はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

霧の中、そしてブラックホール

2006年01月29日 | はなし
   [いつも魔女がドアを開ける 2の1]

 あの頃はいつも「霧の中」にいるような気がしていた。(マドンナ「Rescue me」、久保田利伸「雨音」、ザ・ブルーハーツ「TOO MUCH PAIN」などを聞いていたなあ。)
 そして空には巨大な黒い穴があった。それは空想にすぎなかったが現実よりもリアルだった。一度その穴に吸い込まれそうになって、そのときは必死で抵抗した。僕にとって「絵を描く」というのは「生」の方向にあるようで、白い紙に線をひく練習をすることでその黒い穴を遠ざけることができた。(耳なし芳一が身体にお経を書いて身を守ろうとしたように.) 僕はひたすら、線をひいた。
 しかしそれでも「霧の中」であることは変わらない。
 なんとなく僕はわかっていた。あの黒い穴の中へ行くしかこの「霧」をはらす道はないのではないかと。いつまでもこの「霧の中」で生きて、そしていずれは死んでゆくのなら、あの穴の中へ勇気をもって旅立つべきではないのか。
 そしてなにより、あそこにこそ僕の「いちばん欲しいもの」があるのではないか。僕の一部であるはずの「宝」が。
 ただ、勇気と覚悟が足らなかった。きっと苦しいだろう。それでもそのとき僕は僕でありつづけることができるだろうか。その自信はまるでなかった。「宝」などないかもしれないし、僕の心身はすりきれて骨だけになってしまうかもしれないのだ。
 だいたい「宝」ってなんだ? それさえもわかってないのだ!
 そんなときに雪女に出会った。         [つづく]
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