陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

金魚的日常 その8.

2004-11-25 18:41:52 | weblog
8.250-150=100

キンギョの産卵とともに始まった秋は、孵化とともに深まった。そして新年を迎えるころは、最年少の七男七女を含めて、みんながいっぱしのキンギョになっていた。

なんといっても長男長女たちはデカいのである。
孵化して3ヶ月ほどしか経っていないというのに、もう体長も3cmほど、背びれも尾びれもピンとした、姿の良い小キンギョなのである。
これはどこへ出しても恥ずかしくない、立派なキンギョといえよう。

それに較べて、団塊の世代、三男三女たちは百匹近くをひとつの水槽に押し込めているせいか、いつまでたっても大きくならない。

四、五、六は、時期をずらしながら、ひとつ水槽に入れてしまったので、どれがどれだか見分けがつかなくなってしまった。
この三世代混合水槽は、例の120cmと見まごうばかりの45cm水槽なのだが、置き場がなくてタタミに直に置いていた。
窓辺で日当たりが良かったせいか、キンギョたちはどんどん赤くなっていく。日に当たると赤くなるのだということを、わたしは初めて知った。
日当たりが良いので、コケがはびこる。あっという間に水槽全体が緑に覆われる。緑の中に、チラチラ赤い姿が見えるだけ、という状態になってしまったのだが、実はこの時期、わたしの方がやたら忙しくて、水槽のコケ取りをする暇がなく、エサをやり、たまに水換えするだけで放っておいたのだ。ところがそのコンディションがキンギョには良かったらしく、この水槽のキンギョもよく育った。

ヤマトヌマエビという淡水エビがいる。
http://www.geocities.co.jp/AnimalPark/5164/yamatonumaebi.jpg
これは水槽のコケを食べてくれるらしい。
ただ、雑食性らしく、あまりキンギョが小さいと、食べられることもあるという。
まぁいいや、少々食べられたって。ウチにキンギョはいっぱいいることだし。
ペットショップで見かけた透明なエビは、キンギョを見慣れた目にはもの珍しく、掃除をしてくれるのなら、と思って、買ってしまった。一匹350円のを二匹。
一匹はコケだらけの水槽に入れた。
もう一匹はどうしよう。
とりあえず、おとっつぁんが悠々と泳ぐ30cm水槽に入れてみた。
すると、エビはあっというまに壁面を駆け上がり、外掛けフィルターの吸い込み口にかぶせたスポンジの上に乗ったまま、なかば水面から出るようにして、身を縮めてじっとしている。
おとっつぁんが怖いのだ。
そうかそうか、それはかわいそうなことをした。
団塊水槽なら、大丈夫だろう。
ここは収容魚数がなにしろ多いから、フンも多い(フンなども食べてくれるらしい)。エビの食料には事欠かない。
団塊水槽のエビを染之介、混合水槽のエビを染太郎と名前をつけてやった。

おもしろいことに、エビというのは、脱皮をするのだ。
水槽の底にうずくまった染之介が動いていない!買ってきたばかりなのに!と思ってよくみたら、脱皮した抜け殻だった。
ところがそれをキンギョのやつらが食べるのだ。
つんつんつつきながら、少しずつ囓り取っていき、じき、長いヒゲが二本、水槽の底に転がっているだけ、という状態になってしまった。
エビの方は、水槽を掃除してくれるどころか、キンギョにエサをやっていると、たくさんある足で忍者のごとくササササッと壁面を駆け上ってきて、真っ先にキンギョのエサを横取りする。
こんなはずじゃなかった、と思うわたしであった。

あるとき、染之介が、両手?で何かをつかまえて、一生懸命もぐもぐ食べていた。
その食べものには目があった……。
団塊水槽は生まれた時期は一緒でも、ずいぶん体格差がある水槽だ。
確かにすばやさでは、キンギョより染之介のほうが一枚も二枚も上手だ。
のろまで身体の小さいキンギョが、染之介のエサになってしまったにちがいない。
はぁー、海老一ブラザーズを連れて帰ったのは失敗であったか、といまさらのように思うわたしであった。

コケむした水槽のなかでは、いったい何が行われていたか、わたしには知るよしもない……。
たったひとつ確かなことは、壁面のコケは食べてくれなかった、ということだ。

その時期の忙しさが一段落ついてから、わたしは里子探しに本格的に取りかかることにした。
まず、姉に百匹ほど、貰われ先を探すよう、強く要請した。
見つからなかったら、そっちで引き取ってね。
送料ぐらい負担するから、三月にはそっちへ送るからね。

これで百匹の行く先は決まった。
さて残りは百五十匹だ。目標は、これを五十匹まで減らすことだ。

こういうとき、普通はスーパーや銀行のキャッシュコーナーなどに張り紙を出すものらしい。
わたしも先人の知恵にならって、張り紙を出すことにした。

秋に生まれたかわいい金魚、さしあげます。
かわいがってくれる方に。
先着6名様のみ

ついでに水彩色鉛筆で、金魚の絵も描いた。
なんというか、ただ赤いだけのフナみたいなウチの金魚とは似ても似つかぬ、いかにも金魚らしい金魚の絵になってしまったが、この際、細かいことは気にしない。

もちろん先着6名様、というのは大嘘で、6名様が60名様でも一向に構いはしないのだが、例の消費者心理、というやつだ。タイムセール、とか、限定、とか言われると、つい買っちゃう、というやつだ(本当に効果があるのか?)。

まず姉から電話があった。
「三月に百五十匹、こっちへ送って」
聞けば、幼稚園のお別れ会で金魚掬いをやることにした、というのである。
園児約60名。ひとりあたり二匹プラスαの計算である。
子どもはみんなやりたがるだろうが、ほしくない親もいるだろう。
そんなことをしてもいいのかどうか。
ところが姉はこともなげに、
「余ったぶんは幼稚園が引き取ってくれるように、話はつけといたから」
確かに昔から政治力はある姉であった。
生徒会長だったもんなー。

日にちにはまだ余裕があったので、輸送方法をペットショップのお兄ちゃんに相談した。
なにしろ数が多いので、そのぶん、慎重に準備していかなければならない。

元気で体格の良い長男長女たちの数を正確に数えたら、78匹だった。
残りの77匹は、弟妹たちのなかから選別することにする。

とにかく広いところへ入れたら、デカくなるのは経験済みだ。
水槽より、もっと広いもの……、と考えているうちに目に入ったのは、ベビーバスだった。
そう、赤ちゃんを入浴させるあれだ。
ベビーバスに、エアーポンプと水草を投入して、即席の池をつくる。
まだ水温も低いので、ヒーターも入れてやる。

緑の水槽をのぞいたのだが、染太郎の姿がない。
ヒゲだけが水槽の底に、それさえも囓られてずいぶん短くなった状態で残っていた。
脱皮するときを狙われたのだろう。
もう二度とエビは飼わんぞ、と思うわたしだった。

部屋の真ん中に突然出現した金魚池。
ペットショップのお兄ちゃんには、
「いつでも金魚屋になれますよ」と言われた。
こんなことをやって金になるんだったら、どんなにいいだろう。
だがしかし、金になるどころか、金は止めどもなく飛んでいくのであった。

(次回最終回)

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