「機龍警察」で、ロボットアニメの設定に徹底したリアリズムをぶちこんで警察小説のエリアを広げた月村了衛(つきむらりょうえ)は、アニメの脚本でそのキャリアをスタートしている。その月村が今回つむいだのは、特撮オタクの世界に地道な人捜しのストーリーをしのばせた作品だった。
零細な出版社(なにしろ社名が黎砦社~れいさいしゃ~ですから)で、その名も「特撮旬報」というマニア向け雑誌を、事実上ひとりでやらざるをえない女性編集者、神部実花は、人捜しの神部という異名を持つ。
28才の彼女は、あらゆる手段を使って芸能界、映画界から消えた特撮もののキャストやスタッフを探し出す名人で……という設定はなかなか容れ物として魅力的。確かに“追想”の“探偵”だ。
収録された6篇において、表舞台から消えた人々にはそれぞれ哀しい事情があり、神部は自らの探偵的行為に悩むことになる。このあたりの渋みはいい。
それだけではあまりに地味なミステリということになるだろうけれど、あつかっているのが特撮ものなので、特に東宝怪獣映画や円谷プロ全盛期を知るわたしの世代などは、それだけでうれしくなる。
人気シリーズのなかで再放送もソフト化もされないエピソードがあるのはなぜか、という謎など、ウルトラセブンの第12話を想起させるし(被爆星人というフレーズはさすがにまずかったか)、そういえば特撮ものにはたまに壮絶にきれいな女性がゲスト出演していて、子ども心に胸ときめいたなあ、とか。特撮旬報が本当にあったら、わたしみたいなのが読者になるんだろうな。
彼女が人を捜す動機として、写真を掲載する許可をとらなければ、というあたりには編集の苦労がしのばれる。先日、「映画秘宝 激動の20年史」(洋泉社)を読んで、あの雑誌は初期にとんでもない無茶をしていたんだなとさんざん笑わせてもらったばかりなので。秘宝編集部が各方面とけんかしていたように、神部も出入り禁止をくらって落ち込むディテールがいい。予想外に面白い連作でした。オタクじゃない人にもおすすめ。
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