語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】福島県民健康管理調査の情報隠し ~被曝の影響~

2013年03月05日 | 震災・原発事故
 (1)福島第一原発事故後の住民の健康調査は、次の二本が柱だ。
  (a)基本調査・・・・県民が行動記録をつけ、そこから外部被曝川柳を推計評価する調査。
  (b)詳細調査・・・・小児の甲状腺検査や避難区域の住民への血液検査を含んだ健康調査、心の調査など。

 (2)第10回県民健康管理調査検討委員会(2月13日)で、2011年度小児甲状腺検査で10人に悪性の疑いという診断がなされた、と発表があった。
 対象36万人中わずか1割、38,114人に実施l。うち二次検査に進んだ者186人、うち実際に二次検査した者は162人(再検査11人、二次検査終了151人)で、細胞診まで実施した者76人。この76人中、66人は良性と診断されたが、10人は悪性ないし悪性の疑いという診断で、うち3人は手術も実施した。
 悪性ないし悪性の疑いの10人は、線量の低い場所ではなく、警戒区域に近い所で生活していた家族だ。

 Q:甲状腺検査結果は被曝線量評価と相関しないのか、その評価は発表しないのか。
 A:そういう考察は現段階では発表しない。
 Q:この10人の被曝線量を検討委員会では把握しているのか。
 A:把握しているが、公表しない。

 前記10人は、男子が3人、女子が7人。平均年齢15歳。甲状腺腫瘍の平均サイズは15mm。3人は手術が済んでいるが、残り7人も8割の確率で甲状腺癌の可能性がある。7人の確定診断は、今後の手術後。5mm以下の結節、20mm以下の嚢胞を認めた子どもたちについても「問題はない」という評価だ。
 以上の発表はすべて口頭で行われた。資料で配付されたのは、「76人が細胞診をした」という情報まで。
 きちんと情報を公開しないことが、疑念を抱かせる。

 (3)地域別の数の公表を要望した。
 現在の発表の形式は福島県全体のものであり、これが地域別の偏りがあるかどうかを検証しなければ「被曝による健康への影響はない」と断定することは不可能だからだ。放射性プルームが通過した地域、汚染地域などで、発生率に偏りがあるかどうかが一番重要な点だ。

 (4)(1)-(b)のうち、血液検査の結果についても発表は大まかだった。
 血液検査を含む(1)-(b)は、全県民対象ではなく、避難区域の住民と、(1)-(a)によって被曝線量が高いと推計される住民が対象だ。
 この健康診査の血液検査には、「白血球の分画」の項目が上乗せされていた。単なる健康診査では診ない項目だ。・・・・人間の体の中で、一番敏感に放射能の影響が出るのはリンパ球で、その次が好中球だ。それを調べるのが「白血球の分画」だ。

 Q:なぜ調べるのか。
 A:白血病発症リスク増大が考えられる。←県はこの結果を懸念していたのだ。

 今回発表された結果は大まかなものだったが、「白血球数減少、好中球数減少、リンパ球数減少の割合に、年齢区分や性による大きな偏りはなかった」という考察がついていた。だいたい30%ほどが基準値以下と読み取れるグラフだった。

 Q:この減少については、年齢区分や性によるパラメータではなく、推計被曝量のパラメータにおいて偏りがないかどうかを考察するべきではないか。
 A:推計被曝量との相関を公表するかどうかは検討課題。

 原発事故後の健康調査は、被曝線量を推計する(1)-(a)と、さまざまな検査を実施する(1)-(b)の二本立てなのだが、それぞれの結果をバラバラに発表して、「原発事故による被曝の健康被害はない」という評価を出すのは疑問だ。
 (1)-(a)も「県北・県中地区では90%以上の住民が2mSv未満」という発表だが、これについても疑問がある。(1)-(a)に回答している住民は、県北・県中地区とも20%余しかない。自主避難をしたり被曝防護をしていた住民ほど調査に回答し、何も気にしなかった住民は回答しない、という傾向がある。回答率2割の段階で、「被曝線量はおよそ問題ない」という評価を出すこと自体が問題だ。

 (5)「こころの健康度」に関する調査では、ケア対象者一般1万5,118人のうち、5,359人には電話支援をしている。が、除外者が9,759人いる。除外の内訳は、「返信なし」「支援希望なし」が多いが、30人が死亡とのこと。

 Q:死因は何か。
 A:死因は公表しない。
 Q【他の記者】:基礎データを公表しないのか。
 Q【他の記者】:甲状腺検査の地域別データも含め、どこが公表するしないの判断をしているのか。

 やりとりの結果明らかになったのは、県民健康管理調査の結果をどこまで公表するかしないかの判断をしているのは、福島県立医科大学に設置された放射線医学県民健康管理センター内部の「専門委員会」だった。後日の取材で、専門委は9つあることがわかったが、所属委員の名簿は公表できない、とのこと。
 県民健康管理調査は法に基づく調査ではないため、情報公開の基準が非常に曖昧だ。

 Q:この調査で得られる情報はどこの所有になるのか。
 A:県のものになる。
 Q【他の記者】:違う、この情報は患者のものだ。
 A:そういう意味で言えば、そうなる。←不可解な県の回答。

 (6)誰のための、難のための調査か。
 県民健康管理調査は、さまざまな情報がきちんと精査・公表されないまま、「被曝による影響はない」という言説だけが横行しているのだ。

□おしどりマコ(LCMプレス/自由報道協会理事)「子ども10人が甲状腺がんの可能性 本当に「被曝の影響はない」のか」(「週刊金曜日」2013年3月1日号)
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