葉月のブログ

命題:ウイルスの糖鎖はヒトの糖鎖と同一なので病因とはならない

ラボから漏れた2003年SARSのケース

2020-08-12 | 2003年SARS
Trop Med Infect Dis. 2018 Jun; 3(2): 36. 
A Review of Laboratory-Acquired Infections in the Asia-Pacific: Understanding Risk and the Need for Improved Biosafety for Veterinary and Zoonotic Diseases

「アジア太平洋地域における研究所から漏れた感染症のレビュー」から、2003年のSARSのアウトブレイク後に、3件のSARS症例があったことがわかりましたので、それらの報告を調べてみました。


2003年のシンガポールのケース
「ラボで感染したSARS」
ウエストナイルウイルスを保存している試薬瓶にSARSがコンタミしていたということ

27歳の大学院生
2003年9月3日発熱で入院
2003年7月と8月に、弱毒化していないウエストナイルウイルスを取り扱った
同研究所では、SARSコロナウイルス、デングウイルス、クンジンウイルスの研究が行われていた

患者は8月26日発症、発熱、頭痛、多発性関節痛
3日後、シンガポール総合病院の救急にて、無熱、血液検カウントと胸部X線異常なしのため帰宅
9月3日、発熱が継続していたので入院。2日間の乾咳。SARSへの暴露なし、旅行歴なしと報告。
体温37.6°C、酸素飽和度98%
程度の白血球減少、血小板減少、高トランスアミラーゼ、高乳酸脱水素酵素709
胸部X線異常なし、
翌日、SARS暴露の可能性が否定できないため隔離病棟に移る
9月8日 PCR検査と血清検査でSARS-CoV陽性確認、指定病院へ転院
9月11日 胸部X線 left midzone pulmonary infiltrate 
9月13日 胸部CT 図1 pulmonary infiltrate in the apical segment of the left lower lobe
呼吸状態安定、酸素サプリメント必要なし、発症の12日後正常体温解熱、乾性咳はその後1週間続く
9月16日退院
14日自宅隔離

疫学調査
ラボの調査  

   

RT-PCR プライマー

N遺伝子 SANS1 5'TGGACCCACAGATTCAACTGA3' and SANPAs2 5'GCTGTGAACCAAGACGCAGTAT3', and the probe 5'FAM-TAACCAGAATGGAGGACGCAATGG-TAMRA3'

血清分析

酵素免疫法 CDCプロトコール

SARS-CoV感染VeroE6細胞可溶化液と非感染VeroE6細胞可溶化液をCDCより提供された

ラボの他の研究員の血清も抗体検査を行った

ウイルス培養
2003年9月4日採取の喀痰サンプルをVeroE6細胞に添加

ウイルスゲノム配列決定
RNA抽出(試料は、患者痰サンプルとウエストナイルウイルスサンプル)
cDNAへ転写(SARS-CoVゲノムのプライマー使用)
PCR(ウイルスゲノム16領域のうち15領域のDNAが増幅された)
患者のサンプル株Sin0409
ウエストナイルウイルスコンタミサンプル株SinWNV
配列決定 ハイブリダイゼーションと自動キャピラリー機器の2種類の方法
 
結果
疫学調査
患者は、7月下旬、研究所AのBSL-3ラボで研修を受けた
患者は、ウエストナイルウイルスのみ扱った

ラボテクニシャンがウエストナイルウイルスとSARSの両方を取り扱っていた

8月23日朝、テクニシャンはウエストナイルウイルスを含む2つのフラスコを混合し、遠心分離した
患者がラボに入る
1回目、テクニシャンと一緒で、患者は作業なし
テクニシャンは遠心分離器からサンプルをドラフトに移し、患者に作業法を教える
2回目、患者は一人でラボに入り、ドラフトの中で培養上澄みを低温用試験管に移す、使用済み試験管はブリーチで消毒
3回目、テクニシャンと一緒にラボに入り、低温用試験管をBSL-2施設の冷凍庫へ移送
 

PCR、血清分析、ウイルス培養

患者喀痰 9月4日採取 PCRでSARS-CoV陽性
結膜と血液サンプル 陰性
PCR簡易キット(Artus kit)も同様の結果
喀痰サンプルを15日培養しても、SARS-CoVは培養されなかった
 
患者が扱った低温用試験管内のウエストナイルウイルスサンプルは、ウエストナイルウイルスPCR陽性、同試験管内から高量のSARS-CoVのRNA (4.625×106 copies per milliliter)も検出
 
患者血清(9月3日)SARS-CoV抗体陰性
9月8日陽性、酵素免疫法6400、 免疫蛍光法IgM及びIgG (抗体価160)陽性患者のサンプルは、他の病原体は、サイトメガロウイルス以外は陰性
サイトメガロウイルスはIgG抗体が陽性(表1参照)



テクニシャンも含めてすべての濃厚接触者のすべてのサンプルは陰性

患者からのSARS-CoV(Sin0409)ゲノムは、完成度87%
世界中のSARS株と比較して、Sin0409の変異特性は、シンガポールの患者1から採取されたSin2774と最も類似していた

ウエストナイルウイルスの試料から得たSARS-CoV株(SinWNV)は91%配列が決定され、13の変異特性が患者のものと同じだった。

Sin0409は47塩基の欠失があり、この欠失は、SinWNV以外の他の株ではみつかっていないものである。

考察
SARSの世界規模大流行が2003年7月に終わった後のSARS発生で臨床的に意味のある症例報告である。

臨床特徴と潜伏期間はSARSの以前の報告と一致している。

ウエストナイルウイルスとSARS-CoVは両方ともVero E6細胞で培養されていた。
コンタミネーションが起きた正確な原因は不明であるが、8月23日以前に起きたことが示唆された。

患者の病気は軽度であり、X線による病態は後期に発症した


葉月注:このラボ漏出SARSは、サイトメガロウイルス陽性だったSARSのケースですが、サイトメガロウイルスが肺炎の原因だとは考えられないのでしょうか?
葉月仮説:2003年SARSのゲノムは、病原体が感染したVeroE6細胞のDNAから転写されたmRNAから創出されたもの、粒子はおそらくエクソソーム、IL-11タンパクと交差反応する抗体ができていること(カナダの報告)も要考察。

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