『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 1096

　一同がイリオネスの目に目を合わせる。
　『おう、諸君！君らにこの報告ができる！俺は嬉しい、聴いてくれ。君らも知っているように集散所よりの連絡を受けて、昨日、新艇５艇の決済の第一回目の支払いを受け取った』
　パリヌルスが問いかける。
　『第一回目といわれると、全額の決済ではないわけですね』
　『おう、そうだ。決済の場には、オキテス、オロンテスが同席している。決済方法は三回の分割決済となる。第一回目が支払総額の２分の１、第二回目が６０日後に４分の１、第三回目が９０日後に４分の１を受け取って全額の決済となる。全額がその都度ドラクマ銀貨で支払われる。その決済の光景を見ていないのは、統領とパリヌルスである。袋に詰まったドラクマ銀貨のその姿を見ていないのは、パリヌルス、お前だけだな、あとから俺の宿舎に立ち寄ってみたらいい』
　イリオネスは、そのように話して一同と顔を合わせた。
　『そのようにして第一回目の決済を受け取ったことを一同に伝える。統領、この件についてなにか一言ありますか？』
　『おう、ある！この件に関して、この場を借りて、心から君らに礼を言いたい。新艇全艇の完売、第一回目の決済の受け取り、君らの業務の遂行があったればこそである。ありがとう！』
　アエネアスが手をさし伸ばす、一同と固く握手を交わした。
　『統領、よろしいですね、次の話に移りますが？』
　『おう、いい、続けてくれ』
　『では、次の件に移る。このクレタ島の東地区にあるマリアの集散所から、新艇２艇の引き合いが来ているそうである。商取引には、大型商品に関しては、引き合いという、買おうかどうしようかの折衝する機会がある。その引き合いには、いろいろある』
　ここまで言ってイリオネスは、一同の目を見る。
　『ただ単に商品説明を聞いてみるといった引き合いと限りなく発注に近い引き合いとである。集散所から伝えられたこの件は、発注を考えた引き合いだそうである。集散所の要望としては、パリヌルス、お前が木板に描いた新艇の姿形図と新艇の仕様書きと図面を五組、欲しいと言っている』
　イリオネスがパリヌルスと顔を合わせる。
　『これは業務指示である。この姿形図と仕様書きを五組仕上げてほしい。それが出来あがったらオロンテスに集散所に届けるように手配してくれ』
　『解りました。向こう三日くらいで仕上げます』
　『おう、それでいい！頼んだぞ。以上が昨日の集散所における、俺の仕事であった』
　『軍団長、ご苦労でした。次に一同で話し合うことは、今日の重要議題である我々のネクストである。今、軍団長より説明のあったこともあり、新艇の建造について改めて考えてはどうかと考えられる。このことを含めて次の議題の討議を行う。オロンテスが、堅パンの焼き損じを持ってきてくれている。それを食べながら議論をやろう』
　オロンテスが持参した堅パンの焼き損じをテーブルの上に置いた。
　一同が一斉に手を伸ばしてくる、堅パンの焼き損じをつまんで口に放り込んだ。