経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

牛とワイン

2007-06-14 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経金融新聞に動産担保融資が多様化しているという記事が掲載され、山梨ではブランド力のある「甲州ワインビーフ」を担保に融資が行われていることが紹介されています。甲州ワインビーフは「ブランド力が高く、担保としての価値が高い」とのことですが、このロジックには実は「ブランド」に特有の落とし穴が存在しているように思います。

 ある事業者が扱っている「ブランド」には、事業者自身の信用と一体化しているものと、事業者の信用とは無関係に価値を有するものがあります。前者の場合は、事業者の信用が低下するとブランド価値も毀損するのが通常です。つまり、万一甲州ワインビーフの担保権を実行しなければならないような状況になった場合に、そもそも甲州ワインビーフのブランド価値は維持されているのだろうか(ワインが飲めずに普通の牛になっていないか)という問題です。一方、家電量販店が扱っているブランド品を担保に家電量販店に融資するようなケースであれば、もし家電量販店に何かあったとしても、ブランド品の担保価値が一緒に毀損してしまうことはありません。
 このように、担保価値として考えた場合、ブランドの価値はその事業者と一体のものかどうかが重要なポイントになってくるということです。
 よって、記事のような事例では、甲州ワインビーフの「ブランド価値」は織り込まずに、純粋に牛としての価値で担保評価を行うべきではないかと思います。

(ビジネスマンの価値にも同じようなことが言えそうで、他人(他牛?)事ではありませんが・・・)

知的財産の合体(?)その2

2007-06-13 | 知財一般
 「知的財産の合体」の記事でとりあげたライオンの「バルサン飛ぶ虫氷殺ジェット」に続き、知的財産の魅力により売上を伸ばし、知的財産権による保護によって高利益率を維持する知財による成功モデル(「知的財産のしくみ」p.128~129)の具体例です。

 新商品なので、ヒットするかどうかはまだこれからといった段階ですが、コンビニエンスストアに山積みになり、テレビCMでもよく見かける「Blendy香るブラック」がそれです。味の素の得意のコーヒーオリゴ糖が活かされた特保商品であり、価格も通常のコーヒー飲料より高いので、知財による成功モデルの可能性を大いに秘めた商品といえそうです。
 ところで、この商品を見ていると、個人的にはどうしてもある2つの商品を思い出してしまいます。いずれも典型的な知財による成功モデルですが、「体脂肪の気になる方に」のキャッチフレーズからは東の横綱の「ヘルシア緑茶」が、真っ黒のパッケージからは西の横綱の「黒烏龍茶」が、同じ特保商品ということもあってどうしても連想されてしまいます。セブンイレブンで3つが並べて売られていたということもあるのでしょうか、技術的には全く異なるものなのですが、これもある種の「知的財産の合体(?)」でしょうか?

「知財+資源」が最強のビジネスモデル?

2007-06-12 | 新聞・雑誌記事を読む
 ちょっとマニアックな新聞(株式新聞)ですが、信越化学の強味についての興味深い記事(木下晃伸氏というアナリストのコラム)を見つけました。
 信越化学は、塩ビ樹脂・半導体ウエハで世界シェア1位の言わずと知れた超優良企業で、練り物系知財で最強の部類に属する1社ではないかと思いますが、その強味は「一気通貫」のビジネスモデルにある、と解説されています。大手化学メーカーの多くが原料である原油の高騰に苦しむ中、信越化学は早くから「ケイ素」に事業分野を絞り込み、オーストラリアの原料供給会社をグループ内にとりこむことによって、資源相場に左右されない強固なビジネスモデルを作り上げたとのことです。
 「知財の時代」と言われる一方で、近年好業績を謳歌しているのは資源や不動産関連の企業が多数派であり、ハイテク企業の多くは苦戦が続いています。国単位でみても、ロシア、中東諸国、オーストラリアなど資源国の成長率が技術を売りにする国を圧倒しています。資源不足が顕著になるこれからの世界経済では、「知財」だけでなく「資源」をセットに強味を構築していくことが求められることになるのかもしれません。

