(1)自民党は、公約に書いたことは行わず、書いていないことを実行しようとしている。前政権とそっくりに。
地域の民意を受けて6割を超える議員がTPP反対と訴えていながら、一部の官僚と官邸が暴走しつつある。有権者に対する信じがたい背信行為だ。
(2)2月22日の共同声明は、「全品目を交渉対象として、高い水準の協定をめざす」ことを確認した上で、「交渉に入る前に全品目の関税撤廃を一方的に求めるものではない」と形式的には当たり前のことを述べているだけで、「例外があり得る」とは言っていない。
にもかかわらず、安部総理は、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃を前提としないことを明示的に確認した」と称し、残された自動車の規制緩和などの「前払い金」交渉を早急に詰め、TPP交渉に向けて舵を切ろうとしている。
(3)TPPでは、「すべての関税は撤廃するが、7~10年程度の猶予期間は認める」との方針が合意されている。米国は、乳製品と砂糖について、豪州、ニュージーランドに対してだけ難癖をつけて例外扱いにしようとごり押ししているが、両国は反発、かかる例外を認めるならTPPに署名しない、と言っている。圧倒的な交渉力を持つ米国でさえ例外が認められそうもないのに、日本がどうやって例外を確保できるのか。
そもそも「聖域」とは何か。コメだけでも例外にするのは不可能に近い。今まで日本が「聖域」にしてきた(関税分類上の)840品目を守ることは不可能だ。全国の地域コミュニティ崩壊は避けられない。
日本にとっての「聖域」は到底守られない。「聖域なき関税撤廃」は回避できない。
(4)日本がどの段階で交渉に参加しようが、法外な「入場料」だけ払わされて、ただ、できあがった協定を受け入れるだけで、交渉のの余地も逃げる余地もない。
米国は、「日本の承認手続きと現9ヵ国による協定の策定は別々に進められる」と言っている。最近、米国がメキシコやカナダの参加を認めたときも、屈辱的な「念書」が交わされ、「すでに合意されたTPPの内容については変更を求めることはできないし、今後、決められる協定の内容についても口は挟ませない」ことを約束させられている。
(5)共同声明では、「自動車部門や保険分野に関する残された懸案事項」について、日本が早急に「入場料」を支払うよう明記された。「その他の非関税措置」についても対処を求められた。「入場料」だけ一方的に求められるようなものだ。
「入場料」交渉については、国民にも国会議員にも隠されてきた。今回の共同声明で「公然の秘密」となった。「情報収集のための事前協議」とウソを言い続け、水面下では自動車、郵政、BSEの規制緩和など、米国の要求する「入場料」に対して必死で答える裏交渉を煮詰めてきた。
自動車については、ゼロ関税の日本市場なのに、「米国車に最低輸入義務台数を設定せよ」と「言いがかり」の要求を突きつけられている。これを国民に知らせて、あからさまに議論したら、日本国民も猛反発するに違いないから、所轄官庁が極秘に譲歩条件を提示している。隠蔽の責任をとれるのか、と良識ある官僚が迫れば、「はき違えるな、我々の仕事は、国民を騒がせないことだ」と言われる始末だ。
日本が「頭金」を払ったと米国が認めたときが、実質的な日本の「参加承認」だ。東アジアサミット(昨年11月)で日本の「決意表明」が見送られたのは、国民の懸念を反映したからではない。まだ米国が「頭金」が足りない、と言っているからだ。
(6)総選挙における自民党の公約は6項目あった。「聖域」問題はもちろん、ほかの公約も守られる保証はない。
それどころか、「自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない」と公約しながら、共同声明では、逆に、日本の交渉参加の承認条件の一つとして「前払い」することを確約させられている。
他方、米国の自動車関税2.5%は、米国側から猶予期間を要求されている。
「国民皆保険制度を守る」「食の安全基準を守る」「国の主権を損なうおゆなISD条項は合意しない」という公約も守られる保証はない。
TPPは、関税だけの問題ではなく、「規制緩和を徹底すれば、すべてはうまくいく」という「時代遅れ」の方向性を強化し、若者を含む多くの雇用を奪い、地域の商店街を潰し、地域医療も崩し、人々が助け合い、支え合う安全・安心な社会を揺るがす「切り札」だ。
□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「許しがたい背信行為 ~この国に未来はあるか~」(「世界」2013年4月号)
【参考】
