いていれば、日本経済にとって大した問題ではない。
 1995年の円高の時は、米国もドル安を危惧していた。だから、協調介入をしばしばやった。今は米国もまったく違っていて、介入は絶対反対だ。安部首相は一時「外債を買う」などと言っていたが、外債購入とは為替介入のこと。そんなことはできない。
 安部首相のアナウンスメント効果による期待感で、円安・株高になったところはあるが、政策的に為替を安くすることはタブー。日本の何人かの政治家が「円安にする」と言ったが、あれでは近隣窮乏化政策になる。為替については財務大臣以外には発言させるな。円安を意図的に取るかのような印象を世界に与えるのはまずい。
 パナソニックやソニーなどの経営状態が悪化したのは、マネジメントのせいで、円高のせいではない。円高は本来、国際化にはプラス。企業が世界に出て、海外業務を拡大するためには円高のほうがいい。今の大企業は、輸出よりも海外生産のほうが増えているわけだから。
 急激な円高でなければ通貨が強くなるというのは、その国の価値が上がり、その国が強くなるということ。海外でのM&Aも安くでき、海外業務の展開もやりやすくなる。資源も安く輸入できる。米国は「強いドルは米国の利益である」とはっきり言っている。日本の財務大臣も同様に言うべきだ。日本の企業が輸出で困るといっても、それぞれがグローバリゼーションで対応すればよい。
 そもそも、円安に振れる要因は増えている。貿易収支の赤字は、まさに典型。それだけに円高政策を取らないと危ない。
 1995年の時は円高是正をやった。ところがその後、日本が金融危機になり、1ドル=150円近くまで行った。あれは日本売りだ。日本売りの円安というのは、極めて危険。さすがにドル売り介入をやった、100円を超えると日本売りの円安の可能性が出てくる。極端な円安は警戒して、早めに牽制すべき。現状では1ドル=100円以上の円安は警戒すべき水準だ。
 1990年代、日本売りに近い円安が起きたキッカケは銀行の破綻だった。今回もし日本売りのような事態になるとすれば、日本を代表する企業が倒産するとかいったことがキッカケになるかもしれない。日本経済そのもの全く懸念材料がないわけじゃない。国の債務残高が非常に多いので、何かのキッカケで国債市場に火がついたら、日本売りは止まらなくなる。
 むろん、当面は日本売りになる懸念はないだろう。むしろ日本経済復活というイメージを持っている外国人が多い。当面は日本買いで、日経平均株価が14,000円ぐらいまでいくことは十分にあり得る。
 日銀の独立性は絶対維持しなければ駄目。ほんとうに日銀法を改正したら、これは日本売りになる。それと、当面の景気対策はいいが、中長期的な財政再建のピクチャーを示さなければならない。
 規制緩和をするべき分野は、医療、教育、農業。そういう分野が成長産業になる。成長戦略と言った時、対象はもう製造業じゃない。サービス業だ。成長戦略というより成熟戦略というべきだ。成熟国家としての日本をどういう形に持って行くか。1、2%の経済成長の中で、どうやって質の高い生活を確保するか、ということを考えねばならない。

□対談:榊原英資(青山学院大学教授/元大蔵省(財務省)国際金融局長、財務官/「ミスター円」)+山口正洋(投資銀行家)/構成:太田匡彦(編集部)「「日本売り円安」を防げ」(「AERA」2013年3月4日号)のうち、榊原英資の発言を要約抜粋した。

 【参考】
【経済】「円安地獄」がやってくる
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【原発】動燃による反対派つぶし「工作」の記録 ~「西村ファイル」~

2013年03月08日 | 震災・原発事故
 (1)「週刊朝日」3月15日号は、段ボール箱5箱分の機密ファイルを紹介している。所有者は西村成生・動燃総務部次長。ただし、故人である。「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故(1995年12月)に係る「ビデオ隠し問題」を内部調査中、1996年1月13日に「謎の死」を遂げた。享年49。
 山積みの「西村ファイル」には、原発や関連施設をめぐる地元住民や地元政界へのカネや接待、選挙での“暗躍”、反対派の市民運動家への露骨な“監視”などの「工作」が克明に記録されていた。

