事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ジュニア」と「官能」の巨匠 富島健夫伝  荒川佳洋著  河出書房新社

2018-08-09 | 本と雑誌


富島健夫って、どれだけの人がいまおぼえているのだろう。いやわたしだってあやしいのだ。少女小説を読んだのは小野不由美の「十二国記」が初めてだし……でも彼の名前を見ると妙にドキドキするのは、官能小説系に走った(わけではないとこの評伝では解説されていて、それは納得できた)あとの読者だからだろうか。

引揚者であり、日本人がいかに薄汚い民族であるかを痛感した彼は、正義漢が理想的なセックスをくりかえす(わたしのイメージ)、自分の理想像を描き続けたのだと知る。ましてや、彼自身が美男であることは作品に強く影響しただろう。当時の少女雑誌における小説は、文字通り教養小説であり、少女たちを啓蒙するものだったせいで、彼が露骨に性について語ることが批判の的になったというエピソードは泣ける。そんな時代もあったんだ。

著者の荒川氏は富島の大ファンで、だからこそむしろ冷静な評伝にしようとしている(たまに、愛情が爆発しています)。だから彼の私生活にあまり立ち入らないようにしているあたりが、ゲスな読者であるわたしには少し不満。彼のようなファンだからこそ、そのことを描くべきだったのではないかとすら。

富島が河出書房の社員だった過去があったのも初めて知った。だからこの本が河出から出たのは本当にすばらしいことだと思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2018夏休みラーメン祭りVol.1... | トップ | 2018夏休みラーメン祭りVol.1... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

本と雑誌」カテゴリの最新記事