事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「中原の虹」浅田次郎著 講談社刊

2008-07-06 | 本と雑誌

51mc2bbfkvhl  極道小説プロパーと思われていた浅田次郎は、「地下鉄(メトロ)に乗って」で新境地を開くがまったく売れず、それでは、と乾坤一擲の勢いで1800枚もの小説を書き上げ、高さ60㎝にもおよぶ原稿を台車で講談社に持ち込み大騒ぎとなる……浅田本人が言っていることなのでお得意の大ぼらに決まっていますが(笑)、しかしその小説「蒼穹の昴」はまちがいなく傑作だった。

清の時代、みずから宦官となって西太后に仕える春児(チュンル)と、科挙において筆頭の成績をおさめ、光緒帝を支える春児の義兄弟、梁文秀を中心とした物語。いやー泣いたな。この作品が落選して直木賞をゲットしたのが乃南アサの「凍える牙」。わけわからん。今は浅田自身が選考委員となっていて、あの賞の選考委員にしてはめずらしく候補作をキチンと読み込み(渡辺淳一は明らかに読んでないし、辞めちゃったけど津本陽のコメントはたわごとばかり)、ひとり新人に温かいエールを送っているのはこのときの経験があったからかも(→大森望+豊崎由美「文学賞メッタ斬り!」参照)。

 ミステリ的な「珍妃の井戸」をはさみ、ついに続篇の「中原の虹」が完結。やっとわたしも読み通した。

うわー。世の中にこれほど面白い小説も少なかろうと思う。

200pxqingnurhaci なにしろ時代設定がすごい。清朝の勃興期と滅亡のときを交互に描き、それぞれ「わが勲(いさおし)は民の平安」と唱え、行動する英雄たち。もしもわたしが歴史上のどこかをお勉強するとしたら、文句なく清を選ぶ。近代にして現代、ヌルハチ(「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のオープニングで、インディとギャングの争奪戦は彼の骨がきっかけ)からラストエンペラー溥儀までの皇帝はもちろん、ドルゴン、袁世凱、孫文(おそらく浅田は彼のことが嫌い)など魅力的で退廃したオールスターキャスト。そして何よりも日本と複雑にからみあっている。

西太后を「民のために自分を悪役に仕立て、清朝の幕引きを図る偉大な政治家」、張作霖を「天下を約束する龍玉(ドラゴンボール!)を手にしつつ、長城を越える魅力的な馬賊」として描く大嘘は、これはやはり浅田次郎の得意技だ。しかも章ごとに語り手を変え、時制も前後させるなど、小説作法上のケレンをこれでもかと仕込んである。

今回の主人公はその張作霖。日本人によって爆殺される最期を読者は当然知っているわけなので、どんな結末にするのかと思ったら……こうきたか(笑)。こりゃ続篇必至。愛新覚羅家をめぐる波瀾万丈の物語は、どうやらまだまだ終わらないようだ。

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