語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】「脱原発」ではなく「脱被曝」を ~福島から~

2013年03月03日 | 震災・原発事故
 (1)福島は見捨てられている。2年前も今も。
 福島の事故についてのデータは隠され、よって事故への認識もほとんど共有されていない。事故以降、明るい話題はほとんどなく、事態の深刻さが徐々に明らかになっていくのにともなって住民の不安が増している。放射性物質が放出され続けている限り、そして射性物質が放射能を発し続ける限り、住民の不安は終わりようがない。

 (2)震災前の安全基準に照らせば、福島県民に人としての基本的な権利が認められていない。
 現状は安全だ、と行政は告知するが、それなら原発事故前の安全基準は何だったのか。
 放射線量が当初より下がったことをもって安全だというのであれば、その「放射線量が、下がれば大丈夫」という発想そのものが問題だ。一度浴びてしまった放射線の影響については、もはや取り返しがつかない。そのことが「不安」の原因である以上、無条件の安心が訪れることはない。
 今後可能なことは、不安をどれだけ減らせるか、ということだけだが、「線量が減って安心」という言葉は、補償や賠償を受けられないのではないか、という逆の不安を助長する。
 今から「取り返しのつくこと」と「取り返しのつかないこと」を整理した上で議論することが必要だ。
 私たちは、もう2年もここに留め置かれ、被曝させられ続けている。避けられたはずの被曝を避けさせなかったということが、「見捨てられている」ということの意味だ。「見捨てられた」ではなく、現在進行形だ。それが無念だ。

 (3)昨夏以降「本格除染」が始まったが、除染の効果は作業している人が一番よく知っているだろう。
 私自身は、やりたくない除染に関わりながら、半年後には、効果が限定的であることを痛感した。
 そもそも、除染の効果を強調するなら、住民の被曝限度を元に戻して、それを達成してから議論すればよい。つまり、放射線量を下げてから「住んでいただけませんか」というのが順序で、できるかどうかもわからない段階で「まず除染しますから避難はしないでください」というのは、理屈が転倒している。
 しかも、くり返しになるが、「2年間被曝させられ続けている」という現実は元に戻らない。
 さらに、誰のための除染か、もう一度考えてみる必要がある。住民のためにやる除染なら、住民の被曝をかえって増やすようなこと(屋根の高圧洗浄や川への除染廃棄物の投棄)は起こらないはずだ。

 (4)福島県は、昨年11月末、双葉郡内の中間貯蔵施設候補地12か所の調査受け入れを決めた。
 人々を現地に住み続けさせていることや、現地に帰還させようとしていることを問題にしないで中間貯蔵施設を論じることは、ほとんど漫画だ。人々を現地に留め置きながら福島県に貯蔵施設を作るのは、人権感覚の欠如を象徴している。

 (5)誰でも移住する権利は持っている。だから、「避難したければご自由に」という政府は、もともと言う必要のないことを言っている。その言外の意味は、「補償・賠償はしません」ということだ。それに基づいて被曝強制が続けているわけだから、表現とは裏腹に、結果としては「逃げるな」というのと同じ効果を持たせている。
 原発事故を起こした上に、このような物言いをするのが、今の日本政府の姿だ。まさに「人権なき国」だ。
 「避難の権利」を当事者が主張しなければならず、しかも、言うと地元からバッシングを受けるのが現実だ。だから、権利が絵に描いた餅になっている。「自分は権利を主張しません」という人が、他人の権利主張についてクレームをつけているのがバッシングだ。民主主義から遠い。
 民主主義とは、自分とは異なる意見にも自分の意見と同じ重さを認めることであって、現地の多様な意見をそれぞれ尊重し合うという意味で、強制避難を求めるのではなく「避難の権利」が主張されている。
 むろん、「避難しない権利」もあるわけで、それを主張する必要はない。事態の深刻さからすれば、虚勢を張っている場合ではないと思うのだが。

 (6)現状を打破するには、「脱原発」とは区別して、「脱被曝」それ事態を自覚的に追及するべきだ。
 福島県内では「脱原発」が趨勢になっているが、それが「脱被曝」に結びついていない。福島で被曝を受忍しながら、あるいは福島に被曝を受忍させながら主張される「脱原発」とは何のことか。
 いろいろな発言や政策を評価する際に、「人々への被曝強制を容認するのか、それに反対するのか」という点に注意すれば、問題がよく見えてくる。

□荒木田岳(福島大学准教授)/聞き手・まとめ:片岡伸行(編集部)「福島大学准教授荒木田岳さんに聞く 「脱原発」ではなく「脱被曝」を」(「週刊金曜日」2013年3月1日号)
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