事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「闇に香る嘘」 下村敦史著 講談社

2015-05-11 | ミステリ

わたしにとって江戸川乱歩賞というのは、騒がれはするけれどもさほど興味をもてない存在。年末のベストはひたすらチェックするくせにね。ミステリの新人賞として最も権威があり、歴史があるにもかかわらず。

というのも、70年代に大人向けのミステリを読み始めたわたしにとって、その頃からの記憶に残る受賞作といえば

「アルキメデスは手を汚さない」小峰元

「ぼくらの時代」栗本薫

「焦茶色のパステル」岡嶋二人

「放課後」東野圭吾

くらいかなあ。近年になって真保裕一藤原伊織桐野夏生などが大成しているけれど、歴史のわりには歩留まりが悪いような気がする。

その点すごかったのは新潮社の日本推理サスペンス大賞で、わずか7回しかなかったのに高村薫と宮部みゆきという、ミステリ界の女王様と王女様を輩出。すごい。彼女たちが応募先として乱歩賞よりもこちらを選んだ理由が知りたいところではある(なんとなくわかりますが)。「機龍警察」は絶対に受賞できないタイプなので月村了衛も避けただろう。

さて、そんな乱歩賞だけれど、最新の受賞作であるこの作品は評価が高い。作者は、9年連続で乱歩賞に応募し、5回連続して最終選考に残り、ついに受賞。地力のある人なんでしょうね。

設定が凝っている。腎不全を患う孫娘に腎臓を提供しようと願うも、病んだ身体のためにかなわない盲目の主人公。彼には中国残留孤児である兄がいて、血縁があるのだからと提供を依頼するが、兄は頑強に拒む。ひょっとして本当の兄ではないのではないかと疑う主人公……

兄の意図したものがあからさまになるラスト。盲目の人間の生活を(徹底した取材を行ったのだろう)微細に描写する力。確かに、レベルの高い作品だとは思う。でも、どうにも読み続けるのが苦痛だった。なにより主人公に感情移入できないのがつらい。彼の行動は(予言されたとおり)誰も幸福にしない。物語の核が、成長しきれない老人のわがままでは……。

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