(1)TPPへの参加は、総合的に見ると日本の国益を大きく害する。TPPによるメリットはほとんどない。
(a)TPP参加による主たる市場は米国だが、日本の対米輸出は過去15年間ほぼ横ばいだ。さらに、米国の関税は2~3%にすぎず、撤廃は輸出にほとんど影響しない。
(b)2010年の日本の対米輸出は全体の15.3%だ。他方、中国・香港・台湾・韓国の比率は38.8%だ。貿易によって日本経済を浮揚させるのであれば、まずは東アジアに注目すべきだ。これらの地域がTPPに参加することはほぼない。
(c)欧州、BRICKなど、他の地域に関してもTPPとは無関係の地域だ。
(2)TPPは、関税引き下げなどの単なる自由貿易の推進にとどまらない。社会の根本的変革を招く。
TPP問題は農業という印象が作られている。しかし、TPPは農業だけが対象ではない。サービス(金融)、労働、環境、政府調達、権益などの経済活動のほぼ全域に影響が出る。最も深刻なのは医療だ。TPP参加によって国民健康保険が実質的に崩壊することが懸念される。
むろん、TPP参加であからさまに国民健康保険制度が消滅するというのではなく、実質的に機能しなくなっていく、ということだ。その流れを予測すすると、
(a)現在でも、米国は官民あげて日本の医療改革を激しく要求している。それは、2012年の日米財界人会議などで明確になっている。
(b)TPP参加の下においては、この米国側の要求がいちだんと「正当性」を持つ。
(c)日本の経済界・政界・官界などで国民健康保険を実質的に崩壊させていく改革への動きが強くなる。
(d)最終的にはISD条項の形で要求を担保する。
(3)(2)-(a)の日米財界人会議は、昨年11月8日、都内開催された。
ここで、「日本がTPP交渉に参加することを強く支持する」とした共同声明を採択した。
米側議長は、レイク・「アフラック」日本代表だった。「アフラック」は、生命・医療保険会社である。ここにこそ、米国がTPPで何を目指しているかがもっとも明確にあらわれている。
というのも、国民健康保険が機能しなくなることによって、日本の多くの人は民間の医療保険に入らざるを得なくなるからだ。
TPPの旗振り役の陣頭に、米国の保険業界が立っていることは象徴的だ。ちなみに、2008年の「アフラック」の収益は166億ドルで、うち70%が日本からのものだ。
(4)こうした動向に対し、日本医師会や日本歯科医師会は医療をTPPの対象とすることには強く反対している。しかし、国民にはほとんど伝わっていない。
日本医師会は、従来から「日本医師会としても、米国が公的医療保険そのものの廃止を要求してこないことは想定済みである。株式会社の参入を要求したり、・・・・薬価決定プロセスに干渉したりすることを通じて、公的医療保険制度を揺るがすことが問題である」としている。
さらに、次のような立場を表明してきた。すなわち、総論的に公的医療保険を俎上に上げないとしても、金融サービスで公的医療保険に対する民間保険の参入、投資分野で株式会社の参入、知的財産分野で薬価や医療技術等が対象にならない保証はない。個別分野の規制改革が、蟻の一穴になるおそれがあることから、全体的にTPPを否定する必要がある・・・・。
米国は、高額医療で進出してくる。そして、「米国が参加・経営する病院は高額医療である。低額医療は国民健康保険の対象になっているが、高額医療はその対象になっていない。これは不平等である」と主張するだろう。
最悪のケースは、ISD条項に米国企業が訴えるケースが想定される。ISD条項では、「投資家の期待利益」が国家主権にも優先するのだ。TPP参加は、国家主権の喪失を意味する。
日本は、ほんとうにそれでいいのか。
□孫崎亨(元防衛大学教授)「国家主権を投げ捨てる安部政権」(「世界」2013年4月号)
【参考】
「【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~」
「【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~」
「【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~」
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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(a)TPP参加による主たる市場は米国だが、日本の対米輸出は過去15年間ほぼ横ばいだ。さらに、米国の関税は2~3%にすぎず、撤廃は輸出にほとんど影響しない。
(b)2010年の日本の対米輸出は全体の15.3%だ。他方、中国・香港・台湾・韓国の比率は38.8%だ。貿易によって日本経済を浮揚させるのであれば、まずは東アジアに注目すべきだ。これらの地域がTPPに参加することはほぼない。
(c)欧州、BRICKなど、他の地域に関してもTPPとは無関係の地域だ。
(2)TPPは、関税引き下げなどの単なる自由貿易の推進にとどまらない。社会の根本的変革を招く。
TPP問題は農業という印象が作られている。しかし、TPPは農業だけが対象ではない。サービス(金融)、労働、環境、政府調達、権益などの経済活動のほぼ全域に影響が出る。最も深刻なのは医療だ。TPP参加によって国民健康保険が実質的に崩壊することが懸念される。
むろん、TPP参加であからさまに国民健康保険制度が消滅するというのではなく、実質的に機能しなくなっていく、ということだ。その流れを予測すすると、
(a)現在でも、米国は官民あげて日本の医療改革を激しく要求している。それは、2012年の日米財界人会議などで明確になっている。
(b)TPP参加の下においては、この米国側の要求がいちだんと「正当性」を持つ。
(c)日本の経済界・政界・官界などで国民健康保険を実質的に崩壊させていく改革への動きが強くなる。
(d)最終的にはISD条項の形で要求を担保する。
(3)(2)-(a)の日米財界人会議は、昨年11月8日、都内開催された。
ここで、「日本がTPP交渉に参加することを強く支持する」とした共同声明を採択した。
米側議長は、レイク・「アフラック」日本代表だった。「アフラック」は、生命・医療保険会社である。ここにこそ、米国がTPPで何を目指しているかがもっとも明確にあらわれている。
というのも、国民健康保険が機能しなくなることによって、日本の多くの人は民間の医療保険に入らざるを得なくなるからだ。
TPPの旗振り役の陣頭に、米国の保険業界が立っていることは象徴的だ。ちなみに、2008年の「アフラック」の収益は166億ドルで、うち70%が日本からのものだ。
(4)こうした動向に対し、日本医師会や日本歯科医師会は医療をTPPの対象とすることには強く反対している。しかし、国民にはほとんど伝わっていない。
日本医師会は、従来から「日本医師会としても、米国が公的医療保険そのものの廃止を要求してこないことは想定済みである。株式会社の参入を要求したり、・・・・薬価決定プロセスに干渉したりすることを通じて、公的医療保険制度を揺るがすことが問題である」としている。
さらに、次のような立場を表明してきた。すなわち、総論的に公的医療保険を俎上に上げないとしても、金融サービスで公的医療保険に対する民間保険の参入、投資分野で株式会社の参入、知的財産分野で薬価や医療技術等が対象にならない保証はない。個別分野の規制改革が、蟻の一穴になるおそれがあることから、全体的にTPPを否定する必要がある・・・・。
米国は、高額医療で進出してくる。そして、「米国が参加・経営する病院は高額医療である。低額医療は国民健康保険の対象になっているが、高額医療はその対象になっていない。これは不平等である」と主張するだろう。
最悪のケースは、ISD条項に米国企業が訴えるケースが想定される。ISD条項では、「投資家の期待利益」が国家主権にも優先するのだ。TPP参加は、国家主権の喪失を意味する。
日本は、ほんとうにそれでいいのか。
□孫崎亨(元防衛大学教授)「国家主権を投げ捨てる安部政権」(「世界」2013年4月号)
【参考】
「【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~」
「【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~」
「【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~」
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
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