語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ

2014年08月27日 | 震災・原発事故
 福島第一原発の汚染水対策が暗礁に乗り上げてしまった。
 何が問題だったのか。

 2011年の事故直後、馬淵澄夫・総理補佐官(当時菅内閣)が遮水壁の設計をするよう東電に指示したのだが、これを東電が先送りすることを海江田万里・経産相(当時菅内閣)は認めてしまった。1,000億円の巨額費用負担公表が、東電の破綻につながることを心配したからだ。
 破綻処理は、経産官僚にとって、絶対に許されない選択肢だった。
 何故か。

 原発事故直後に、松永和夫・経産事務次官は、三井住友銀行(東電のメインバンク)に対して緊急融資を求め、見返りに東電は破綻させないことを確約した、とされる。東電と銀行を丸ごと守り、経産省は東電ばかりか銀行にも恩を売って、天下り先の拡大を狙った。
 これ以降、東電を破綻させないことが、経産省の事務方に課せられた至上命題となった。

 2013年春以降、汚染水問題が再びクローズアップされた。
 この時も、松永次官が作りだした制約があったため、専門家でもない経産官僚が一番安上がりで済む方法を検討し、凍土壁方式に決めた。
 決めるにあたり、安いこと以外にもう一つ必要条件があった。それは、「できるかどうかわからない」ということだ。
 鉄とコンクリートの壁だと誰でもできる。しかし、巨大な凍土壁は研究開発的要素が大きくてリスクが高く、東電にやらせるのは酷だ。だから、国の研究開発事業としてやる、という理屈をつけた。それで税金投入が可能になった。
 本末転倒の極みだ。

 2013年9月には、オリンピック(2020年)招致のために、経産省が安部総理に、福島の状況はアンダーコントロール、汚染水は完全ブロックという大嘘宣言を世界に向けて発信させた。
 そして、国際公約だから国が前面に出るべきだと言って、税金の大々的投入を実現した。
 実は、これと同じころ、民間金融機関からの東電の借金借り換えが必要になって、国費をどんどん投入するから東電は安泰だ、と銀行に示すことが必要になった、という事情もあった。

 税金投入決定で、当初の縛りだった
  (1)金をかけられないという制約
  (2)そのために研究開発に見せかけなければならないという制約
が二つともいっぺんになくなった。よって、この時点で凍土壁にこだわる必要もなくなった。
 
 しかし、凍土壁の工事は、以前から鹿島建設に落札させる前提で作業を進めてきた。
 他の方式にすると鹿島建設が困る。
 そこで、秋の臨時国会が始まる前に、慌てて短期間の入札を行って、凍土壁方式で鹿島(と東電の共同事業)に落札させてしまった。

 基本的に、この時の構造が今も続いている。
 海側の工事でうまく地面全体が凍らず、諦めるしかない状況になったが、今さら止められないので氷やドライアイスを大量に投入する・・・・という漫画的泥縄になった。
 それでもダメなので、凍らない部分にコンクリートなどを注入して壁を作る、と言い出した。
 最初からコンクリートでやればよかったのだ。
 泡と消えた費用は数百億円にもなる。

 実は、日本で最も有力な専門家たちが、茂木敏充・経産相などに、新たな廃炉方式として「空冷式」の廃炉をずっと前に提言している。 
 経産省は、新たな廃炉方式を検討する、と言いながら、その事業への補助金はたったの5,000万円。これでは世界の有力企業は見向きもしない。真剣に考えるふりをするだけだ(アリバイ事業)。

 官僚の利権温存本能と場当たり的無責任。
 そのツケは、税金と電力料金で国民に回される。
 福島の被災者たちの不安解消も遠い夢のままだ。そして、東電と官僚の無責任を司法が断罪する【注】。

 【注】「「自殺と原発事故に因果関係」東電に賠償命令

□古賀茂明「凍らない凍土壁 ~官々愕々第121回~」(「週刊現代」2014年9月6日号)
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