第１章 トロイからの脱出 ９１

　持ち場に戻ったルドンは、操舵手のトリオスに指示をした。
　『レムノスの北端の岬の線を通過したら、進路を北北東に向けるのだ。目指すは、イムロスの西沖であり、サモトラケの東沖だ。いいな。判ったな！』
　『了解っ！』
　『風がまともに船を押してくる。船足が速くなるぞ！操舵に集中して気を配れ！いいな。波の具合に注意を怠るな！』
　『了解っ！』　声が風に飛んだ。
　レムノスの岬の線は通過した。船団は、進路を北北東に振って、イムロスの西沖に向けた。風は船をまともに押してくる。船足にスピードがついてきた。船首の衝角が波を割り、蹴って船は進んだ。帆の風のはらみ具合は、帆を心もち下げて調整した。
　群青の海、風が散らす波頭、ぎらつく真上の太陽、その暑熱は、船上の者たちを容赦なく焙った。