hiyamizu's blog

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小関悠一郎『上杉鷹山「富国安民」の政治』を読む

2021年03月25日 | 読書2

 

小関悠一郎著『上杉鷹山「富国安民」の政治』(岩波新書(新赤版)1865、2021年1月20日岩波書店発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

半世紀に及ぶ粘り強い取り組みによって、窮乏する米沢藩を立て直した上杉鷹山(一七五一~一八二二)。江戸時代屈指の「明君」として知られる彼が目指したのは、何のため、誰のための政治だったのか。改革を担った家臣たちの思想と行動、また鷹山明君像の形成を新たな角度から描き出し、その改革を日本の歴史に位置づける。

 

上杉家は、会津時代の120万石から、関ケ原後に米沢藩30万石となり、三代綱勝が跡取りを決めないまま急逝し15万石まで削減された。にもかかわらず、家臣を削減せず、四代綱憲が浪費して、財政は破綻した。権勢を誇る森平は農民から搾り取り農村は疲弊し、家臣も半知借上により生活が困難となった。さらに長年資金融通を受けてきた江戸本両替商の三谷家に不義理を重ね、借財をかたくなに断られる事態を招いた。

 

江戸家老だった竹俣当綱(たけのまた・まさつな)は森平を殺害し、奉行(家老)となり、藩主重定に隠居を迫って、改革を進め、民が豊かで安心できなかれば国も豊かになれないという「富国安民」を目指した。

開発・殖産政策や儒学者・細井平州の招聘、藩校・興譲館の設置など前半の改革(明和・安永の改革)は、鷹山はまだ幼く、奉行(家老)・竹俣当綱(たけのまた・まさつな)が中心となっていた。

 

鷹山は17歳で第9代米沢藩主となると、奉行竹俣を中核に、側近の莅戸(のぞき)善政とともに、下級武士を郷村出役として農村に派遣し、農村の実情把握、農作指導を行い、借財整理・藩政運営資金確保や、桑・漆・楮(こうぞ)百万本植立計画・藩営縮織工場設置などを行った。凶作・飢饉の際は藩の備米蔵を開き、他県から売米し、領民の糧食とした。

小藩から養子入りした上杉鷹山が隠居時に次代治広に与えた「伝国の辞」には「国家人民の為に立ちたる君にして、君の為に立たる国家人民には無之候」とある。

 

天明2年(1782)に竹俣が失脚すると鷹山も35歳で隠居した。天明7年、鷹山は徳川家斉から賞され、藩主後見となり、莅戸を中老、奉行として後半の改革(寛政改革)を開始した。
さらに、文化年間(1804~1818)には善政の子の莅戸政以(まさもち)による第三の改革が起こる。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

米沢藩での上杉鷹山の改革の中味がよくわかる。文章もわかりやすい。

江戸時代の藩政は「百姓は生かさぬよう殺さぬよう」のイメージがあったが、米沢藩のような例もあったのだ。経済の基盤がない武家政権は農民を富ますことが繁栄の唯一の道だったのだろう。同時に農業改革のための資金を都市の大商人から借財しなければならず、藩主自ら頭を下げても三谷家は断ったなどの記述も新鮮だった。

 

やむを得ない面はあるが、全体の記述が時代順ではなく、混乱しがちだった。

 

結果として繁栄した米沢藩も明治の時代への舵取りでは逆賊への道を選び、繁栄が続かなかったのは残念だ。

 

 

小関悠一郎(こせき ゆういちろう)
1977年、宮城県生まれ。2008年、一橋大学大学院社会学研究科修了。博士(社会学)。専攻は日本近世史。日本学術振興会特別研究員PDなどを経て、現在、千葉大学教育学部准教授。
著書、『〈明君〉の近世――学問・知識と藩政改革』(吉川弘文館)、『上杉鷹山と米沢』(吉川弘文館)、『藩地域の政策主体と藩政』(共編、岩田書院)、『よみがえる江戸時代の村田――山田家文書からのメッセージ』(共編、東北大学東北アジア研究センター)

 

目次

序 章 上杉鷹山は何を問いかけているか
第一章 江戸時代のなかの米沢藩
 1 開発・成長の時代
 2 一八世紀の経済変動
第二章 「富国安民」をめざして
 1 江戸時代の「富国」論
 2 竹俣当綱と上杉鷹山
 3 「富国安民」の理論
 4 三谷三九郎と馬場次郎兵衛
 5 殖産政策の展開――郷村出役と村々
第三章 明君像の形成と『翹楚篇』
 1 明君録とはなにか
 2 莅戸善政と上杉鷹山
 3 莅戸善政の思想と『翹楚篇』の鷹山像
 4 『翹楚篇』と寛政改革
第四章 「富国安民」の「風俗」改革
 1 藩財政と民のくらし
 2 莅戸政以の藩政構想
 3 文化初年の民政の展開――北村孫四郎の奔走
第五章 「天下の富強の国」米沢
 1 「富強」藩イメージの形成
 2 高まる名声とその広がり
 3 「富国強兵」を問い直す

参考文献
図表出典一覧
上杉鷹山略年表

 

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