事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「半島を出よ」 村上龍著 幻冬舎文庫

2008-04-22 | 本と雑誌

Hantohwodeyo 北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、2時間後、複葉輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧した。彼らは北朝鮮の「反乱軍」を名乗った。その後、北朝鮮中枢の策略により、12万人の反乱軍が福岡に迫る。財政破綻し、国際的孤立を深める近未来の日本に起こった奇蹟とは……。

かつて村上が激情を叩きつけるように書いた「コインロッカーベイビーズ」(傑作)「愛と幻想のファシズム」(大傑作)「五分後の世界」(それなりに読ませる)の系譜に属するポリティカルフィクション。このジャンルにおいて村上を超える作品を生み出すことはもう難しい。それは村上自身にとっても同様なはず。

「半島を出よ」(魅力的なタイトルだ)は、しかし北朝鮮という素材の奇矯さとあいまって、かなり読ませる。確かに欠点は多い。読者からはこんなメールも。

Mail03c 核となる主人公が不在の上、やたらと多い登場人物に感情移入しにくいことや、せっかくこれだけ取材・参考文献を収集したんだから全部作品に盛り込んだぞ、みたいな情報びっしり描写にはやや閉口ぎみ。

……当たってます。未消化であると同時に、危機管理がおざなりで、目前の破綻を意識しながらも改革できず、問題を先送りし続ける日本への糾弾も弱い。政治とは多数派のためだけのものなのか、という現実への怒りもどこか他人事だ。

 しかしわたしはこうも考える。北朝鮮軍部の【反乱】(こう名乗ることで日本は手も足も出なくなってしまう)に振り回され、政治的イニシアティブはいつものように米中に握られてしまい、この作品における内閣はほとんど何もできない。しかし、“それもまた日本なのだ”という一種の諦念すらうかがえるのだ。かつて「昭和歌謡大全集」で調布の街を吹っ飛ばしたイシハラ(映画では松田龍平が演じてます)たちの気狂いじみた行動によってこの事変はフロック的解決をみるわけだが、それが村上の皮肉である以上に、日本という国は、日本人は、そんなみっともない姿でこの世紀を生き延びてゆくのが運命なのではないかという……うーんこれは明らかにわたしの誤読なのかもしれない。あるいは、村上ではなくて、読者であるわたしの方が老いたのか。

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