「知財化」・「知的財産化」の問題点

2007-06-11 | 知財発想法
 「知的財産とは何か?」について2種類の定義を示してセミナー受講者の皆様にどちらのイメージを持っているかをお訊ねしたところ、ほぼ半々に分かれる結果になったということを先日の記事に書きました。たいへん興味深い結果であったので、他のセミナーでも同じ質問をぶつけてみました。

 技術者中心に参加されたあるセミナーでは、ほぼ半々の結果でした。
 知財にあまり馴染みのない方が多かったあるセミナーでは、おおよそ7:3で第1説という結果になりました。

 これだけ世間で知財、知財と言われているにも関わらず、「知的財産」の捉え方がこのように真っ二つに分かれているというのは、知財に関する議論をややこしいものにしている一因であるように思います。
 例えば、「知財化」、「知的財産化」といった言葉が使われることがあります。
 第2説であれば、「発明を特許権として権利化する行為」や「技術情報を営業秘密として管理する行為」が「知的財産化」ということになるのでしょうが、第1説で捉えている人からすると、「発明」も「技術情報」もそもそも「知的財産」なのだから、「それを『知的財産化』するってどういう意味なの?」ということになってしまいます。第1説で捉えていても、普通は「これは『権利化』のことを言っているのだな」と文脈から理解できるとは思いますが、この感覚の違いが実は意味を持ってくるのではないでしょうか?
 発明やノウハウを生み出した人にとって、「これを『知的財産化』することが必要ですね」と言われるのと、「知的財産が生まれたので、『権利化』を進めましょう」と言われるのと、どちらのほうが自分の発明を尊重された印象を持ち、その後の手続に積極的に協力しようという気持ちになれるか。微妙な感情的な部分も考えると、個人的には「知的財産化する」より「知的財産を権利化する」のほうがベターであるように思います。

明細書から人間性や人生観が読み取れるか?

2007-06-08 | プロフェッショナル
 以前の記事で紹介したRightNow!の「真の知財人材の条件」の記事書かれた知財協の宗定専務理事とお話をさせていただく機会がありました。経済だけでなく歴史にも造詣が深く、お話を伺うと知財の本質を考えるのに大変勉強になります。記事同様に、「自分の言葉で知財の意味・重要性を説明できること」の重要性を仰られていました。
 確かに、自分の仕事の対象に自分なりのポリシーをもって臨むことができないと、何かを問われたときの回答は説得力に欠けるし、一貫性に欠けるものになってしまいます。仕事に対する価値観、さらには人間観というものは、根底において何よりも重要なものなのでしょう。

 以前に日経新聞に掲載されていたパティシエの辻口博啓氏のインタビューに、こんなことが書かれていました。辻口氏曰く、「世界的なお菓子のコンクールでの戦いは、単に技術を競い合うだけではなく、人の内面、人生設計まで問われる真剣勝負である」とのこと。ライフワークとして真剣に取組んでいるものの成果物には、必ずそこから何らかの思想が感じられ、人の心を動かしたり共感を呼んだりするのは、実はその部分であることが大きいのではないかと思います。スポーツ観戦にしても、勝った負けたの単純な面白さもありますが、それだけならばテレビゲームと変わりません。プロが見せる高い技術が共感や感動を呼ぶのは、そこに到るプロセスや人間の営みに敬意を感じるというところが大きいのではないでしょうか。

 勿論、我々の扱う業務は芸術やスポーツとは目的が異なり、感動や共感を売りにするものではありません。しかしながら、周囲の人の協力や理解、信頼を得ていくためには、ポリシーが伝わるというのは実は重要な要素なのではないでしょうか。まぁ何を大袈裟なといった話になってきてしまいましたが、「真の知財人材」を目指すには、知識より何よりそういった部分を意識しておくことが必要なのではないかと思います。
 そういえば、辻口氏の記事を読んだ後に、クレーム・明細書の質に徹底的にこだわる同業者の友人に「明細書からそれを書いた人の人間性や人生観が読み取れるか?」と聞いてみたことがあります(凄い質問ですが・・・)。彼の答えは、「そんなの、すぐにわかる。」とのことでした。
 
