経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財戦略のスタートライン

2007-10-11 | 知財発想法
 知財戦略を論じ、検討する場面において、「知財は重要な経営資源である」ということが大前提にされていることが多いのではないでしょうか。実はこのように「大前提」を置いてしまっていることが、ビジネスパーソンに何か知財への違和感を与える原因になってしまっているということはないでしょうか。
 知財戦略を考える場合に最初に重要なことは、その企業にとっての知財の重みを大雑把でもよいので把握すること(定量的でなくてもよい)なのではないかと思います。
 企業活動を支える様々な要素(資産)のうち、知的資産はその一部であり、知的財産はさらにその一部です。ある企業(例えば製薬会社)にとっては、知的資産、その中でも知的財産が全体に占める重みは相当なものであることが多いでしょうが、同じ技術系でも他の企業(例えばインターネット系サービスを提供する企業)であれば、知的資産はそこそこの重みを占めるものの、知的財産はそのほんの一部ということがありがちなのではないかと思います。
 これを把握した上で、前者であれば「知的財産の保護は経営上の重要課題」ということで進めていけばよいですが、後者の場合は「では、知的財産を保護することで何ができるか?」「他の資産にどのような貢献ができるのか?」といったことから考えていかなければならないと思いますし、そこの検討が詰まっていないと「知財は重要な経営資源・・・」と唱えてもホンマかいな、という話になってきてしまいます。
 これは、金融セクターが知財を評価する場合も同じことで、まず必要なことはその企業にとって知的財産がどの程度の重みを持つかを把握するということであり、それもなしに個別の知財を評価したところで、それが企業全体に与える影響を正確に捉えることはできません(例えば、知財の重みが10%の企業が80点の知財を持つのと、知財の重みが80%の企業が50点の知財を持つのと、どっちが価値があるのかという話です)。
 因みに、企業を評価する場合には、当然ながら知的資産のさらに外にある資産にも意識を振り向けないと、企業の正しい姿は見えてきません。例えば、山を買ったことが効いている信越化学は技術だけを見ていてもその強さはわからないし、日本の製造業の強さの一つには動産(特殊な製造装置)が効いていたり、巨大プラントの投資を決断できる資金力が効いていることは重要な要素であると思います。


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5 コメント

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矢と弓と射手 (久野)
2007-10-12 19:20:53
資産のリストの中で、矢が1000本、弓が20個、射手が4人、米が5俵というように、ばらばらに評価した場合、それぞれの販売価格でしか、価値が評価できないということになると思います。しかし、販売するのではなく、武器として活用するのであれば、その武器を用いて、どれほどの戦いをできるかで評価せねばなりません。矢を弓につがえて射手が適切なタイミングで敵に向かって正確に放てば、戦いに勝利することができます。敵の対象を射抜けば戦いに勝てますが、路傍の地蔵に矢をあてても何の役にもたちません。また、射手が4人しかいないのに、弓が20個もあっても5個以上の部分は予備としての価値しかないということになります。
知的財産権は、経営が知的財産権を活用しようという意志を持ち、活用のための体制をそろえ、活用のための情報を得て、他の経営資源と組み合わせて知的財産権を活用するならば、知的財産権は、非常に大きな経営上の価値を持てます。知的財産権を武器として活用する場合の価値と、譲渡やライセンスをすることで金銭を得る能力という価値とでは、価値の評価の方式が異なってきます。
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Unknown (土生)
2007-10-12 23:23:36
久野様
コメント有難うございます。
知的財産を守るパーツの意義については、ご指摘のとおりであると思います。
さらに企業の他の経営資源との関係を考えた場合、久野様の例をお借りすれば、「国力」との関係で「武力」の影響がどの程度大きいかは、中東のような紛争多発地域であるか否か、先進諸国のように「経済力」の占める比重が増していないかといったことによって違ってくる、よって武力の整備を論じる前には、まずその国にとって武力がどのような位置付けにあるかを的確に把握しておかないと、バランスの悪い軍事大国になってしまう(あるいは平和ボケ気味の国で軍備を叫んでも浮き上がってしまう)というのがここで言いたかったところです。
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財務指標ベースの経営 (久野)
2007-10-16 07:28:44
財務指標の一部として、知財を位置付けることが経営の視点から知財を見るということではないと思います。

独自のアイデアという情報が顧客価値の源泉であるのに、その源泉を持たずして、各種の財務指標(売り上げ、利益、利益率、固定費比率など)を上昇させるための常識的な方策を実行しても、顧客価値創造という燃料が切れてエンジンの停止した飛行機を飛行させているようなものであり、下降しながら滑空するだけしかできず、最後は墜落という運命しかありません。
経理主導の経営は、こうした負のスパイラルに必然的に陥ると思います。経理には独自のアイデアという概念が無いための当然の帰結です。
経理主導の経営と対極にあるのが、知財経営であると思います。
独自の顧客価値提供の源泉である知的財産を経営の柱にするものであると思います。
国や企業体力の中にも、価値創出の源泉という特殊なものがあり、それを他の体力と同列に処理していては駄目だと思います。身軽にするためといって、価値創出の源泉まで捨ててしまっては墜落するだけです。
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Unknown (土生)
2007-10-16 17:04:22
久野様
コメント有難うございます。
「価値創出の源泉を他と同列に処理していては駄目」というのは、まさにご指摘のとおりです。
ただ、企業にはいろいろあり、技術力がコアコンピタンスという企業ばかりではありませんので(むしろ世の中にはそういう企業のほうが多い)、価値創出の源泉が「知的財産」であるとは限りません。それが「良質な不動産の保有」であったり、「資金調達力」であったり、「企業文化や社員のモチベーション」であったりする場合には、「知的財産」はそれらをサポートする一要素という位置づけになるものというのが本稿の趣旨です。
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価値創出の源泉は情報 (久野)
2007-10-17 06:51:04
土生様

つきつめて考えると、価値創出の源泉は次の2種類の情報だと思います。
1. 生物の遺伝子情報
2. 知識情報

不動産が価値創出に利用できるのも、その不動産を活用して何らかの経済活動が可能だからだと思います。その経済活動は、農林水産物や鉱物の生産や採取といったものや工業や商業や観光業などを含めて、生物の採取か人間の知識情報の活用があってはじめて価値をもつものだと思います。
また、資金という金銭を考えても、金銭そのものには価値はありません。金銭は価値を流通させる媒体です。そして、金銭を媒体にして流通している価値の源泉はつきつめると、やはり生物の遺伝子情報か人間によって創造し蓄積された知識情報にいきつきます。
こう考えると、遺伝子情報と知的財産がすべての価値の根源であることがわかります。
http://www.patentisland.com/memo111.html
財務指標をベースにした経営は、価値創出の源泉に注目していないので、企業のダイエットに一時的な効果はあっても長期に財務指標ベースの経営ばかりをしていると、企業は活力を失い、ミイラのようになっていき滅びることとなります。
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