語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~

2013年05月11日 | 社会
 「文藝春秋」今月号は、6つの観点から中国に切り込む。江上剛がそれぞれの分野の専門家にインタビューする。括弧内はインタビュイーだ。

 【Ⅰ】階級社会「社会保障も進学も「戸籍」が決める」(阿古智子・東京大学准教授)
 【Ⅱ】外交「ポスト共産党政権に“保険”をかけろ」(川島真・東京大学准教授)
 【Ⅲ】経済「政経一体システムへの懸念」(柴田聡・財務省調査室長)
 【Ⅳ】軍事「人民解放軍が叛乱を起こす日」(杉浦康之・防衛省防衛研究所教官)
 【Ⅴ】サイバーテロ「狙われる潜水艦、原発プラント」(土屋大洋・慶應義塾大学教授)
 【Ⅵ】環境汚染「日本の技術でも解決しない」(井村秀文・横浜市立大学特任教授)

 ここでは、【Ⅰ】をとりあげる。

 (1)農村戸籍保持者は、中国国民全体の6割以上だ(推計)。人数は今は公表されていない。戸籍制度に対する批判があるせいだ。
 農村戸籍の親の子どもは、どこで生まれようが、農村戸籍だ。
 国家指導者は、みな都市戸籍だ。

 (2)都会の大学に入るには、都市戸籍保持者のほうが圧倒的に有利だ。北京や上海の都市戸籍の高校生は学力が低くても 地元の大学に優先的に入学できる。
 出稼ぎ労働の農民工の子どもは、小学校から北京の学校に通っている子どももいる。が、大学受験の際には戸籍のある田舎に帰らなくてはならない。そして、農村戸籍の子どもも北京の大学を受験できることはできるが、合格ラインが高く、受かりにくい。
 中国の大学は、地域別に合格者の枠を割り振る。昨年、北京大学が北京市籍保持者に提示した数は約600人だった。他方、農村戸籍の多い河南省、山東省は、それぞれ100人、70人だった。河南省の大学受験者数は北京市の約12倍、山東省は8倍近く。北京市籍の学生が、いかに優遇されているかが分かる。

 (3)格差助長の教育制度はほかにもある。「択校」もそうだ。
 義務教育の学校では、択校費を払えば学区外の希望の学校に入学できる。高校入試で点数が少し低くても、点数あたりいくらという択校費を払えば入学できる。
 かつて中国の公立学校には、都市重点校、都市普通校、農村重点校、農村普通校という違いがあった。重点校には、予算と優秀な教師が投入された。2000年代初めに廃止されたが、学校のランキングは依然として残っている。裕福な親は、択校費を払って、我が子をいい学校に入れようとする。
 ここ5年ぐらいで、就職の差別もすごく深刻になってきた。ただでさえ就職難で、毎年150万人ぐらいの大学卒業生が就職できない。農村戸籍の学生は、なおさら就職できない。

 (4)1957年に戸籍制度ができた。当時は毛沢東の時代で、工業化を急いでいた。都市部の工場労働者に食糧を安定供給する必要があった。食糧生産を担う農民を確保するため、戸籍制度が作られた。農民は移動を制限されたが、農村には人民公社が組織され、十分食べていけたので大きな不満は起こらなかった。
 改革開放の時代になると、都市部にもっと労働力が必要になったので、移動を自由化した。ただし、市民権を与えなかった。そこから格差が生まれた。
 一時期、「青色戸籍」があった。不動産を買えば漏れなく付いてくる。しかし今は、都市戸籍の需要が多くなりすぎて、続けられなくなった。
 以前は、農村戸籍でもいい大学に受かっていい企業に入れば、都市戸籍を取ることができた。しかし、この5年ぐらいで、大卒エリートでも都市戸籍
が取れない人が増えた。
 もう都市が飽和状態なのだ。加えて、都市部住民は自分たちの既得権益を守りたいから、新たに都市戸籍を発行したくない。
 都市戸籍の人と農村戸籍の人との結婚は、まず、無い。

 (5)農民は、戸籍制度を無くしてほしいが、都市の既得権益層、特権階級が廃止を認めない。
  国務院は地方政府に、昨年末までに、外地戸籍の子どもたちでも移住先の都市で受験できるような改革案を提出せよ、と指示した。しかし、大都市は軒並みに基準緩和を拒否した。外地戸籍の学生に入試の門戸を開くと、今まで受かっていた都市戸籍の受験生が不合格になる可能性が高くなる。そうした事態に対する親の反発を懸念したらしい。

 (6)戸籍その他、社会の仕組みが格差をどんどん増幅させている。既得権益層はどんどん太り、貧困層はどんどん貧しくなる。いまの格差は、縮まりようがない。
 社会保障も統一されていない。
 <例1>生活保護費(金額は2112年)
  ・上海市・・・・月収1,450元(18,000円)以下世帯 ← 月額570元(7,000円)
  ・湖北省沙洋県の農村・・・・年収1,500元(19,000円)以下世帯 ← 月額300元(3,800円)
 沙洋県の農民が上海に移住すれば、多くが生活保護の対象になる。これほどの経済格差が現実にある。これを全国統一した社会保障を作るとなったら、上海や北京の人は絶対に認めない。
  <例2>年金保険・・・・日本的国民年金はない。役所や大企業には年金制度が整っていて、きちんと老後生活ができるだけの支給はあるようだ。ただ、都市の人でも年金がない企業に勤めている人は多い。日本以上に少子高齢化が進んでいるから、年金基金自体が安定していない。農民にも養老年金があるが、まだ制度を作り始めたところで、基本的に老後生活は年金に頼れない。
  <例3>医療保険・・・・農村合作医療保険があるが、給付水準がごく低い。癌のような大手術をすると、1割出るか、どうか。

 (7)農村戸籍の人、低所得の人には、当然フラストレーションが溜まっている。
 組織活動の萌芽がみえたら、中国政府はすぐさま潰しにかかる。
 どんな国でも、国の誤りを追及する運動があって初めて国が良くなるのだが、中国ではそういう動きを抑え込む機能を高めていて、人材や予算を注ぎ込んでいる。軍事費より治安維持管理費のほうが上回っている、という話もある。
 対外的に強面を見せる中国政府は、国内の不満に怯えている。体制に近い人のみが既得権益者となり、一般国民の気持ちが離れて行っているので、政権基盤が脆い。
 政府が国民を信頼せず、国民同士の信頼もなくなって、社会の荒廃が進んでいる。一昨年、広東省で2歳の女の子が何回も車に轢かれて瀬死状態になっていたのに、誰も助けずに見ていた。みな厄介なことには関わりたくない。自分の利益にはならないことには手を出さない社会になった。
 いまの中国は不平等な競争社会で、社会的な階層が固定化されつつある。腐敗をチェックする仕組みがないので、政治システムが変わらないと悪循環は変わらない。

□江上剛ほか「中国 知られざる異形の帝国」(「文藝春秋」2013年6月号)

 【参考】
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~
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