 (2)岡山県と鳥取県の県境に近い人形峠は、1955年に日本で初めて天然ウランの鉱床が発見されると、原子燃料公社(後の動力炉・核燃料開発事業団、現在の日本原子力研究開発機構)が両県で採掘を始め、地元はウランブームに沸いた。
 採掘されたウランは品質が採算ベースに合わないことが判明し、鉱山は10年ほどで閉鎖。動燃は人形峠事業所(現・人形峠環境技術センター)を残し、ウラン濃縮の試験プラントなどを営んできた。
 1988年、この地が大きな社会問題になった。人形峠周辺の鉱山跡地に、行動を掘った際に掘り出した土などが野ざらしのまま放置され、そこから高い放射線量が計測されたのだ。ウラン鉱山のあった鳥取県東郷町(現・湯梨浜町)の方面(かたも)地区は、町や動燃に16,000立米のウラン残土の全面撤去を要求した。
 残土の処分は容易ではない。動燃は何とか地区内に置いたまま処分しようとした。それには、地元の同意が不可欠だった。いかに動燃の意向に沿う住民を増やしていくか。動燃は「工作」を始めた。

 (3)「西村ファイル」の「方面地区住民資料」によれば、方面地区の20世帯の住民について、①名前、②生年月日、③職業、④PVC(動燃)に対する理解、⑤人脈・本人に対する「工作」、⑥家族関係、⑦地権の有無、⑧備考・・・・の項目に分けて詳細に調べ上げた。まさに「思想・素行調査」リストだった。特に反対派住民は入念にマークしていた。
 反対運動の中心になった榎本益美(77歳)に係る項目⑤では、「工作」方法を具体的に説明している。<社会党対策会議の○○(原文実名、以下同)、共同通信記者、市民グループとの関係を切ることであろうが、当面、本人を孤立させ相手にしないことが効果的である>・・・・動燃の「工作」は、一時的には成功した。
 「資料」には、家族の勤務先や家庭事情まで詳細に書かれていた。その作成者は、動燃・人形峠事業所総務課長などを歴任した男(鳥取県倉吉市在住、72歳)で、彼が本社に送信したファックスが「西村ファイル」に残されている。
 動燃は、都会から離れた小さな集落ならではの濃密な人間関係を巧妙に「工作」に利用しようとしていた。地域独特の本家、分家や養子縁組といった関係、地区の婦人会などを利用し、「工作」に使おうとした。「町議」の名も頻繁に出てくる。陰湿なのは、家族関係に加え、勤務先の上司などの上限関係で「圧力」をかけていた形跡があることだ。
  (a)県職員・・・・<夫婦の勤務先である鳥取県の上司・幹部を利用する>
  (b)農家・・・・<農協関係者の幹部による説得が必要>
  (c)郵便局員/地元区長・・・・<郵政関係者(地元局長)、親せき等を動かし、区長としてもう少し積極的な態度をとるよう働きかける>
  (d)地元大手バス会社社員/有力地権者・・・・<○○自動車を通じて圧力をかけるべきだ>
 資料には、住民を見下した態度が滲み出ている。<当初は理解を示していたが、現在は必ずしもそうではない。口が軽く、役員の中でも考えが一貫していない>

 (4)動燃職員が残土問題について説明に訪れた当時、科学的根拠や資料の提示を求めたが、科学的データで説得するというよりも、「なるべく穏便に収めたい」とごまかすことばかり。見え透いた懐柔策だった。【藤田省三・鳥取県会議員(自民党)】
 動燃が抜き打ちで地区の人を集めて説明会を開いたことがあったが、「大丈夫だけぇ。安全だけぇ」と言うだけで、放射能の測定機器も持ってこない。機器は、市民グループが持ってきて初めて観たほどだ。【榎本益美】
 「工作」は実を結ばず、動燃はウラン残土の撤去を約束したものの、撤去先をめぐって周辺自治体と紛糾。長年、地区に放置されたまま歳月だけ経った。2000年、住民らは鳥取県などの援助を得て旧動燃を鳥取地裁に提訴。2004年、最高裁で残土の撤去を命じる判決が確定し、特に放射線量が高い一部の残土は米国のウラン精錬所に移され、その他は145万個の煉瓦に加工されて搬出された。

