経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

本質的な問いと向き合う

2007-08-01 | 知財発想法
 最近よく思うのは、「知的財産権の必要性を自分の言葉で語ること」の重要性です。「真の知財人材」の記事で知財協の宗定専務理事の論文を紹介させていただきましたが、知的財産制度の知識に精通していさえすればよいというものではなく、意味のある(=経営上の効果に結び付く)知財業務を推進するためには、経営層、事業担当、研究者などを説得し、協力を得ていかなければなりません。そのためには、「なぜ知財業務が必要か」を自分の言葉で説得力をもって語れることが必要になるはずです。
 知的財産権の効果は、どんな本にも「独占権である」から、「独占実施、ライセンスができる」「侵害すると差止、損害賠償などのダメージを受ける」といった説明がされています。しかしながら、複雑系の事業の現場にいるメンバーに、この説明だけで知的財産権の必要性を実感してもらうことは難しいのではないでしょうか。

 例えば、「なぜ特許が必要か、事例を挙げて説明して欲しい」と言われると、
・「特許があって」→「良かった」
・「特許がなくて」→「困った」
という事例をいろいろ説明することになると思います。しかしながら、この逆の事例、
・「特許があっても」→「特に良いことはなかった」
・「特許がなくても」→「何も困らなかった」
というケースも、世の中には多々存在するのは事実です。こういった事実にも目を向けた上で、特許の必要性について説明できるようにしておかないと、都合のよい情報だけを集めている、という印象を与えてしまいかねません。

 その他にも、こんな問いが考えられます。
 「特許でそんなに成功している企業があるの?」と問われると、おそらくIBMの例が出てくることが多いと思うのですが、では、この10年でより高い成長を遂げたマイクロソフト、インテル、シスコの話がどうして出てこないのか。
 日本国内でも、「特許による成功ストーリー」というとちょっとレトロなヒット商品の話が多くなり、例えば急成長を遂げているインターネット系の企業のネタなどを殆ど耳にすることがないのはなぜか。
 知的財産報告書等で「多くの知的財産を保有している」ことを謳いながら、株価がBPS(1株あたり純資産)1倍程度であったりする(≒市場での無形資産の評価はほぼゼロである)ことがあるのはなぜか。

 こうした問いへの答えはおそらくどんな教科書にも書かれておらず、自分で考えて見つけ出していくしかありません
 特許についていえば、私個人としては、
■ 特許は収益に貢献し得るツールである。
■ ツールであるから、使い方、他のツールとの関係、ツールを使う環境によって様々な結果を生じさせるものである。
■ よって、収益に貢献するようにツールをいかに使うかを工夫すること(=特許戦略)が重要になる。
という考え方をベースにそれぞれの事象の意味を考えていますが、さらにいろいろな仮説(ex.動的平衡システムと知的財産権)を模索し続けているところです。知財人にとって、あまり都合の良くない事実にも向き合っていかないと、なかなか事の本質は見えてこないのではないでしょうか。


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2 コメント

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特許権は日本刀に似ています (久野)
2007-08-01 06:22:31
武器をもたずして反映する国もありますし、特許権をもたずして発展をとげている企業もあります。
しかし、いざ侵害を受けたときには、武器があるのと無いのでは大違いです。日本映画の名作に七人の侍という黒澤映画があります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E4%BA%BA%E3%81%AE%E4%BE%8D

農作物の収穫期になると武装した盗賊に襲われて、農作物を奪われたり娘をさらわれたりしている村を、七人の侍が守るというものでした。侍の志、侍の武芸、強靭で使いやすい日本刀がそろっていなければ、侍でも村を盗賊からは守れません。

また、日本刀は時にはその輝きによって、集団の統合の象徴となることもありますし、多くに人を魅了する美術品にもなります。売却して多額の資金を獲得できる財産ともなります。
素晴らしい特許権に象徴される高度で独自の技術は、集団を奮い立たせることもあります。
ロータリーエンジン技術のマツダがそうです。マツダの技術者の多くはロータリーエンジン技術にあこがれて入社し、その独自技術で素晴らしい自動車をつくることに生き甲斐を感じ、会社の危機も克服してきました。ロータリーエンジン技術はマツダのスピリットにまでなっています。
http://www.mazda.co.jp/philosophy/rotary/

事業にも貢献し、スピリットのある特許武士が理想です。
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Unknown (大阪の弁理士受験生)
2007-08-01 13:09:59
この問いについては、以前土生先生が仰っていた言葉こそが的を得た答えのように思います。
「特許は参入障壁の一つに過ぎない」
よって、敢えて特許という参入障壁を持たなくても、成立する事業もあるということだと思います。

久野様の提示された事例であっても、「その村」が盗賊に襲われないような場所にあったり、盗賊にとって価値がないものを生産している場合には、当然「日本刀」は不要です。

なお、マツダのロータリーエンジン技術と「特許」との関係は希薄ですよ。マツダ全体の出願件数に比してロータリーエンジン関係の出願件数をご存知ですか?年間10件未満で、決してロータリーエンジンを「特許」で保護しているとは言えません。
上の例でいうと、盗賊に襲われない場所にあり、且つ盗賊にとって価値がないものだからでしょう。
なお、ロータリーエンジンが技術者のモチベーションを高めていることは事実だと思います。ただ、会社の危機を克服したというのは?です。ロータリーエンジンを搭載した車が爆発的に売れていると聞いたことがありません。
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