Right NOW (ライトナウ) ! 2007年 06月号 [雑誌]

税務経理協会

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ちょっと面白い知財ファイナンス本

2007-06-07 | 書籍を読む
 知財ファイナンス系の本にはどうも無味乾燥なものが多いと敬遠しがちだったのですが、「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」は、なかなか面白いです。まだ1~3章までしか読んでいないのですが、1章はファイナンスとは何かをとてもわかりやすく説明していて、知財業界でこの分野に興味をもたれている方は、この部分を繰返し読むことによって基本的な理解が進むのではないかと思います。また、3章の価値評価に関する部分ですが、評価手法などの形式論に終始する類書が多い中で、かなり本音ベースの主観的な考え方も書かれていて、会計系の専門家は「こういう想いで価値評価に臨んでいるのか」というところが非常に興味深いです。
 個人的な意見としては、金融側で評価を経験した後に実務の現場にやってきて、「そんなもの定量化できるわけないやん」というのが率直なところです。この章の著者は、知財の実務家(主として知財部)側のこうした考え方に苦慮されている模様ですが、こうした考えに対して、評価とは様々な検討を行うためのある前提を置いたベンチマークである、その数値自体が正確かどうかという視点で切り捨ててしまうのではなく、何らかのベンチマークなしにはまともな議論が進まないのではないか、というご意見であるようです。これは至極尤もな話で、評価が必ずしも正確でないことは言われなくてもわかっているけれど、だからといって思考放棄してしまっていいのか?という想いなのではないか、と推測します。
 ではありますが、それでもまだ知財の実務側からみると、違和感をもたれる方が多いのではないでしょうか。というのは、価値評価をされる方々は、
・「知的財産権」で括られた「知的財産」は、「投資」によって生み出される「財産」である。
という前提に立ってその価値を議論しようとしているのに対して、そもそも実務に携わる側としては、「知的財産権」が「財産」であるという実感に乏しく(技術的範囲の解釈の難しさや無効リスクなどが影響していると思います)、
・「知的財産権」に関する支出は、事業を進める上での必要「コスト」である。
と考えていることにあるように思います。
 もう一点は、ベンチマークに置くとはいっても、知的財産権の性格上、ボラティリティが高すぎるということもあるのではないでしょうか。例えば無効リスクは「ゼロになるリスクが相当程度ある」ということですから、株式や不動産、事業価値の評価とは、前提条件が明らかに異なるものです。
 第3章を読みこなすにはある程度の基礎知識が前提になりますが、興味をもたれている方にはなかなか面白いと思います。

知的財産部員のための知財ファイナンス入門

経済産業調査会

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問いに答える

2007-06-06 | その他
 昨日、弁理士試験短答の発表があったようですが、この時期になると、自分の受験当時に指導を受けた先生に言われた「問いに答えよ」という教えを思い出します。
 多肢(短答)から論文までの間に、他の先生はいろんな予想問題を配布したりされていたようなのですが、その先生はただ「これまでやった復習をしっかりやって、あとは『問いに答えて』ください。とにかく、『問いに答えて』ください。」ということを繰り返し指導されました。この指導方針は、論文試験の本質を突いていると思います。
 
 知財実務においても、「知っていることを伝える」のではなく、「問いに答える」ことが基本中の基本です。そういう意味でも、受験時代のいろいろナーバスな時期に、「問いに答える」ことの重要性を体に染み込ませる意味は大きいと思います。
 尤も、「問いに答える」ことはコミュニケーションの出発点となる基本動作であり、それだけでは顧客ニーズに充分に応えることは難しいと思います。次の段階で求められるのは、的確な「問いを発する」スキルとでもいえるでしょうか。
 

負けに不思議の負けなし

2007-06-05 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経金融新聞の「不敗の哲学」のコラムから。
 楽天イーグルス・野村監督の名言に、
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
というのがあるそうです。言い得て妙なりの感があります。