 (5)「西村ファイル」には、「原子力ムラ」のさらに深い闇をうかがわせる資料がある。
 <タレントとの会食を通じて洗脳>
 <津山圏は水面下でゲリラ戦>
 <広義な話題を提供し、問題を希釈させる>

□今西憲之+本誌取材班「独占入手機密ファイルが暴く「原子力ムラ」の闇 ~「原発事故後」のいま明かされる核心スクープ第1弾~」(「週刊朝日」2013年3月15日号)
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【心理】すれちがいの心理学 ~コミュニケーション~

2013年03月07日 | 心理
 (1)相手が何を言っているのか、サッパリ分からない、という事態に出くわしたことはないだろうか。例えば、次のような発言を聞かされたら、一発で理解できるだろうか。

 <もし風船が割れたら、すべてがめあての階から離れているので、音は届かないだろう。ほとんどの建物はよく防音されているので、窓が閉まっていると音は届かないだろう。操作の全体が安定した電流に支えられているので、電線の中間が切れても問題が起きる。もちろん男は大声を張り上げることもできるが、人間の声はそんなに遠くへ届くほど大きくはない。さらに問題は、楽器の弦が切れてしまうことだ。そうなるとメッセージが無伴奏となってしまうであろう。最良の状況は距離をもっと縮めることであるのは明らかだ。そうすれば、潜在的な問題はさらに減る。顔と顔とを突き合わせるならば、うまくいかないことは最小限に出来るのだが。>

 (2)ひじょうに奇妙で、意味不明なたわごとを言い募っているかのように見える。精神が錯乱しているのではないか、と疑う人もいるかもしれない。カフカ的な不条理とは斯くの如きか、と深読みする向きもあるかもしれない。
 実はしかし、これは単なる日常的な談話であり、しかも非常に筋のとおった発言なのだ。
 添付の写真の右側の図をご覧いただきたい。しかる後、もう一度読んでいただきたい。
 ハハーン、と膝をうつ方もいるかもしれない。
 しかし、まだピンとこない人もいるはずだ。
 そこで、添付の左側の図に目を向ける。すると、なるほど・ざ・納得ということになる。

 (3)聞く側に話し手が置かれた状況や発言の背景が決定的に不足している場合、理解が困難になる。
 手がかりの一部が提示されていれば、理解が促進される。 
 話し手が置かれた状況、発言の背景に関する情報の全貌が提示されると、一挙に理解が進む。

 (4)発言する側からすれば、殊に初対面の人には、あらかじめ必要な情報、手がかり、文脈を提示しておけば提示しておくほど、理解されやすくなる。

 (5)家族間の日常会話が、第三者からみればわけのわからない断片のやりとりであっても、家族には分かる。「アレはどこに置いたっけ?」でも通じる。情報(文脈)を共有しているからである。
 他方、たとい家族であっても、必要な情報(文脈)を共有していない場合、相手がアカの他人より疎遠に見えることがある。

□山本政人ほか『心理学のポイント』(学文社、2000)pp.65-66
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【政治】安部政権に対する海外メディアの厳しい視線

2013年03月06日 | 社会
 「世界」3月号の「メディア批評」は、安部政権の誕生について新聞各紙がどう報じ、論じたかを整理している。
 読売、朝日、日経、産経の「熱い注文」を指摘した後、海外からの痛烈な批判を紹介する。<どんな視点からこれらの海外メディアが安部内閣を批判したのかを知ることは、日本を取り巻く国際情勢を知るためにも重要だろう。>
 <これらの記事を読み解くと、海外メディアは、安部政権の経済政策・外交政策だけではなく、そのリーダーとしての根本的な資質と、教養について疑問を投げかけていることがうかがえるといえるだろう。>

(1)1月5日付けエコノミスト(英)
  (a)日本の長期不況に言及し、安部内閣について、「同内閣には経済改革派がいない」と長期的な財政規律を無視した財政出動のあり様を厳しく批判。
  (b)「経済政策といえば日本銀行を激しく批判する一方で、不人気な原子炉を再稼働させようとする大企業からなる『原子力ムラ』に迎合することだろう」・・・・と切り捨てる。
  (c)外交問題についても、「同内閣を『保守的』というのであれば、同内閣の(歴史)修正主義的な執念の数々を見逃すことになる」と指摘。・・・・これは、ニューヨークタイムズの論調とも相通じる。

