事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「嘘の木」The Lie Tree フランシス・ハーディング著 東京創元社

2018-02-05 | ミステリ

わたしはファンタジーが苦手。ハリー・ポッターも一巻目の途中で

「無理。これはおれには無理」

と放り投げたくらい。娘に読み聞かせてたのに(笑)。

そんなわたしがなぜ聞いたこともない作家のファンタジーに手を出したかといえば、読売の読書欄で、宮部みゆきが絶賛していたから。この人の書評は信用できる。

ちょうど司書が事務室にきて

「おすすめの本はありませんか」

と訊いてきたので新聞を指さし

「これ買って!」

学校事務職員になって本当によかった。で、生徒に悪影響を与えてはいけないからと、まずはわたしが毒味したわけ。ほほ。

ヴィクトリア朝のイギリス。「種の起源」が出たために彼らの宗教観や倫理観が揺さぶられていた時代。博物学者にして牧師であるサンダリー師は、人骨に翼のある化石をねつ造したとしてロンドンを追われる。彼を敬愛する娘、フェイスは父の汚名を晴らそうとするが、その父親は不審な死を遂げる……

サンダリー師が秘匿した植物こそが「嘘の木」。嘘を養分にして成長し、その実を食すと“真実”が見えるという設定。だからこの小説は嘘の恐ろしさと同時に真実のもつ恐怖も描いている。しかしこのおとぎ話的な設定も、現実的な説明も加えられており、むしろミステリとして一級品だ。

父親を殺したのは誰かを知るために、フェイスは嘘の木を育て(つまりは嘘をふりまき)、真実を知ろうとする。こういう設定なのでフェイスは“邪悪な名探偵”にならざるを得ず、そこがうまい。

しかしこの小説はそれ以上に、女性が差別された、というより問題にもされていなかった時代に、彼女たちがどのように道を切り開いていたかのお話になっていてすばらしい。たとえば、未亡人となった美貌の母親はフェイスの眼からは男に寄りかかるだけの存在に見えるが、実は……な深みも用意してある。そしてこの女性差別が事件ともきちんとからむのだ。

毒味大成功。しかしこれが児童文学のジャンルに属するというのがよくわからない。

「もしかすると、父もこんな気持ちだったのだろうか?だから、自分がしてきたことをすべて過ちだったとは認めずに、嘘を抱えたまま破滅の淵に飛びこんでしまったのだろうか?父もわたしも、負けがこんで、賭けごとをやめられなくなった賭博師のようだ。」

こんな述懐を受け止められるほどイギリスの児童は大人びているのだろうか。傑作。図書館に入れてよかった。負けるな日本の中学生。

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