はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

饅頭、その後のこと

2007年08月01日 | はなし
 饅頭のはなしの続きをしよう。
 空襲の話をしたばあさんの店で饅頭を買って、僕は実家に帰り、その饅頭を持って親戚へ行った。高齢になってきた一人暮らしの父をよろしく頼みますと挨拶し、自分の電話番号を書いたメモを渡した。

 さて、それから1年後のこと。ある日、深夜1時に携帯に電話が入った。見知らぬ電話番号で、しかし親戚からでもないようだ。「アヤシイ」と思った僕はその電話に出なかった。基本的に僕は、知らない番号からの電話には出ない。(しかも深夜1時だぜ)
 ところが1週間して、また同じ番号からかかってきた。今度は夜9時だ。僕はやっぱり出なかった。「初めにかかってきたのが深夜1時だからなあ…」僕は警戒した。架空請求だったらいやだし…。
 数日して、土曜日の夕方、うたた寝をしているときに3度目が、かかってきた。このときは反射的に僕は出てしまった! (別の電話を待っていたという事情もある)
 すると女の明るい声。「○○くん?」と、名前をくん付け。 …え???
 「だれ?」
と聞くと、女は名前を言った。それは7歳年下の従妹だった。「え? ああ! ○○ちゃんか!」 従妹は主婦になり、千葉に住んでいる。 「このまえ実家に帰ったの」と彼女。「ああそれで…。えーびっくり! ちょっと声がちがうなあ…。あ、前に会ったのはばあちゃんが死んだ時だから、9年ぶり?」と僕。 彼女は僕に「映画に行かない? なにかいい映画あったら…」と誘ってきた。まあそういうことで、僕は従妹と東京で会うことになった。

 ふしぎだった。
 その従兄妹とは子供時代に遊んだこともないし、大人になって遊んだこともない。だいたい電話番号おしえていない。なぜ彼女が僕の番号を知っていたか、それは、あれだ、饅頭だ。あのときに親戚に教えた僕の番号を、彼女が実家に帰ったときに聞いたのだ。それにしてもいきなり東京で映画とは…、主婦なんだろ? ヒマなのか? なぜオレ? いきなり深夜1時に電話するって、そういう女だったのか? それにあの声…なぜ声が以前とちがって聞こえるのか?
 好奇心はわいた。
 会ってみると、僕と従妹は、昔から親しかったみたいに自然だった。しかも従妹の身なりは全身真っ黒で「かわいい魔女」のようだった。スパスパ煙草を吸っている。〔こいつはほんとに魔女なのではないか〕とそのときの僕は思ったのだ。
 「魔女」である従妹は、携帯の待受け画面をある女の写真にしていた。その女の名は「ドラ・マール」。(ドラ・マールの話は別稿で)

 しかしなぜ「魔女」はやってきたのか。
 彼女からの電話が入るすこし前、僕はある女性を映画に誘って、渋谷でまちあわせたが、当日にキャンセルされた。結局その日は一人で映画を見た。映画はとても面白かったが、〔次は誰かと観たいなあ〕とは思った。そういうタイミングで「魔女」が現われて映画に誘う… ユング先生! これはどういうことですか!? …もしもあいつが「魔女」ならば、いきなりの深夜1時の電話も納得できるというものだ。
 その「魔女」は絵を描くのが趣味だという。そして魔女は「おねがいがあるの。映画のあとはカラオケ連れて行ってくれない? 歌いたいの~」という。
 …「魔女」の言うことは素直にしたがうべし。カラオケは4年ぶりだった。

 そのあと僕は考えたのだ。「魔女」はなぜ現われたのか、について。

 僕は絵を描けるようになりたい、と願っていた。だれかと映画に行きたいと思っていた。そこに絵を描くのが好きな従妹が魔女の姿で出現し、映画に行こう、歌いたい、と言った。これはどういうことか。
 それをきっかけに、僕は「歌」を習うことに決めたのだった。笑われることを承知で告白するが、僕は「絵をうまくなりたい。そのために歌を習おう」と本気で思ったのである。
 それまで、僕の人生は、音楽とはほとんど接点がない、と思っていた。今でも、部屋で音楽を聴く時間をもつことは少ない。(キカイの音は好きじゃない) でも、「歌うこと」は続けている。従妹が映画に行こうと言ったから、僕は音楽とつながっている。(饅頭を買ったから、でもある) 従妹とは電話でピカソの話をしたりもする。
 そして、自分が歌う練習をしていたから、練習に行った帰りに、□崎K子が街で歌っていたのを見て、立ち止まった。「この子はどんな声で歌うんだろう」と興味を持って聴く事をはじめたのだ。その□崎K子が、ブログの中で一度だけ「絵」を描いたことがある。それを見て僕は「おっ、gooブログは絵も描けるのか。それならちょっとオレも描いてみるか」と始めたのがこのブログである。(まだ描きつづけている。いつまでやるつもり?) 饅頭と映画とピカソと歌とブログは、僕の中でこのようにつながっている。
 世の中、いろいろなもの、いろいろなひとが繋がっている。そんなの考えるときりがないぜ、と言われれば、たしかに、そのとうりである。

 さて次回は、ドラ・マールのことを書こう。ドラ・マールとはどんな女か。
コメント
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