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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【米国】「事実」尊重のシステム終焉 ~嘘をつく大統領選候補者~

2016年03月23日 | 社会
 (1)米国大統領の前選挙選では、新現象が見られた。ファクト・チェッキング(事実検証)だ。
 事実検証は、1930年代の米国で始まった習慣で、ひとつの戒め(規制)、もともと正確な情報を社会に伝えることを存在意義とした新聞などが自主的に行ったものだった。
 しかし、4年前の選挙では、メディアが新たな事実検証(政治家の発言の信憑性を問う、という本来の方向性を完全に逆転させた)の在り方が生まれた。
 現在ではファクト・チェッキングといえば元来の趣旨ではなく、一般にはこの新しい意味で理解されている。

 (2)この新たな事実検証の方法が一般化した背景には、明確な理由がある。
 米国の政治家が常習的に事実離れした発言を行うようになったからだ。嘘を平気で口にし、事実やデータを都合よくねじ曲げる政治家に恥をかかせることによって言論の正当性を守り、責任を追及しようという強い意志が根底にあった。
 ところが、今年の選挙では驚くべし、この事実検証が功を奏するどころか、ほとんど無効化されている。いや、下手すると、事実検証が米国の一部の政治家を今まで以上に自由に事実をねじ曲げる方向へと誘導しているかのようだ。
 事実検証サイト「ポリティファクト」(ピュリツァー賞を受賞した)の前回の大統領選の調査によると、ある時点では、その発言のうち、
   オバマ大統領 27%
   ロムニー共和党候補者 42%
が事実より誤りや偽りに近い内容だった。ちなみに、この2人の統計に示されたような傾向は、4年後の現在も続いている。

 (3)先日、「ポリティファクト」が設立されて以来ずっと事実検証家の仕事をしてきた人が、米紙ニュー良く・タイムズに今回の選挙候補になっている政治家の偽造、捏造の統計を掲載した。ここでも驚くべし、事実より嘘に近いと判断された発言は、
  (a)民主党
   クリントン 28%
   サンダース 28%
   オマリー 25%
  (b)共和党
   カーソン 84%
   トランプ 76%
   クルーズ 66%
   (中略)
   ブッシュ 32%
   クリスティー 32%
   ポール 32%
   ※候補者争いから撤退した政治家も含めた10人のうち5人は50%超。

 (4)(3)の統計を見てすぐ気づくのは、共和党と民主党の間の情報と事実をめぐる意識のギャップだ。そして、なんと共和党においては真実から最も離れているとされた候補者のものこそ、長いあいだ党の有権者に最も熱心に支持されてきたということだ。
 むろん、トランプやクルーズを応援する有権者だって、事実を捏造する政治家を当選させたい、と思っているわけではないだろう。事実を尊重する気持は十分にあるのだろうが、問題は、彼らには事実検証家の仕事の方こそ、嘘に見えてしまっていることだ。     
 彼らは、新聞を読まずに、共和党有権者向けのラジオ番組、集会、そしてウェブサイトから自分たちに発信される言葉を拾い、その信憑性をかたくなに信じている。

 (5)何世紀にもわたってつくり上げられてきた「事実」を選定し、それに向き合うシステム。
 現在の米国では、その存在が終焉の危機にあるようだ。

□マイケル・エメリック(米カリフォニア大学ロサンゼルス校上級准教授・日本文学研究家)「米国の「事実」の終焉 ~現論~」(「日本海新聞」 2016年3月20日)
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