前作「Shall We ダンス?」から11年。周防の新作は意外なことに徹底した社会派映画だった。もちろん、彼のことだから単に日本の刑事裁判を糾弾するだけでなく、娯楽映画として十分に機能している。企画の段階では、痴漢冤罪がテーマなんて興行的にだいじょうぶかなあと思っていたが杞憂にすぎなかった。十億をこえるヒット。まずはめでたい。
それにしても演出のデリケートさには驚く。護送車の窓から見える“世間”への主人公の視線、役人らしく風呂敷で書類を包む検察官(専門部交渉を思い出して息が詰まる)、退屈さを隠そうともしない書記官の表情、レザー張りの椅子の音、あまりにエキセントリックなのでかえって「いるいるこういう人」と思わせる裁判官……まるで裁判がゴロリとそこに横たわっているかのようだ。周到な計算にもとづいた周防演出があったからこそだろう。11年も待った甲斐があった。長すぎるけど。
加えて、どんな風景の中でもそこにいきなりなじんでしまう加瀬亮(ひょっとして天才?)の存在がでかい。まるで芝居も何も「やってない」かのような自然な演技。彼でなければ、およそ成立しない映画ではなかったか?
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