(2)1月2日付けニューヨークタイムズ(米)
  (a)見出しは「日本の過去を否定する試みをまた」。
  (b)「アジアの安定にとって日本と韓国との関係ほど重要なものはほとんどないだろう。しかし、日本の新首相である安倍晋三氏は今回の任期を重大な間違いで始めたがっているようだ」「同首相は、日本の第二次世界大戦中の侵略行為に対する謝罪を修正したいとの姿勢を示している。その侵略行為には、朝鮮やそのほかの国の女性を日本軍の従軍慰安婦にした事実も含まれる」・・・・と、国内メディアにはない歯切れのよい筆致で指摘する。
  (c)記事の後半では、「日本の戦時中の犯罪を否定し、謝罪を弱めるようなことが少しでもあれば、日本の戦時中の残虐支配のもとで苦しんだ韓国、中国、フィリピンを激怒っせるだろう」とある。

□神保太郎「メディア批評第63回」(「世界」2013年3月号)の「(2)安部新内閣への「注文」を分析する」
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【原発】福島県民健康管理調査の情報隠し ~被曝の影響~

2013年03月05日 | 震災・原発事故
 (1)福島第一原発事故後の住民の健康調査は、次の二本が柱だ。
  (a)基本調査・・・・県民が行動記録をつけ、そこから外部被曝川柳を推計評価する調査。
  (b)詳細調査・・・・小児の甲状腺検査や避難区域の住民への血液検査を含んだ健康調査、心の調査など。

 (2)第10回県民健康管理調査検討委員会(2月13日)で、2011年度小児甲状腺検査で10人に悪性の疑いという診断がなされた、と発表があった。
 対象36万人中わずか1割、38,114人に実施l。うち二次検査に進んだ者186人、うち実際に二次検査した者は162人(再検査11人、二次検査終了151人)で、細胞診まで実施した者76人。この76人中、66人は良性と診断されたが、10人は悪性ないし悪性の疑いという診断で、うち3人は手術も実施した。
 悪性ないし悪性の疑いの10人は、線量の低い場所ではなく、警戒区域に近い所で生活していた家族だ。

 Q:甲状腺検査結果は被曝線量評価と相関しないのか、その評価は発表しないのか。
 A:そういう考察は現段階では発表しない。
 Q:この10人の被曝線量を検討委員会では把握しているのか。
 A:把握しているが、公表しない。

 前記10人は、男子が3人、女子が7人。平均年齢15歳。甲状腺腫瘍の平均サイズは15mm。3人は手術が済んでいるが、残り7人も8割の確率で甲状腺癌の可能性がある。7人の確定診断は、今後の手術後。5mm以下の結節、20mm以下の嚢胞を認めた子どもたちについても「問題はない」という評価だ。
 以上の発表はすべて口頭で行われた。資料で配付されたのは、「76人が細胞診をした」という情報まで。
 きちんと情報を公開しないことが、疑念を抱かせる。

 (3)地域別の数の公表を要望した。
 現在の発表の形式は福島県全体のものであり、これが地域別の偏りがあるかどうかを検証しなければ「被曝による健康への影響はない」と断定することは不可能だからだ。放射性プルームが通過した地域、汚染地域などで、発生率に偏りがあるかどうかが一番重要な点だ。

 (4)(1)-(b)のうち、血液検査の結果についても発表は大まかだった。
 血液検査を含む(1)-(b)は、全県民対象ではなく、避難区域の住民と、(1)-(a)によって被曝線量が高いと推計される住民が対象だ。
 この健康診査の血液検査には、「白血球の分画」の項目が上乗せされていた。単なる健康診査では診ない項目だ。・・・・人間の体の中で、一番敏感に放射能の影響が出るのはリンパ球で、その次が好中球だ。それを調べるのが「白血球の分画」だ。

 Q:なぜ調べるのか。
 A:白血病発症リスク増大が考えられる。←県はこの結果を懸念していたのだ。

 今回発表された結果は大まかなものだったが、「白血球数減少、好中球数減少、リンパ球数減少の割合に、年齢区分や性による大きな偏りはなかった」という考察がついていた。だいたい30%ほどが基準値以下と読み取れるグラフだった。

 Q:この減少については、年齢区分や性によるパラメータではなく、推計被曝量のパラメータにおいて偏りがないかどうかを考察するべきではないか。
 A:推計被曝量との相関を公表するかどうかは検討課題。

