事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ルー=ガルー 忌避すべき狼」京極夏彦著 徳間書店刊

2007-10-11 | ミステリ

30847053  十二国記に続いて「少女」小説。しかも今度はこれに「武侠」が加わる。おまけに「近未来」そして「教育」「ミステリ」……なんでもあり。

 京極夏彦は「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」等の京極堂シリーズでおなじみのミステリ作家。デビューは伝説に彩られていて、デザイナーが手慰みに書いていた長大な原稿を講談社の編集者が受け取り、どんなもんかいな、と読み始めたらこれが大傑作(処女作「姑獲鳥の夏」)だったという、書籍編集者にとっての夢の象徴となっている。

 ただしこのシリーズ、タイトルを見てもおわかりのようにひたすら難解で、果たして読者がどれだけついてくるか、と思ったらいきなり大ベストセラー。本格ミステリ復興の時期にちょうど当たっていたことと(島田荘司「占星術殺人事件」の号参照)、なぜか少女たちの圧倒的な支持を受けたことがその要因となっているらしい。この少女たち、それぞれにお好みの登場人物がいて、コミケ(コミック・マーケット)あたりでは京極堂モノの同人マンガがかなり売られている。京極自身もアニメ好きで、日本一の水木しげるファンを自認しているし、彼が脚本を書いて声の出演までした「ゲゲゲの鬼太郎」は結構おもしろかった。見てるなーしかし私も。

Kyo5  その彼が、読者層ど真ん中の少女向けに書いたSF小説。題名は“狼憑き”の意。ミステリとしての出来はちょっと、と保留せざるを得ないが、徹底した20世紀批判と、少女たちの成長ぶりは気持ちがいい。舞台は21世紀中盤、前世紀の教育の失敗から【十代】という概念は消え、未成年は全て“児童”として扱われ、子ども同士の物理的接触はほとんど無く、コミュニケーションはすべてモニター上で行われる時代。何故か人体の一部が奪われる殺人事件が頻発する……。

 この時代の設定は、インターネットで読者たちから募集したものを取り入れている。おそらくほとんどが若年層からだろうが、目立つのは学校という制度への懐疑と否定。こんな具合。

「そもそも教師という職業は今、もうないんです。専門知識を修得する手助けをするのは講師ですし、社会規範遵守の手解きをするのは指導員。コミュニケーション研修には辛うじて教官という名称が残っていますが、これも近々改称されるでしょう」

「教育者というのは……今、いない訳だな」

「教育という言葉に教え育むという本来の意味が見出せなくなってしまったんです。強制し、訓練するというマイナスイメージしかなくなってしまった。過去のデータなどを観るとその昔はもっと幅広い意味で使われていたようですが、教えるにしてもいったい何を教えるのか、20世紀の終わり頃にはもう解らなくなっていたようですから」

30893344 耳、痛い。わからんでもないし。
にしても、京極にいきなりこの753ページにも及ぶ大冊(まるで弁当箱)から入るのはキツイでしょうし、京極堂シリーズは少しマニアック。おすすめは中央公論新社「嗤う伊右衛門」でしょうか。四谷怪談をベースにしたこの泉鏡花賞受賞作は、崩れた容貌をもってしてもなお誇りを失わなかった岩の純愛が胸に迫り、ラストでは感涙すること間違いなし。いいんだこれが。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「十二国記」シリーズ 小野... | トップ | 花火の夜 ~ 最初の夜 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ミステリ」カテゴリの最新記事