語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】「日本売り円安」を防げ ~「ミスター円」榊原英資~

2013年03月09日 | 社会
 今の為替レートの水準をどう見ればいいか。今回の円安が進む前の1ドル=80円台だった局面は、実質実効為替レートだと大した円高ではなかった。金融緩和を相当進めたことで円安が進んだが、88円から98円ぐらいで動いていれば、日本経済にとって大した問題ではない。
 1995年の円高の時は、米国もドル安を危惧していた。だから、協調介入をしばしばやった。今は米国もまったく違っていて、介入は絶対反対だ。安部首相は一時「外債を買う」などと言っていたが、外債購入とは為替介入のこと。そんなことはできない。
 安部首相のアナウンスメント効果による期待感で、円安・株高になったところはあるが、政策的に為替を安くすることはタブー。日本の何人かの政治家が「円安にする」と言ったが、あれでは近隣窮乏化政策になる。為替については財務大臣以外には発言させるな。円安を意図的に取るかのような印象を世界に与えるのはまずい。
 パナソニックやソニーなどの経営状態が悪化したのは、マネジメントのせいで、円高のせいではない。円高は本来、国際化にはプラス。企業が世界に出て、海外業務を拡大するためには円高のほうがいい。今の大企業は、輸出よりも海外生産のほうが増えているわけだから。
 急激な円高でなければ通貨が強くなるというのは、その国の価値が上がり、その国が強くなるということ。海外でのM&Aも安くでき、海外業務の展開もやりやすくなる。資源も安く輸入できる。米国は「強いドルは米国の利益である」とはっきり言っている。日本の財務大臣も同様に言うべきだ。日本の企業が輸出で困るといっても、それぞれがグローバリゼーションで対応すればよい。
 そもそも、円安に振れる要因は増えている。貿易収支の赤字は、まさに典型。それだけに円高政策を取らないと危ない。
 1995年の時は円高是正をやった。ところがその後、日本が金融危機になり、1ドル=150円近くまで行った。あれは日本売りだ。日本売りの円安というのは、極めて危険。さすがにドル売り介入をやった、100円を超えると日本売りの円安の可能性が出てくる。極端な円安は警戒して、早めに牽制すべき。現状では1ドル=100円以上の円安は警戒すべき水準だ。
 1990年代、日本売りに近い円安が起きたキッカケは銀行の破綻だった。今回もし日本売りのような事態になるとすれば、日本を代表する企業が倒産するとかいったことがキッカケになるかもしれない。日本経済そのもの全く懸念材料がないわけじゃない。国の債務残高が非常に多いので、何かのキッカケで国債市場に火がついたら、日本売りは止まらなくなる。
 むろん、当面は日本売りになる懸念はないだろう。むしろ日本経済復活というイメージを持っている外国人が多い。当面は日本買いで、日経平均株価が14,000円ぐらいまでいくことは十分にあり得る。
 日銀の独立性は絶対維持しなければ駄目。ほんとうに日銀法を改正したら、これは日本売りになる。それと、当面の景気対策はいいが、中長期的な財政再建のピクチャーを示さなければならない。
 規制緩和をするべき分野は、医療、教育、農業。そういう分野が成長産業になる。成長戦略と言った時、対象はもう製造業じゃない。サービス業だ。成長戦略というより成熟戦略というべきだ。成熟国家としての日本をどういう形に持って行くか。1、2%の経済成長の中で、どうやって質の高い生活を確保するか、ということを考えねばならない。

□対談:榊原英資(青山学院大学教授/元大蔵省(財務省)国際金融局長、財務官/「ミスター円」)+山口正洋(投資銀行家)/構成:太田匡彦(編集部)「「日本売り円安」を防げ」(「AERA」2013年3月4日号)のうち、榊原英資の発言を要約抜粋した。

 【参考】
【経済】「円安地獄」がやってくる
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