 知財の世界でも、休眠している特許がたまたま結構な値段で売れてしまった、いきなりライセンスの申し込みが飛び込んできた、という「不思議の勝ち」がないわけではありません。一方で、知財に泣かされる企業は、やはりそうなってしまった理由があるのが通例であると思います。知財のより有効なハンドリングを絶えず考えながら地道な取組みを継続する、華やかな「勝ち」を狙うより、「負けない」ための戦術が求められるところでしょうか。

知的財産の合体

2007-06-04 | 知財一般
 知的財産の魅力により売上を伸ばし、知的財産権による保護によって高利益率を維持する知財による成功モデル(「知的財産のしくみ」p.128~129)の一例として、花王のヘルシア緑茶をよくとりあげる(ex.「知的財産のしくみ」p.134~135)のですが、今朝見ていたテレビで、わかりやすく、このモデルにはまりそうな商品が紹介されていました。
 ライオンの「バルサン飛ぶ虫氷殺ジェット」という商品です。殺虫成分を全く使わない殺虫スプレーということで、売れに売れているそうです(1年に100万本売れればヒット商品という業界で、発売から2ヶ月で200万本出荷したそうです)。
 この商品の売りは、「殺虫成分を使わない」殺虫スプレーということで、熱する、吹き飛ばすなど様々なアイデアの中から、「凍らせる」という方法を選択して商品化したそうです。瞬間で凍らせるという技術に加えて、殺虫剤では有名な「バルサン」ブランドも、売上の伸びに貢献する「知的財産」になっているといえるでしょう。因みに、ライオンは殺虫剤業界では新規参入であり、「バルサン」ブランドは中外製薬から買収したものだそうで、外部から導入した知的財産と自社開発の知的財産が合体して、相乗効果を上げた好例といえそうです。競合品とは明らかに差別化された商品ということで、価格は競合品の2倍程度となっており、利幅も厚い(何との比較かははっきりしませんでしたが、番組では粗利が2倍といったコメントがされていました)ことが推測されます。
 さて、この商品の優位性は今後も維持されていくのか。IPDLで出願人にライオン、キーワードに虫、氷、低温などを指定して検索した限りで該当しそうな特許出願はヒットしませんが、何らかの防衛策は打たれているものと思われます。今後、この商品の価格がどのように推移するのか、要注目です。

「工夫」と「努力」

2007-06-03 | 知財業界
 先週、同業のある友人と久しぶりに会って話をしたのですが、実務をこなすだけでも忙しいのはいつものこととして、まぁ、いろんなことをあれこれ考えて、仕事を量的にではなく質的に変化させるようとトライを続けているのには驚かされます。彼と話をした後に、先日の記事で紹介した「知的プロフェッショナルへの戦略」に書かれていた、ある事柄を思い出しました。

 この本の中で、ビジネスマンに必要な資質として、「集中力」とあわせて「工夫」の重要性が説明されています。そして、「工夫」との関係で注意が必要なこととして、「努力」という言葉の落とし穴に言及されています。
 この2つの言葉を並べれば、言わんとするところは理解いただけるかもしれませんが、要するに、「努力」とは極めて主観的・抽象的な言葉なので、「努力した」といっても、それだけで意味を持つわけではない問われるのは、具体的にどのような「工夫」をしたのかという客観的な事柄である、ということです。
 
 彼の話の興味深さは、それぞれが具体的な「工夫」に関する話である、というところにあります。「工夫」したからといってすぐに成功が待っているわけではなく、結果は散々ということが少なくはありませんが、そこからは新たな「課題」が「具体的」に見えてくるものです。環境が大きく変化しつつある知財業界でも、新しい時代に向けて漠然と「努力」しようというだけでは意味がなく、どのような「工夫」をするかが問われるようになっていくのでしょう。
 
知的プロフェッショナルへの戦略―知識社会で成功するビジネスマン11の心得

講談社

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