「鬼龍院花子の生涯」にはじまった宮尾登美子原作シリーズは、特に女性客に好評だったが、もう怖いもののない日下部はこう述懐している。
「蔵」にもたくさんのお客が来たが、プロデューサーとして二点悔いが残った。宮沢りえが、正確にはりえママが、ビリング(クレジットの順番)がトップでなく、浅野ゆう子に次ぐ二番手なのが不満で、降りてしまった。それはありがちなことだからいいが、替りの女優の選択でいくぶん妥協をしてしまったのを未だに後悔している。本当は、あの盲目の少女役を松たか子さんにオファーしたかった。
もうひとつは、宮沢りえに主題歌を歌わせるというので酒井さんという音楽プロデューサーが参加したのだが、りえが外れても彼は残り、主題歌がさだまさしになったこと。さださんの歌は、「蔵」でのわたしの狙いに合わなかったと思う。
……妥協した選択、というかわいそうな言われ方なのは一色紗英。音楽プロデューサーの酒井さんとは、ソニーで山口百恵や郷ひろみを育てた酒井政利のことだろう。実は直前にNHKでつくられたドラマ版「蔵」では、松たか子が主役となっているので日下部の悔しさは倍加したはず。ちなみに、その松たか子の役の子ども時代を演じたのは井上真央でした。
映画づくりとは、かくのごとく妥協の連続であり、その飽和点をこえれば幻の企画となってしまう。社内プロデューサーとして、そして独立してからも、会社と監督のわがままのはざまで苦しみぬいた日下部の自伝は面白すぎる。
彼の現在の日本映画に対する眼はかなり厳しい。テレビ局主導で、製作委員会方式(数多くの企業が出資し、利益を分配するやり方。リスクが小さいがリターンも小さい)が多いものだから、毒のある企画が少なくなったではないかと。
まさしく、そのとおりだと思う。東宝のひとり勝ちである状況は
“おいしそうな企画はまず東宝に寄せられ、洗練された宣伝と、チカラのある劇場をおさえている”
ことによる。もしも東映が逆転を狙うとすれば、はったりでもいいから金をぶんどり、思うさま過激な作品をつくるしかないではないか。出でよ真のプロデューサー。その意味でも、この書は必読。
シネマの極道: 映画プロデューサー一代 価格:¥ 1,365(税込) 発売日:2012-12-21 |
んですね。よかったよかった。
でもそれ以上に、どんな不幸にもめげず宮沢りえは
女優として華開いています。よかったよかった。
思いました。
まもなく太秦ネタをまたやりますのでよろしく。