事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ドライブ・マイ・カー」(2021)

2022-03-25 | 邦画

ほぼ3時間の作品。しかしまったく退屈しないし、むしろこの長さが必要だったのだと見終えて感得。

主人公の家福(かふく……西島秀俊)は役者であり、舞台演出家。妻の音(おと……霧島れいか)は脚本家で、家福とベッドにいる時も(このファックシーンは相当に激しい)不思議な物語をつぶやいている。

家福はロシアの演劇祭に招かれるが、荒天のためにフライトがキャンセルされ、自宅にもどる。そこでは、妻が他の男(誰かは描かれない)と寝ていた。そのことで彼はさほど動揺しているようには見えない。

家福は緑内障のために片目の視力が落ち、車(サーブ900ターボ)で事故を起こしてしまう。狼狽する妻。ある朝、彼女は家福に「話があるの。今夜聞いてくれる?」と告げる。家福が帰ってきたとき、彼女はすでにクモ膜下出血で死んでいた。

二年後、家福が瀬戸内の演劇祭に招かれ、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」を多言語で上演することになる。その条件として、みさき(三浦透子)という、若い女性にサーブを運転させることを求められる……。

脚本(濱口竜介&大江崇允)がとにかく周到。チェーホフのセリフと登場人物たちの生活が次第にリンクしていくあたり、うなる。また、演者たちに最初は台本を棒読みさせるのは実際の濱口のやり方でもあるらしい。

その、感情をそぎ落としたままの演技を見せるのが三浦透子で、無愛想だが、やがて彼女がなぜ運転がうまいのかが語られ、家福の再生につながる。片目の視力が落ちているのは、妻の一面しか見ていなかったことの象徴だろうし、犬の使い方もうまい。そして“韓国の手話”の迫力も圧倒的。妻と寝ていたのではないかと思われる高槻という役者(岡田将生)の独白もすばらしい。

そして村上春樹原作作品で最も成功した映画になった最大の要因は、西島秀俊の名演のおかげではないだろうか。わたしはまさか最後に感動させられるとまでは予想していなかった。大傑作です。ぜひぜひ。

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