サントリーの創始者、鳥井信治郞の物語。一種の経済小説、立志伝なので、日本経済新聞に連載されるのは理解できるにしろ、書いたのが伊集院静とはちょっと意外。しかし、コピーライター出身の伊集院が、広告文化の粋をきわめたサントリーについて書くのは自然なこととも。
ニッカウヰスキーの創始者、竹鶴政孝のほうは、すでに朝ドラ「マッサン」で描かれているのでおなじみ。あのドラマで鴨居欣治郎として堤真一が演じていたのが鳥井のモデル。よけいなことのようだけど、竹鶴よりも鳥井のほうがあのドラマではずっと大人だった気がする。現実はどうだったか。
すでに老身のため、公の場にほとんど出なくなっていた松下幸之助が、鳥井の銅像の披露には無理をしても出てきたのはなぜか。オープニングは丁稚時代の松下と鳥井の出会い。さすがにうまい。
赤玉ポートワイン(ワインでもなんでもなかったので、今なら食品表示法違反)というヒット商品がありながら、鳥井は国産ウィスキー生産に固執する。ゼロからのスタートなので、完成する5~8年のあいだ、なんの収入も生まず、金利だけでも膨大な額になるというのに。
原理主義的にウィスキーを追求する竹鶴(だからマッサンでは竹鶴を演じた玉山鉄二が子どもに見えた)と、日本人に向けた味を追求する鳥井。そして生み出されたのがホワイトとレッド(当時は白札と赤札)。売れ行きは低調だったが、寝かせたウィスキーが突然コクを持ち始め、これが角瓶としてヒット。続いてオールド、最後に鳥井がブレンドしたのがローヤルという流れ。ふむ。ローヤル以外は全部飲んだことあります(笑)。
おそらくは国税あたりと壮絶なやりとりがあったはずだけれど、そっちはいくら日経連載でも深入りせず、伊集院は情熱の人だった鳥井の人生をうまくまとめている。宣伝ということに彼ほど意識的な人もいなかったわけだしね。もうちょっとコクがほしかったような気もしますが。
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