語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【豊洲】新市場、解析データで浮かび上がった謎 ~盛り土による地盤沈下にズレ~

2016年10月04日 | 社会
 (1)東京・豊洲新市場(江東区)の移転問題が混迷の度を深めている。
 新市場の主要建築物の下に、東京都が土壌汚染対策として4.5mの盛り土(ど)を行う予定が、実際にはしていなかった。“消えた盛り土”問題は序の口。建物の床下に“謎の空洞”があり、水産卸売場棟の地下空洞地下から染み出したと推定される水が溜まっていた。
 しかも、この水産卸売場棟の地下に溜まった水について、都議会公明党は9月20日、環境基準では不検出であるべきシアン化合物が1リットルあたり0.1mg検出された、と公表したのだ。

 (2)そもそも、2008年に専門家会議が出した土壌汚染対策(盛り土)の提言はなぜ無視されたのか。
 移転決定時に都知事だった石原慎太郎は、9月13日のBSフジ番組に出演し、
 <盛り土にしなかったことを部下から「聞いていません。これは僕、だまされたんですね。
 さらに「してない仕事をしたことにして予算を出したわけですからね、その金はどこにいったんですかね。都の役人ってのは腐敗してるね」と話した>【注1】 
 が、地下にコンクリートの箱を埋める案について比留間英人・都中央卸売市場長(当時)が、東京新聞の取材に、
 <石原氏から「こんな案があるから検討してみてくれ」と指示を受けた。>【注2】
と明かすと、石原は態度を一変。
 <これまでの発言を修正し、「(自分が)専門家から聞き、都の幹部に検討したらどうだと言っていた」と述べた>【注3】
 ウソで都民を騙そうとした石原こそ、「腐敗している」。

 (3)盛り土をしなかった理由を探るため、東京都中央卸売市場の公式サイトを精査していると、興味深い資料が見つかった。「豊洲市場に関する会議資料」の「地質調査データ」「地盤解析データ」だ。東京都新市場建設室が発注し、民間の地質コンサルタント会社が2006年6月から12月まで調査している。
 地番解析データの「沈下解析」では、AP【注4】+6.5mまで盛り土した場合、埋め立て地のため軟らかい豊洲の地盤がどの程度沈むかを計算している。
 公示前である2006年当時の地表は、5街区(青果棟)はAP+6.5mに達しているが、6街区(水産仲卸売場棟)は現地盤から0.57~2.73mの盛り土が必要。7街区(水産卸売場棟)はおおむねAP+6.5mよりも高い盛り土が覆っているので切り土が必要だが、部分的に1.12~2.5mの盛り土が必要だとしている。
 そして、盛り土から1年間放置しても、6街区の一部で残留沈下【注4】が最大17cmあることがわかった。沈み方にこれほど差があれば、安定しないだろう。
 この対策として、
   ①放置期間を2年間と長くする。
   ②放置期間を1年間ならばAP+8.6mまで土を盛る。
・・・・が明記されている。専門家会議が提言した、地表から深さ2mを掘削して高さ4.5mの盛り土をすると、2.5mの盛り土になるので、最初の沈下解析があてはまる。

 (4)ただ都は、主要建物は基礎地盤まで届く杭基礎という方式を採用していると説明している。
 「地面の上にじかに建てる直接基礎形式ならば、盛り土より軽いコンクリートの空洞で沈下量を抑えようとしたと考えられるが、杭基礎ならば、コストはかさむものの、建物は地盤沈下の影響は受けない。ただ、駐車スペースなどとの段差が沈下で広がるのは困るだろう」【あるコンサルタント技術者】 
 東京都は、当時、2016年の五輪開催誘致を進め、豊洲新市場は12年開場を目指していた。誘致失敗などで開場時期が遅れるなかで、汚染対策も謎の変遷を遂げている。そして、費用があっかる工法にどんどん変わっているようだ。

 【注1】東京新聞、2016年9月14日夕刊。
 【注2】東京新聞、2016年9月16日朝刊。 
 【注3】東京新聞、2016年9月18日朝刊。 
 【注4】Arakawa Peil の略。荒川工事基準面のこと。
 【注5】地盤沈下が起こった際に沈降現象が収束しておらず、今後もまだ沈下が進む可能性があること。

□伊田浩之(編集部)「盛り土による地盤沈下にズレ 豊洲新市場、解析データで浮かび上がった謎」(「週刊金曜日」2016年9月23日号)
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 【参考】
【豊洲】は「空洞問題」で終わった ~当事者との合意形成が欠如~
【豊洲】市場では「安全宣言」を出せない ~土壌汚染対策法~
【豊洲】市場移転:宇都宮健児が小池百合子・都知事の決断を分析
【後藤謙次】築地市場の移転延期の決断が小池都知事の手足を縛るリスク
【五輪】が都民の生活を圧迫する ~汚染市場・アパート立ち退き~
【食】移転先の土壌、ヒ素汚染残して開場 ~築地市場~
【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~




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