Travelogue For Exiles
追放者たちのための旅行記
by Karl Shapiro
――カール・シャピロ
Look and remember. Look upon this sky;
見よ、そして記憶せよ。この空を見るのだ、
Look deep and deep into the sea-clean air,
海のように澄む虚空を、深く深くのぞきこめ、
The unconfined, the terminus of prayer.
限りのない、祈りのゆきつく場所を。
Speak now and speak into the hallowed dome.
いまこそ語れ、聖堂の天井に向けて語るのだ。
What do you hear? What does the sky reply?
何が聞こえる? 空はなんと答える?
The heavens are taken: this is not your home.
天は奪われた。ここはおまえの家ではない。
Look and remember. Look upon this sea;
見よ、そして記憶せよ。この海を見るのだ、
Look down and down into the tireless tide.
疲れを知らぬ潮の流れを、深く深くのぞきこめ、
What of a life below, a life inside,
下の命はどうなっている、水底の命は、
A tomb, a cradle in the curly foam?
墓か、うねる泡の揺りかごか?
The waves arise; sea-wind and sea agree
波は立ち上がり、風と海は唱和する。
The waters are taken: this is not your home.
水は奪われた。ここはおまえの家ではない。
Look and remember. Look upon this land,
見よ、そして記憶せよ。この地を見るのだ、
Far, far across the factories and the grass.
工場と草地を、遠く遠く越えて。
Surely, there, surely they will let you pass.
そうだ、あそこなら、きっとおまえを入れてくれるだろう。
Speak then and ask the forest and the loam.
ならば森や土に話し、訊ねてみるがいい。
What do you hear? What does the land command?
何が聞こえる? この地はなんと命ずる?
The earth is taken: this is not your home.
地は奪われた。ここはおまえの家ではない。
(訳は陰陽師)
***
読んで心地よく、わかりやすい詩というと、これを思い出した。
英語は得意ではない、という人も、ぜひ英語で読んでみてほしい。
韻律もきれいにそろっているし、頭韻も踏んである。とにかく読んで心地よい詩なのである。
内容は一転、重い詩である。シャピロがユダヤ系の詩人であることを考えると、これは故郷を追われたイスラエルの民の詩とも読めるし、社会に受け容れられることのないひとびとをExilesと読んだのかもしれない。
またTravelogue of Exiles(追放者たちの旅行記)ではなく、Travelogue for Exiles(追放者のための旅行記)なのはなぜなのか、詩人は追放者たちの一員ではないのか、など、さまざまに考えることもできるだろう。
1913年生まれのシャピロは、エリオットやパウンドのつぎの世代の詩人であり、パウンドやエリオットを知性偏重主義、と批判する。分析をこばみ、「詩のために詩を読む」ことを提唱する。
そういうシャピロの詩であるから、解釈よりもなによりも、「ルック・アンド・リメンバー」と声に出して読んでみてほしい。高い空を深く深くのぞきこむ、めまいのするような感覚を味わってほしい。そして、「ディス・イズ・ノット・ユア・ホーム」と言われたときの悲しみを感じてほしい。
追放者たちのための旅行記
by Karl Shapiro
――カール・シャピロ
Look and remember. Look upon this sky;
見よ、そして記憶せよ。この空を見るのだ、
Look deep and deep into the sea-clean air,
海のように澄む虚空を、深く深くのぞきこめ、
The unconfined, the terminus of prayer.
限りのない、祈りのゆきつく場所を。
Speak now and speak into the hallowed dome.
いまこそ語れ、聖堂の天井に向けて語るのだ。
What do you hear? What does the sky reply?
何が聞こえる? 空はなんと答える?
The heavens are taken: this is not your home.
天は奪われた。ここはおまえの家ではない。
Look and remember. Look upon this sea;
見よ、そして記憶せよ。この海を見るのだ、
Look down and down into the tireless tide.
疲れを知らぬ潮の流れを、深く深くのぞきこめ、
What of a life below, a life inside,
下の命はどうなっている、水底の命は、
A tomb, a cradle in the curly foam?
墓か、うねる泡の揺りかごか?
The waves arise; sea-wind and sea agree
波は立ち上がり、風と海は唱和する。
The waters are taken: this is not your home.
水は奪われた。ここはおまえの家ではない。
Look and remember. Look upon this land,
見よ、そして記憶せよ。この地を見るのだ、
Far, far across the factories and the grass.
工場と草地を、遠く遠く越えて。
Surely, there, surely they will let you pass.
そうだ、あそこなら、きっとおまえを入れてくれるだろう。
Speak then and ask the forest and the loam.
ならば森や土に話し、訊ねてみるがいい。
What do you hear? What does the land command?
何が聞こえる? この地はなんと命ずる?
The earth is taken: this is not your home.
地は奪われた。ここはおまえの家ではない。
(訳は陰陽師)
***
読んで心地よく、わかりやすい詩というと、これを思い出した。
英語は得意ではない、という人も、ぜひ英語で読んでみてほしい。
韻律もきれいにそろっているし、頭韻も踏んである。とにかく読んで心地よい詩なのである。
内容は一転、重い詩である。シャピロがユダヤ系の詩人であることを考えると、これは故郷を追われたイスラエルの民の詩とも読めるし、社会に受け容れられることのないひとびとをExilesと読んだのかもしれない。
またTravelogue of Exiles(追放者たちの旅行記)ではなく、Travelogue for Exiles(追放者のための旅行記)なのはなぜなのか、詩人は追放者たちの一員ではないのか、など、さまざまに考えることもできるだろう。
1913年生まれのシャピロは、エリオットやパウンドのつぎの世代の詩人であり、パウンドやエリオットを知性偏重主義、と批判する。分析をこばみ、「詩のために詩を読む」ことを提唱する。
そういうシャピロの詩であるから、解釈よりもなによりも、「ルック・アンド・リメンバー」と声に出して読んでみてほしい。高い空を深く深くのぞきこむ、めまいのするような感覚を味わってほしい。そして、「ディス・イズ・ノット・ユア・ホーム」と言われたときの悲しみを感じてほしい。