『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  264

2014-05-03 07:04:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜は忙しかった。オロンテスが返ってくる、スダヌスが来訪する、各人と話を交わす、これからを判断して仕事を決める。段取りを決める、指示を出す、対処する。パリヌルスら三人の意志で事が運ばれていく。オロンテスが動いた。
 『俺は、報告を終えて、夕めしの支度準備に取り掛かる。いいな』
 『判った。じきに今日の漁の結果が判る、判ったらすぐに知らせる、いいな』
 パリヌルスがオロンテスに声をかけた。
 『パリヌルス、俺は、樹木調査隊の面々の顔を見る。この場をよろしく頼む』
 『おう、判った。調査隊のことよろしく頼む』
 『判った』
 オキテスも場を離れていった。パリヌルスがスダヌスのところへ歩を運んだ。パリヌルスは、改まった。
 『お~お、お待たせしました。スダヌス殿、よくぞこの地へおいでくださいました。元気でしたか』
 『おう、この通り元気だ。統領以下の皆さんも元気にお過ごしですかな。パリヌルス、そこまでだ、改まった外交辞令はよせ。お前と俺だ、ハッハッハ』
 『さっきはさっき、あれは頭と俺との二人の仲でのことです。我々一族にとって頭は客人です、それも大切な客人です。礼を尽くすのが当り前です』
 『判った。だがだ、二人でいるときは隔意なく言葉を交わす、それがお前と俺の仲だ』
 『判りました』
 二人の心が通い合った。
 『チョッピリくどい味の会話を交わしたな、パリヌルス。お前らなかなか、よくやるじゃないか、集散所に売り場をもって、仕事をやったりと』
 『今日が仕事を始めて二日目なのだ』
 『俺のところへは、昨日の夕刻にニュースとして飛び込んできた。俺は、エエッと驚いた。びっくりしたぜ、もう、、、』
 『事前に知らせなければと思っていたのだが、連絡できなかった、許せ。あれやこれやと多忙を極めていた。話したいことが山ほどある、あとからゆっくりと話をしよう』
 『おう、判った』
 『このあと、スダヌス、あなた方の歓迎の夕めし会を予定している。今晩は、集落に泊まれ、いいな。息子たちは?』
 『二人とも一緒に来ている。いま、クリテスと話し合っていると思う』
 『ところでスダヌス、明日の予定は?』
 『俺の予定か、特にない』
 『お前だけ残れ。相談ごともある、お前の身はスオダまで俺たちが送る』

『トロイからの落人』FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  263

2014-05-02 06:42:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスがパリヌルスの傍らに立った。
 『パリヌルス、帰ったぞ。その後、状況はどのようだ?』
 『おっ、オキテス、ご苦労であった。心配に及ぶことは起きていない。調査隊の連中も無事らしい。安心しろ』
 『安堵していいということか』
 『ということだ。おまえの思惑のチェックだがうまくいったか』
 『その件か、うまくいった。しかし、実行してうまくいくか、いかないかは別の問題だ。オロンテスに頼んで木札で干し魚を買ってきた。詳しい事情はあとからにしよう』
 『何っ、干し魚を買ってきたのか、それは好都合だ。こちらでも干し魚を作る手配をしている。明日の夕めしに口にすることができる』
 『それはよかった。いいジャストタイミングというところだな。品比べ、味比べもできる。それを物差しにして価値判断のてがかりにもなる。我々が生産する価値総量も計れる』
 『価値総量か、素の物差しで価値判断できるということか』
 『そうだ、えらい進歩だ、パリヌルス。ほかの者にこれを説いても、理解するか、しないかは別の問題だが。お前と俺の間では理解し合えると思っている』
 『判った。お前の考えは貴重な考えだ、俺は尊重する』
 『パリヌルス、ありがとう。理解してくれて』
 『まあ~、ご苦労であった。このロジックについては二人の検討課題だな』
 『そうしよう。ところで、樹木調査隊の連中が帰ってきているといっていたな』
 『それには、いろいろとまではいかないが、何か事があったらしい。君らが浜に着くちょっと前に、帰って来たという連絡を受け取った』
 『全員無事なのか?』
 『無事らしい、そこまでだ。俺も皆の顔をまだ見ていない』
 二人のところへオロンテスが寄って来た。
 『おう、オロンテス、ご苦労。今日の首尾はどうであった?』
 『重畳であった、喜べ。そこでだ、今日のこれからの事だ。この時間だ、皆で夕めしと思案したのだが、客人もあることだ。両人の意見を聞きたい』
 『オキテス、どうだ?』
 『俺は諸手を上げて賛成だ』
 『よしっ!やろう。オロンテス』
 『判った。準備支度を指示せにゃならん。いつもの浜焼きスタイルでいくぞ!』
 『それでいい。オロンテス、アレテスの方だが、今日、彼らは漁に出ている。魚が獲れたかを確かめる』
 パリヌルスはそのように言ってギアスを呼んだ。
 『ギアス、今日もご苦労であった。ところでだ、島へ行ってきてくれないか。用件はだな、今日の漁の結果を知りたい。それで、その獲れた魚をもって全員こちらへ来るように伝えてくれ、皆で夕めしを食べるとな』
 『判りました。漁の結果にかかわらずですね』とギアスは念を押した。
 『そうだ。準備する食材の関係があるから結果を聞きたいだけだ』
 『判りました』
 ギアスは舟艇で島へと急いだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  262

2014-05-01 07:17:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ちょっとという時に使う手持ちの船を持たない不便を感じていました。そのようにしていただければ幸いです』
 『アレテス、判った。早速やろう。何事も迅速に解決していく、これをモットーとして事をやる。しかしだ、修理にちょっと時間を要する、これは堪えろ。お前が調査に出る前に方針をはっきりさせておく』
 『ありがとうございます』
 『まあ~、以上だ。俺は帰る。もうそろそろ、キドニアへ行っている連中も帰ってくる頃だ。それにレフカオリ山ろくの樹木調査隊も帰ってくる。このクレタが少しづつだが見えてくる。まあ、そういったところだ』
 アレテスとあれこれと話し合ったパリヌルスは、浜に帰った。キドニアからの連中がまだ帰ってきていない、昨日に比べて帰りが遅い、それを思いながら東のほうへ目を移した。
 彼方に、こちらに向かっている2隻の船を目にした。
 『誰かが来る?果たして誰だ』
 彼は一瞬、訝ったが、スダヌスかもしれないと気がついた。
 イリオネスの許から樹木調査隊の帰投が知らされた。心中から気がかりがひとつ消えた。
 彼は心中ひそかに想った、『身が二つほしい』であった。調査隊の帰投、訪問者の来駕、このふたつに同時にあたりたいが、身がひとつである、訪問者と会うことを優先した。
 あれこれ考えているうちに2隻の船は指呼の距離に迫っていた。大型の漁船はスダヌスの船であることが見てとれた。船上で手を振っている。スダヌスである。かすかに声が届く、例のガラガラ声である。彼らの船が浜に着いた。パリヌルスは歓迎した。
 船から飛び降りたスダヌスは、パリヌルスとの間隔が短いにもかかわらず、10数歩足らずを小走りに駆けて、しっかりとパリヌルスの肩を抱いた。二人の間に言葉を必要とはしなかった。二人は、しっかと肩を抱き合った。肩に手を置いて、目と目を見つめ合った。
 『おう、パリッ!元気であったか』
 『スダヌスッ!元気だったか』
 ふたたび、二人は肩を抱き合った。