 原発事故後の健康調査は、被曝線量を推計する(1)-(a)と、さまざまな検査を実施する(1)-(b)の二本立てなのだが、それぞれの結果をバラバラに発表して、「原発事故による被曝の健康被害はない」という評価を出すのは疑問だ。
 (1)-(a)も「県北・県中地区では90%以上の住民が2mSv未満」という発表だが、これについても疑問がある。(1)-(a)に回答している住民は、県北・県中地区とも20%余しかない。自主避難をしたり被曝防護をしていた住民ほど調査に回答し、何も気にしなかった住民は回答しない、という傾向がある。回答率2割の段階で、「被曝線量はおよそ問題ない」という評価を出すこと自体が問題だ。

 (5)「こころの健康度」に関する調査では、ケア対象者一般1万5,118人のうち、5,359人には電話支援をしている。が、除外者が9,759人いる。除外の内訳は、「返信なし」「支援希望なし」が多いが、30人が死亡とのこと。

 Q:死因は何か。
 A:死因は公表しない。
 Q【他の記者】:基礎データを公表しないのか。
 Q【他の記者】:甲状腺検査の地域別データも含め、どこが公表するしないの判断をしているのか。

 やりとりの結果明らかになったのは、県民健康管理調査の結果をどこまで公表するかしないかの判断をしているのは、福島県立医科大学に設置された放射線医学県民健康管理センター内部の「専門委員会」だった。後日の取材で、専門委は9つあることがわかったが、所属委員の名簿は公表できない、とのこと。
 県民健康管理調査は法に基づく調査ではないため、情報公開の基準が非常に曖昧だ。

 Q:この調査で得られる情報はどこの所有になるのか。
 A:県のものになる。
 Q【他の記者】:違う、この情報は患者のものだ。
 A:そういう意味で言えば、そうなる。←不可解な県の回答。

 (6)誰のための、難のための調査か。
 県民健康管理調査は、さまざまな情報がきちんと精査・公表されないまま、「被曝による影響はない」という言説だけが横行しているのだ。

□おしどりマコ(LCMプレス/自由報道協会理事)「子ども10人が甲状腺がんの可能性 本当に「被曝の影響はない」のか」(「週刊金曜日」2013年3月1日号)
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【経済】「円安地獄」がやってくる

2013年03月04日 | 社会
 (1)この3ヵ月あまりで、15%以上も円安が進んでいる。
 衆議院が解散された昨年11月14日、1ドル=79円台だった円相場は、「アベノミクス」を掲げる安部政権が誕生すると、一基に下落した。一時は1ドル=94円台まで円安が進行した。

 (2)円安は輸出産業にはプラスに働くが、そこが雇用や賃金を増やしたり、国内に新工場を建てたりすることは考えにくい。円安のメリットは以前より薄らいでいる。一方で、内需型企業にとっては確実にデメリットになる。家計への打撃も避けられない。【牧田健・「日本総合研究所」マクロ経済研究センター所長】
 なぜ今円安になっているのか。
 米国経済の回復、欧州危機懸念の後退によって2013年は世界の投資家が積極的にリスクを取る(リスクオンの)状態になっている。そのことが円を弱くしている。さらに日本の貿易赤字がじりじりと増えていて、輸入企業によって円売りの勢いが支えられている。こうした流れを安部首相の一連の発言が後押ししている。世界経済が安定している限り円だけが弱い状況は続き、リスクオンの状況が継続するなら、今後2、3年で1ドル=105~110円までいってもおかしくない。【佐々木融・「JPモルガン・チェース銀行」債権為替調査部長】

 (3)すでに円安の悪影響は出始めている。
 まず敏感に反応しているのは、ガソリンや灯油の小売り価格だ。
 こうした流れは、燃料価格の変化が自動的に反映される電気・ガス料金にも遠からず波及する。
 最近では、日本向け原油価格の基準となる中東産ドバイ原油価格は1バレル=100ドルを切っていない。もともと原油価格の下値が切り上がっている。穀物相場も新興国の需要増で、かつてのような水準に戻ることなく高止まりの傾向だ。そこに円安が重なり、いずれも輸入価格の上昇は避けられない。【柴田明夫・「資源・食糧問題研究所」代表】
 穀物の輸入価格相場は、そもそもの価格上昇に円安が加わり、2006~2007年の水準に近づきつつある。当時、原油高と原材料価格の高騰で、パン、調味料、即席めんなどの食料品から紙や鋼板までさまざまなモノの値段が上がった。まず、今夏ごろから、小麦を多く使うパンなどが値上げムードになる。加工食品についても、企業の損益が悪化して円安によるコスト増分を吸収しきれなくなれば、値上げの動きが拡がってくる。【沖平吉康・「SMBC日興證券」シニアアナリスト】
 現在の水準程度であれば、日本にとってはプラスが大きい。だが、1ドル=110円くらいまで円安が進むようであれば、マイナス面が大きくなってくる。単純に為替要因だけでは測れないが、運輸業界、化学業界や小売り業界は厳しい状況になる。また、製造業でも、素材を加工して大手に堕ろしている中小企業は苦労することになる。【市川眞一・「クレディ・スイス証券」チーフディレクター】

 (4)小売業界では、明暗が分かれる。
 商品を直接海外から調達しているかどうか、海外展開が進んでいるかが分かれ道になる。海外で自分で商品を作り、自分でドルで払い、しかも為替予約などでヘッジしていなければ、大きな影響が出る。一方で、海外事業の利益構成比が大きければ、円安は大きなプラス要因になる。【村田太郎「JPモルガン証券」シニアアナリスト】
 <例1>(a)アジア各国からの直輸入比率が80%で、支払いはドル建て、為替予約は2014年2月期の上期まで、というニトリホールディングスは、圧倒的に大きな影響を受ける。ほかにも、(b)エービーシー・マートが似た状況にあり、損益を悪化させる。【村田シニアアナリスト】
 <例2>(a)ファーストリテイリングは商品のほとんどを海外生産に頼るが、2~3年先まで為替予約をしており、海外事業の利益構成比が高い。(b)セブン&アイ・ホールディングスも、米国事業の利益構成比が1割程度ある。両者には、円安が大きくプラスに働く。【村田シニアアナリスト】

 (5)食品メーカーが円安によるコスト増を製品価格に転嫁し始めると、今度は小売り各社の価格交渉力や吸収力が試されることになる。
 中小企業の業者の中から「円安破綻」が出てくる可能性もある。消費増税も控え、小売りはどこも値上げしたくない。体力勝負になれば大手が有利になる。優勝劣敗がはっきりし、再編淘汰が急速に起きる可能性がある。原材料を輸入に頼る割合が高く、メニュー数を絞っている低価格業態には円安の悪影響が直撃する。1ドル=100円を超えた水準は「危険な領域」だ。【清水倫典・「Gマネジメント&リサーチ」】
 マイナスの影響を受ける各業界とも、年平均10~15%程度の円安なら想定内。しかし年平均20~25%の円安となると、問題が生じてくる可能性がある。【美甘哲秀・「丸紅経済研究所」所長】
 現在の円相場は、「円高の修正」であり、「良い円安」だ。これが「悪い円安」になる可能性はある。原発が動かず、資源高が進み、そこに円安が作用すれば、ダブルアクセルで貿易赤字がふくらみ、経常赤字になる可能性も出てくる。そうなれば、日本の信用力が低下し、国内の資金が海外へと流出し始め、「悪い円安」が進むことになる。【市川チーフディレクター】
 韓国と同じ轍を分でしまうのではないか。ウォン安政策をとった韓国では、サムスン、LG、現代など一部の財閥にメリットが集中した。他方、国民生活は疲弊し、国全体が左傾化した。だから昨年の大統領選で「経済民主化」が争点になるような事態にもなった。95円超の水準が続けば、円安に対して日本国内からの批判が強まる可能性がある。【牧田所長】

□太田匡彦(編集部)「「円安地獄」がやってくる」(「AERA」2013年3月4日号)
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【原発】「脱原発」ではなく「脱被曝」を ~福島から~

2013年03月03日 | 震災・原発事故
 (1)福島は見捨てられている。2年前も今も。
 福島の事故についてのデータは隠され、よって事故への認識もほとんど共有されていない。事故以降、明るい話題はほとんどなく、事態の深刻さが徐々に明らかになっていくのにともなって住民の不安が増している。放射性物質が放出され続けている限り、そして射性物質が放射能を発し続ける限り、住民の不安は終わりようがない。

