佐藤孝吉『僕がテレビ屋サトーです』という本を本屋でぱらぱらとめくる…。「ゼロ戦と美空ひばり」という文字に目が止まる。ゼロ戦の番組を作って、しかし映像がないので、アナウンサーのアップばかりで90分… 「いいか、絶対に原稿に目を落とすなよ!」と佐藤Dが言う。 特訓後、アナウンサーの福留功男が台本に目を落とさずに最後まで読みきった。その番組を美空ひばりが観ていて「あなた、トメさんね。見たわよ、ゼロ戦。あなた、ホンモノよぉ」と誉めたという話。それが気に入って、この本を図書館で借りてきた。(美空ひばりのこともそのうち書きたいと思っています)
面白そうなところを拾い読み…。
カルガモの番組の話が面白かった。
あのカルガモブームを作ったのはこの佐藤という日本テレビのディレクターだったのだ。
初老になり、仕事のない、落ち目のディレクター佐藤が、机を片付けていると、ある記事の切り抜きが、パラリ、ハラハラ。気になるその落ち方…。
それがカルガモの引越しの小さな記事。「今年も引越しするのかな?」 それでカメラマンに声をかけ、カルガモに張り付く。徳光和夫の『ズームイン朝』で毎日2分だけの時間をもらって流しだしたら徐々に人気が出て、他局もやってくるようになった。そうなると、「引越し」の決定的瞬間を撮れるかどうかが、勝敗を分ける。
ある日、カメラマンネコ(金子だから、ネコ)が言う。「(今日、カルガモが)行きます。絶対です」 ネコ氏は、母親カルガモの、尻尾の動きがいつもとちがう、それに目がイロっぽい、という。「よし!」他局のクルーはすでに引き上げている。
そして!
ついに、母カルガモと12匹の子カルガモは動く! 皇居のお堀をめざして。しかし… 朝9時、交通量がすごい。母カルガモは立ち止まる。
「無理だ」とスタッフは思った。しかしカルガモ母は行く気だ。そういう顔だ。
そのとき、カルガモ母の目と佐藤Dの目が合ったという(笑)。 びびびびびッ! 佐藤Dは決断する。
「よし。車を止めよう!」
「止まってくださーい!」
「なんだ!?」 「カルガモ!?」
カルガモ一家の堂々とした行進。
警察「出動願いまーす。カルガモさんのお引越しです」「ガーッ、了解…」
こうして「カルガモのお引越し」を取り終えた佐藤Dは、電話BOXから報道デスクに連絡したあと、泣き崩れたのであった。50代男が、カルガモの引越しを撮って、泣く。
あのカルガモニュースはもう20年ほど前のことだったと思う。僕はあの頃TVを持っていなかったが、それでも話題になるほどだった。僕の友人はあきれて、「あんなカモ、どこにだっているのに!」と怒っていた。
この佐藤孝吉ディレクターは後に『はじめてのおつかい』をつくる。四谷のとんかつ屋でロースかつ定食と食べながらカルガモさん母子を思い出していたら、この番組を思いついたのだそうだ。カルガモの12匹のうちの「チビ」が、一番の人気者だったそうだ。
ぱらぱらとこの本をめくる…。とばしていたアフリカロケの話を読んでみる…。
「え?」 驚いた。
36歳のとき、この佐藤Dは、限界を感じ、テレビの仕事を辞めようかと悩む。父親の死も重なり、ドラマの仕事も下ろされる…。そんなときに、うまくいくとは思えないアフリカロケ…。「テレビ、やめちゃうか…」
ところがアフリカに行ってある男と出会い、佐藤さんは「再生」する。
佐藤Dが、アフリカ・ケニヤで出会ったその「男」、小倉さんは、航空会社のサラリーマンで、狩が趣味。佐藤Dは小倉さんと狩に行き、しとめたインパラの肉を食い、ビールを飲む。丘の上で夕日を見ながら『2001年宇宙の旅』の話をする…。
この小倉さんが、山崎豊子『沈まぬ太陽』の主役のモデルだというのである!