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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地域の民意を受けて6割を超える議員がTPP反対と訴えていながら、一部の官僚と官邸が暴走しつつある。有権者に対する信じがたい背信行為だ。
(2)2月22日の共同声明は、「全品目を交渉対象として、高い水準の協定をめざす」ことを確認した上で、「交渉に入る前に全品目の関税撤廃を一方的に求めるものではない」と形式的には当たり前のことを述べているだけで、「例外があり得る」とは言っていない。
にもかかわらず、安部総理は、オバマ大統領から「聖域なき関税撤廃を前提としないことを明示的に確認した」と称し、残された自動車の規制緩和などの「前払い金」交渉を早急に詰め、TPP交渉に向けて舵を切ろうとしている。
(3)TPPでは、「すべての関税は撤廃するが、7~10年程度の猶予期間は認める」との方針が合意されている。米国は、乳製品と砂糖について、豪州、ニュージーランドに対してだけ難癖をつけて例外扱いにしようとごり押ししているが、両国は反発、かかる例外を認めるならTPPに署名しない、と言っている。圧倒的な交渉力を持つ米国でさえ例外が認められそうもないのに、日本がどうやって例外を確保できるのか。
そもそも「聖域」とは何か。コメだけでも例外にするのは不可能に近い。今まで日本が「聖域」にしてきた(関税分類上の)840品目を守ることは不可能だ。全国の地域コミュニティ崩壊は避けられない。
日本にとっての「聖域」は到底守られない。「聖域なき関税撤廃」は回避できない。
(4)日本がどの段階で交渉に参加しようが、法外な「入場料」だけ払わされて、ただ、できあがった協定を受け入れるだけで、交渉のの余地も逃げる余地もない。
米国は、「日本の承認手続きと現9ヵ国による協定の策定は別々に進められる」と言っている。最近、米国がメキシコやカナダの参加を認めたときも、屈辱的な「念書」が交わされ、「すでに合意されたTPPの内容については変更を求めることはできないし、今後、決められる協定の内容についても口は挟ませない」ことを約束させられている。
(5)共同声明では、「自動車部門や保険分野に関する残された懸案事項」について、日本が早急に「入場料」を支払うよう明記された。「その他の非関税措置」についても対処を求められた。「入場料」だけ一方的に求められるようなものだ。
「入場料」交渉については、国民にも国会議員にも隠されてきた。今回の共同声明で「公然の秘密」となった。「情報収集のための事前協議」とウソを言い続け、水面下では自動車、郵政、BSEの規制緩和など、米国の要求する「入場料」に対して必死で答える裏交渉を煮詰めてきた。
自動車については、ゼロ関税の日本市場なのに、「米国車に最低輸入義務台数を設定せよ」と「言いがかり」の要求を突きつけられている。これを国民に知らせて、あからさまに議論したら、日本国民も猛反発するに違いないから、所轄官庁が極秘に譲歩条件を提示している。隠蔽の責任をとれるのか、と良識ある官僚が迫れば、「はき違えるな、我々の仕事は、国民を騒がせないことだ」と言われる始末だ。
日本が「頭金」を払ったと米国が認めたときが、実質的な日本の「参加承認」だ。東アジアサミット(昨年11月)で日本の「決意表明」が見送られたのは、国民の懸念を反映したからではない。まだ米国が「頭金」が足りない、と言っているからだ。
(6)総選挙における自民党の公約は6項目あった。「聖域」問題はもちろん、ほかの公約も守られる保証はない。
それどころか、「自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない」と公約しながら、共同声明では、逆に、日本の交渉参加の承認条件の一つとして「前払い」することを確約させられている。
他方、米国の自動車関税2.5%は、米国側から猶予期間を要求されている。
「国民皆保険制度を守る」「食の安全基準を守る」「国の主権を損なうおゆなISD条項は合意しない」という公約も守られる保証はない。
TPPは、関税だけの問題ではなく、「規制緩和を徹底すれば、すべてはうまくいく」という「時代遅れ」の方向性を強化し、若者を含む多くの雇用を奪い、地域の商店街を潰し、地域医療も崩し、人々が助け合い、支え合う安全・安心な社会を揺るがす「切り札」だ。
□鈴木宣弘(東京大学大学院教授)「許しがたい背信行為 ~この国に未来はあるか~」(「世界」2013年4月号)
【参考】
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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