故国トロイを落ちのびて、エノスで過ごし、エーゲ海を漕ぎ下り、地中海のこの島に上陸した700人余りのトロイ民族である。彼らは、いま、このときから過ごす、クレタなる島嶼の大地を確かめた。
月明かりの浜に立ち、海を眺め、背にする半島の丘の暗闇を透かし見た。彼らは感慨に息を詰まらせた。
トロイの地を戦火で追われ、エノスに逃れ、海洋を渡り、たどり着いたクレタ島である。クレタ島は、耳にしたことはあるが彼らの全く知らない土地であった。進んだ文明のある土地だと言うが、彼らの触れたことのない文明の土地である。彼らは、自分たちが有している文明に誇りをもっており、優れた文明であると自信をも持っていた。文明の差異に誇りを失うことなく、この土地で過ごせるか。その気分が心栄えに影を落とした。しかし、思うにはるばる遠くに来たと言う実感を払いのけることはできなかった。
頭上に輝く月は、旅の途中で見た月、エノスの浜で見た月、故国トロイで見た月と比べて、何等変わることのない月の風情であった。
イリオネスは、浜の砂を踏みしめて立っていた。彼は自分の心のうちをのぞき見て首を傾げた。
『いま、俺が抱いているこの思い、気がかりは何なのだ』
彼は考えた。彼は見えていない明日に一抹の不安を抱いていることに気がついた。
『こうしてはいられない。打ち合わせておかなければ、、、』
彼は数歩離れたところに立っているアエネアスの傍らに歩み寄った。
月明かりの浜に立ち、海を眺め、背にする半島の丘の暗闇を透かし見た。彼らは感慨に息を詰まらせた。
トロイの地を戦火で追われ、エノスに逃れ、海洋を渡り、たどり着いたクレタ島である。クレタ島は、耳にしたことはあるが彼らの全く知らない土地であった。進んだ文明のある土地だと言うが、彼らの触れたことのない文明の土地である。彼らは、自分たちが有している文明に誇りをもっており、優れた文明であると自信をも持っていた。文明の差異に誇りを失うことなく、この土地で過ごせるか。その気分が心栄えに影を落とした。しかし、思うにはるばる遠くに来たと言う実感を払いのけることはできなかった。
頭上に輝く月は、旅の途中で見た月、エノスの浜で見た月、故国トロイで見た月と比べて、何等変わることのない月の風情であった。
イリオネスは、浜の砂を踏みしめて立っていた。彼は自分の心のうちをのぞき見て首を傾げた。
『いま、俺が抱いているこの思い、気がかりは何なのだ』
彼は考えた。彼は見えていない明日に一抹の不安を抱いていることに気がついた。
『こうしてはいられない。打ち合わせておかなければ、、、』
彼は数歩離れたところに立っているアエネアスの傍らに歩み寄った。