 (2)震災前の安全基準に照らせば、福島県民に人としての基本的な権利が認められていない。
 現状は安全だ、と行政は告知するが、それなら原発事故前の安全基準は何だったのか。
 放射線量が当初より下がったことをもって安全だというのであれば、その「放射線量が、下がれば大丈夫」という発想そのものが問題だ。一度浴びてしまった放射線の影響については、もはや取り返しがつかない。そのことが「不安」の原因である以上、無条件の安心が訪れることはない。
 今後可能なことは、不安をどれだけ減らせるか、ということだけだが、「線量が減って安心」という言葉は、補償や賠償を受けられないのではないか、という逆の不安を助長する。
 今から「取り返しのつくこと」と「取り返しのつかないこと」を整理した上で議論することが必要だ。
 私たちは、もう2年もここに留め置かれ、被曝させられ続けている。避けられたはずの被曝を避けさせなかったということが、「見捨てられている」ということの意味だ。「見捨てられた」ではなく、現在進行形だ。それが無念だ。

 (3)昨夏以降「本格除染」が始まったが、除染の効果は作業している人が一番よく知っているだろう。
 私自身は、やりたくない除染に関わりながら、半年後には、効果が限定的であることを痛感した。
 そもそも、除染の効果を強調するなら、住民の被曝限度を元に戻して、それを達成してから議論すればよい。つまり、放射線量を下げてから「住んでいただけませんか」というのが順序で、できるかどうかもわからない段階で「まず除染しますから避難はしないでください」というのは、理屈が転倒している。
 しかも、くり返しになるが、「2年間被曝させられ続けている」という現実は元に戻らない。
 さらに、誰のための除染か、もう一度考えてみる必要がある。住民のためにやる除染なら、住民の被曝をかえって増やすようなこと(屋根の高圧洗浄や川への除染廃棄物の投棄)は起こらないはずだ。

 (4)福島県は、昨年11月末、双葉郡内の中間貯蔵施設候補地12か所の調査受け入れを決めた。
 人々を現地に住み続けさせていることや、現地に帰還させようとしていることを問題にしないで中間貯蔵施設を論じることは、ほとんど漫画だ。人々を現地に留め置きながら福島県に貯蔵施設を作るのは、人権感覚の欠如を象徴している。

 (5)誰でも移住する権利は持っている。だから、「避難したければご自由に」という政府は、もともと言う必要のないことを言っている。その言外の意味は、「補償・賠償はしません」ということだ。それに基づいて被曝強制が続けているわけだから、表現とは裏腹に、結果としては「逃げるな」というのと同じ効果を持たせている。
 原発事故を起こした上に、このような物言いをするのが、今の日本政府の姿だ。まさに「人権なき国」だ。
 「避難の権利」を当事者が主張しなければならず、しかも、言うと地元からバッシングを受けるのが現実だ。だから、権利が絵に描いた餅になっている。「自分は権利を主張しません」という人が、他人の権利主張についてクレームをつけているのがバッシングだ。民主主義から遠い。
 民主主義とは、自分とは異なる意見にも自分の意見と同じ重さを認めることであって、現地の多様な意見をそれぞれ尊重し合うという意味で、強制避難を求めるのではなく「避難の権利」が主張されている。
 むろん、「避難しない権利」もあるわけで、それを主張する必要はない。事態の深刻さからすれば、虚勢を張っている場合ではないと思うのだが。

 (6)現状を打破するには、「脱原発」とは区別して、「脱被曝」それ事態を自覚的に追及するべきだ。
 福島県内では「脱原発」が趨勢になっているが、それが「脱被曝」に結びついていない。福島で被曝を受忍しながら、あるいは福島に被曝を受忍させながら主張される「脱原発」とは何のことか。
 いろいろな発言や政策を評価する際に、「人々への被曝強制を容認するのか、それに反対するのか」という点に注意すれば、問題がよく見えてくる。

□荒木田岳(福島大学准教授)/聞き手・まとめ:片岡伸行(編集部)「福島大学准教授荒木田岳さんに聞く 「脱原発」ではなく「脱被曝」を」(「週刊金曜日」2013年3月1日号)
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