藤原正彦・藤原美子『藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩』(文春文庫ふ26-4、2014年9月10日文藝春秋発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
街をゆっくり歩けば、いたるところで歴史の痕跡と出会う。隣り合う東郷平八郎と山本五十六の墓、パリで出会い日本でも隣組だった藤田嗣治と島崎藤村、今も残る引き出しのないマッカーサーの執務机……。藤原教授夫妻と多磨霊園、番町、本郷、皇居周辺、護国寺、鎌倉、諏訪を歩き、日本の歴史に出会うちょっと知的な散歩日和。
文藝春秋BOOKSの本書の「担当編集者より」にはこうある。
結婚して32年になる今でも、藤原正彦さんご夫妻は、夕食後に4キロの散歩を日課としています。そんなふたりの休日の遠足に密着した「文藝春秋スペシャル」人気連載『ふたりで歩く古典散歩』は多磨霊園、番町、本郷、皇居、護国寺周辺を歩き、ふたりの軽妙なやりとりで好評を博しました。単行本化に際し、ご両人の故郷である諏訪と鎌倉へと足をのばし、歴史の舞台を訪れ、偉人たちの生涯に思いをはせながら、ふたりは新たな発見を重ねます。(NM)
各訪問地での二人の散歩写真と、訪れたすべての場所を示す案内図が載っている。
鎌倉は、京都の壮麗や奈良の威厳はないけれど、住宅地や山間(やまあい)の細い道の先にひっそりと息づいている神社はどこか肌に暖かくなじむような気がし、訪れるたびに好きになる。(正彦)
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
長年東京に住んでいても都心の住宅地に行くことはめったにない。江戸、明治の歴史的地点を巡る散歩は、意外な所に意外な記念物などがあり、教養ある二人に歴史とともに、なるほどと教えられた。
戦前の知識人の恐るべき男女関係に改めてびっくり。週刊文春もかわいいものだ。
脱線ついでに、首相も閣僚など文春にお伺い立ててから指名すればよいのにと毎回思う。
二人のやりとり、というか負けてない美子さんの反撃が面白い。
正彦 そう。僕は褒められたことは全部覚えていて、けなされたことは全部忘れるの。
美子 美しい女性に「先生、意外に足が長いんですね」と褒められたとか、何度も聞かされたわ。謙虚な私なら、足くらいしか褒めようがなかったのかな、と思ってしまうんだけど。……
藤原正彦(ふじわら・まさひこ)
1943(昭和18)年、旧満州新京生れ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。1978年、『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞
その他、『遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス―』『父の威厳 数学者の意地』『心は孤独な数学者』『国家の品格』『この国のけじめ』『名著講義』『ヒコベエ』『日本人の誇り』新田次郎との共著『孤愁 サウダーデ』()。新田次郎と藤原ていの次男、藤原美子の夫。
藤原美子(ふじわら よしこ)
1955年、米国プリンストン生まれ。カウンセラー、翻訳家。ハリウッド大学院大学教授、筑波大学附属視覚特別支援学校講師。専攻は発達心理学。
お茶の水女子大学修士課程修了後、数学者の藤原正彦氏と結婚。3人の息子がいる。父は化学者の田丸謙二、双子の姉は立教大学教授の大山秀子。
著書、『子育てより面白いものが他にあるだろうか』、『我が家の流儀-藤原家の闘う子育て』、『家族の流儀-藤原家の褒める子育て』、『夫の悪夢』、『藤原家のたからもの』
本書、藤原正彦との共著『藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩』
画家の藤田正嗣は50歳のときに25歳年下の夫人と5度目の結婚した。
北原白秋は隣家の夫人と関係ができて、その夫から姦通罪で告訴され、囚人馬車で市ヶ谷まで運ばれて、二週間獄舎に繋がれた。裁判のときには、編み笠をかぶせられ手錠をはめられた。
汚れちまった悲しみに 中原中也
汚れちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れちまった悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れちまった悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れちまった悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢む