事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「線は、僕を描く」砥上裕將著 講談社

2020-02-19 | 本と雑誌

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気にいられ、その場で内弟子にされてしまう霜介。

反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけての勝負を宣言する。水墨画とは筆先から生み出される「線」の芸術。描くのは「命」。はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで回復していく。

そして一年後、千瑛との勝負の行方は。(公式HPより)

若者が、主に年長者の指導や叱咤を受けて次第に成長していく過程を描くジャンルを教養小説といいます。むずかしく言えばビルドゥングス・ロマン。代表作はトーマス・マンの「魔の山」読んでないけど。

むずかしくない例えでは、何といっても「Star Wars」にとどめをさす。ルーク・スカイウォーカーがオビ・ワンやヨーダの指導を受け、そしてダースベイダーと……わかりやすいですね。

この「線が、僕を描く」も、このジャンルに属します。他の作品となにが違っているか、それは主人公が没入するのが水墨画という点。作中でふれられているように、すでに終わった芸術ではないか、高齢者の趣味にすぎないというイメージ。青年に感情移入するに、もっともしんどそうな題材。

違いました。みずからも水墨画家である作者は、作品を生き生きと描くことに成功しているし、題材が青年の生活にシンクロするあたりもすばらしい(初心者の卒業画材が菊だなんてできすぎ)。そして、巨匠がなぜ青年に水墨画を教えたかの謎が最後に明かされ、いやこれに泣けない人はいないでしょう。

ベタすぎると考える人もいるだろうけれど、予想をはるかに超えてすばらしかった。水墨画バージョンの「蜜蜂と遠雷」。ぜひぜひ。


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