経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ちょっと面白い知財ファイナンス本

2007-06-07 | 書籍を読む
 知財ファイナンス系の本にはどうも無味乾燥なものが多いと敬遠しがちだったのですが、「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」は、なかなか面白いです。まだ1~3章までしか読んでいないのですが、1章はファイナンスとは何かをとてもわかりやすく説明していて、知財業界でこの分野に興味をもたれている方は、この部分を繰返し読むことによって基本的な理解が進むのではないかと思います。また、3章の価値評価に関する部分ですが、評価手法などの形式論に終始する類書が多い中で、かなり本音ベースの主観的な考え方も書かれていて、会計系の専門家は「こういう想いで価値評価に臨んでいるのか」というところが非常に興味深いです。
 個人的な意見としては、金融側で評価を経験した後に実務の現場にやってきて、「そんなもの定量化できるわけないやん」というのが率直なところです。この章の著者は、知財の実務家(主として知財部)側のこうした考え方に苦慮されている模様ですが、こうした考えに対して、評価とは様々な検討を行うためのある前提を置いたベンチマークである、その数値自体が正確かどうかという視点で切り捨ててしまうのではなく、何らかのベンチマークなしにはまともな議論が進まないのではないか、というご意見であるようです。これは至極尤もな話で、評価が必ずしも正確でないことは言われなくてもわかっているけれど、だからといって思考放棄してしまっていいのか?という想いなのではないか、と推測します。
 ではありますが、それでもまだ知財の実務側からみると、違和感をもたれる方が多いのではないでしょうか。というのは、価値評価をされる方々は、
・「知的財産権」で括られた「知的財産」は、「投資」によって生み出される「財産」である。
という前提に立ってその価値を議論しようとしているのに対して、そもそも実務に携わる側としては、「知的財産権」が「財産」であるという実感に乏しく(技術的範囲の解釈の難しさや無効リスクなどが影響していると思います)、
・「知的財産権」に関する支出は、事業を進める上での必要「コスト」である。
と考えていることにあるように思います。
 もう一点は、ベンチマークに置くとはいっても、知的財産権の性格上、ボラティリティが高すぎるということもあるのではないでしょうか。例えば無効リスクは「ゼロになるリスクが相当程度ある」ということですから、株式や不動産、事業価値の評価とは、前提条件が明らかに異なるものです。
 第3章を読みこなすにはある程度の基礎知識が前提になりますが、興味をもたれている方にはなかなか面白いと思います。

知的財産部員のための知財ファイナンス入門

経済産業調査会

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