僕は先月、この小説は読む気になれないと書いたばかり。ただ、僕はこの小説を図書館で手にとって、その「あとがき」だけは読んでいたのだ。そこには、『大地の子』を書き終えたあと、書くものがないと困っていた山崎さんが、アフリカである「男」に出会って、「あなたを書きたい」と口説いた話が記されていた。
それよりも10年ほど前に、佐藤孝吉Dは、「男」とアフリカで会い、「再生」したのだという。『沈まぬ太陽』を読みながら、佐藤Dは「まさかこの人…やっぱりだ、小倉さんだ! お久しぶりです小倉さん!」と思いながら一気に読んだという。
この小説のことを佐藤Dはこう書いている。「名作です。もしまだ読んでいなかったら、是非、お読みください」
まあそんなわけで僕は『沈まぬ太陽』を読みはじめました。
この小説の冒頭は、主人公(恩地元)が、アフリカで、突進してくる象を仕留めるところからはじまっています。
面白そうなところを拾い読み…。
カルガモの番組の話が面白かった。
あのカルガモブームを作ったのはこの佐藤という日本テレビのディレクターだったのだ。
初老になり、仕事のない、落ち目のディレクター佐藤が、机を片付けていると、ある記事の切り抜きが、パラリ、ハラハラ。気になるその落ち方…。
それがカルガモの引越しの小さな記事。「今年も引越しするのかな?」 それでカメラマンに声をかけ、カルガモに張り付く。徳光和夫の『ズームイン朝』で毎日2分だけの時間をもらって流しだしたら徐々に人気が出て、他局もやってくるようになった。そうなると、「引越し」の決定的瞬間を撮れるかどうかが、勝敗を分ける。
ある日、カメラマンネコ(金子だから、ネコ)が言う。「(今日、カルガモが)行きます。絶対です」 ネコ氏は、母親カルガモの、尻尾の動きがいつもとちがう、それに目がイロっぽい、という。「よし!」他局のクルーはすでに引き上げている。
そして!
ついに、母カルガモと12匹の子カルガモは動く! 皇居のお堀をめざして。しかし… 朝9時、交通量がすごい。母カルガモは立ち止まる。
「無理だ」とスタッフは思った。しかしカルガモ母は行く気だ。そういう顔だ。
そのとき、カルガモ母の目と佐藤Dの目が合ったという(笑)。 びびびびびッ! 佐藤Dは決断する。
「よし。車を止めよう!」
「止まってくださーい!」
「なんだ!?」 「カルガモ!?」
カルガモ一家の堂々とした行進。
警察「出動願いまーす。カルガモさんのお引越しです」「ガーッ、了解…」
こうして「カルガモのお引越し」を取り終えた佐藤Dは、電話BOXから報道デスクに連絡したあと、泣き崩れたのであった。50代男が、カルガモの引越しを撮って、泣く。
あのカルガモニュースはもう20年ほど前のことだったと思う。僕はあの頃TVを持っていなかったが、それでも話題になるほどだった。僕の友人はあきれて、「あんなカモ、どこにだっているのに!」と怒っていた。
この佐藤孝吉ディレクターは後に『はじめてのおつかい』をつくる。四谷のとんかつ屋でロースかつ定食と食べながらカルガモさん母子を思い出していたら、この番組を思いついたのだそうだ。カルガモの12匹のうちの「チビ」が、一番の人気者だったそうだ。
ぱらぱらとこの本をめくる…。とばしていたアフリカロケの話を読んでみる…。
「え?」 驚いた。
36歳のとき、この佐藤Dは、限界を感じ、テレビの仕事を辞めようかと悩む。父親の死も重なり、ドラマの仕事も下ろされる…。そんなときに、うまくいくとは思えないアフリカロケ…。「テレビ、やめちゃうか…」
ところがアフリカに行ってある男と出会い、佐藤さんは「再生」する。
佐藤Dが、アフリカ・ケニヤで出会ったその「男」、小倉さんは、航空会社のサラリーマンで、狩が趣味。佐藤Dは小倉さんと狩に行き、しとめたインパラの肉を食い、ビールを飲む。丘の上で夕日を見ながら『2001年宇宙の旅』の話をする…。
この小倉さんが、山崎豊子『沈まぬ太陽』の主役のモデルだというのである!
僕は先月、この小説は読む気になれないと書いたばかり。ただ、僕はこの小説を図書館で手にとって、その「あとがき」だけは読んでいたのだ。そこには、『大地の子』を書き終えたあと、書くものがないと困っていた山崎さんが、アフリカである「男」に出会って、「あなたを書きたい」と口説いた話が記されていた。
それよりも10年ほど前に、佐藤孝吉Dは、「男」とアフリカで会い、「再生」したのだという。『沈まぬ太陽』を読みながら、佐藤Dは「まさかこの人…やっぱりだ、小倉さんだ! お久しぶりです小倉さん!」と思いながら一気に読んだという。
この小説のことを佐藤Dはこう書いている。「名作です。もしまだ読んでいなかったら、是非、お読みください」
まあそんなわけで僕は『沈まぬ太陽』を読みはじめました。
この小説の冒頭は、主人公(恩地元)が、アフリカで、突進してくる象を仕留めるところからはじまっています。