『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  93-2

2009-07-16 18:53:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ユールス、父は、これから考え事をする。お前は、爺じのところに、行っていなさい。』 アエネアスは、静かに息子の背中を押した。
 アエネアスは、軽く目を閉じて、船の動きに身を任せ、船のゆれに身体を同調させた。彼は、祈りの力を信じて、エノス上陸についての思考に没頭した。
 エノスに上陸予定の総人員は、戦闘員700、非戦闘員200、総勢900人余りである。
 総員900人余りと少ないが、ひとつの都市国家(ポリス)の建設を目指す、その人たちを率いて事を為す、一国の統領としての重責を担っているのである。一国の統領として為す国家経営の大事は、正邪ではなく、一国の行為としての正当性であった。
 今、アエネアスを頼る人たちは、彼を一国の統領と仰いでいる。自分は、その信頼に応えていかなければならないのである。

第1章  トロイからの脱出  93-1

2009-07-16 08:55:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昨日、沈み行く夕陽を追いかけて、エドレミトの船だまりを出航した彼らは、あれからはじめて、使命からはなれたことについて考えをめぐらせていた。それにしても暑かった。しかし、洋上で見る、このエーゲ海の風景の美しさにいっとき心を奪われ、見とれた。これから見舞うであろう苦難のことは、頭の片隅に追いやられていた。
 アエネアスもまた、アスカニウスを膝上に抱いて、風景を眺めていた。我が子に声をかける父の姿がそこにある。風に飛ぶ波のつぶてが父と子をうった。
 『アスカニウス、どうだ。海が怖いか。わしも海が怖い。でも、海を恐れてはならん。海は、私たちに利をもたらすのだ。そのことを忘れてはならないのだ。判るかな。』 理解できずにうなづく、アスカニウス。
 『アスカニウス、どうだろう。お前の名前のことだが、今日から、新しい名で呼ぼうと思っている。いいかな。』 息子アスカニウスの目が輝いた。
 『今日から、お前を『ユールス』と呼びたい。いいだろう。お前は今日から『ユールス』だ。いいな。』 アエネアスは、念を押した。そして、統領としての我に返った。