ウィスキーボンボン 2個目

　別にゲイだといっているわけではないが、山本昌代（同い年）はとにかく変わっている。“面倒くさいから”という理由で結構美人らしいのに頭は丸刈りだし、ファッションにいたっては……

『毎年十二月になると、ポリエステルの綿入れジャンパーを買いにジーンズショップへ出かける。大体いつも同じ型。その年によって違う色を選ぶ。
ひと冬、同じ一枚を着続ける。洗うのは洗濯機を使うが、干してある間、ふるえている。寒いので。
春が来て、梅が咲く。その年初めての紅梅に出会った日、裏地の端にはさみを入れて、少しずつ綿を抜いていく。陽気が戻ったり、雨が降ったりするうち、ジャンパーは中身を減らして平たくなっていく。
綿を全部なくしたところで、裏地を切りとる。毎年、四月頃である。薄っぺらになって、洗濯も楽。
桜の季節を楽しんだ後、今度は袖を切り落とす。ジャンパーは襟付きチョッキになる。よく雑誌で目にする、バードウォッチャーのような恰好で、元気よく散歩に出る。
五月の終わりから六月のはじめになって、縁のあったその服とさよならする。真冬から初夏まで、着替えが要らないわけである。』
（エッセイ集「エルンストの月」）

　……変わっているにも程というものがあろう。今は確かイギリスに住んでいるはずだが、まだこのパターンを守っているのだろうか。

一般には「居酒屋ゆうれい」の作者として知られている彼女。三島由紀夫賞受賞作「緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道」（題名が長いのは、案が二つあったので両方とも使ったということであった。きっと選ぶのがめんどくさかったのだと思う）という大傑作を是非読んでほしい。

　主人公の名が鱈子（たらこ）さん、ということからも推し測れるように、サザエさんのパロディとしても読めるこの徹底してストーリーのない作品は、その陰に身障者への世間の悪意とかが微妙に透けて見える作りになっており、読者をとことん疲れさせる。国語の教科書とかによくあったでしょう、この時の登場人物の気持ちを二十五字以内であらわしなさい、とかいう問題が。あれがひたすら連続する小説だと思っていただければ……すいません、読む気なくしちゃいましたか？

　他に「朝霞」「魔女」「三世桂三木助（自殺した三木助のお父さんの評伝）」とか、いずれも一筋縄ではいかない作品ばかり。平賀源内を下品なホモに描いた作品もあるぞ。でも、おそらくは現代文学のいちばん良質な部分を体現している作家です。一度お試しを。

　で、新作「ウィスキーボンボン」、これがまた思い切りひねくれています。《まるでお稚児さんのような》と形容される主人公とその妻、そして姉夫婦、姉の昔の恋人。この主要な登場人物5人が複雑な五角関係を演じており、ほぼ全員が全員と何らかの肉体的精神的接触を果たすという、不貞とか同性愛などと呼ばれる世間の糾弾のはるか上（下？）を行く不道徳なお話。

　そのくせ、具体的にはまったく描写せず、読者の想像にすべて任せる無責任ぶり。題名のように、甘いお菓子のなかにきつい毒をしこむ手管。5人の枠外に、南米で幸福な母親となっている主人公の初恋の女性を置き、登場人物たちの不健康さを際立たせるテク。ヒントだけを盛大にばらまいたミステリのように、あるいは誰も死なないホラーのように読むこともできる、読み方まで読者に放り投げるひねくれ方……このくらい変わっていれば、こりゃ文句ありませんて。

　文化センターの少年たちよ、この作品も読めよ。日本文学のや行の棚にあるぞ。でもそっちでイチャイチャしちゃ駄目だぞ。司書のお姉さんたちから丸見えだからな。