経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

骨太の知財本

2007-06-24 | 書籍を読む
 ある方からの薦めで、「知的財産マネジメント」を読みました。現場でのご経験が豊富で物事の本質を鋭く見られる方なのですが、この本の第2、3章を、企業経営や実務・実態を基盤とした内容、と高く評価されています。こういった知財マネジメント本というと、どうも美辞麗句が踊った感のあるものが少なくない中、ご推奨をされている部分については、実態をできるだけ正確に表現しようという姿勢が表れた骨太の内容になっています。どういうところにそれが表れているかというと、
 一つには、知的財産マネジメントを一括りで論じてしまうのではなく、業態毎(まず製造業とサービス業を分け、製造業については特定顧客向け/コンシューマ向け/部品・部材事業に分ける)の特徴を整理している点です。知的財産のマネジメントというのは、結局のところそれぞれの企業の事業内容や事業環境に合わせて個別に対応していくしかないのですが、業態別に一般的に見られる特徴を整理することによって、自社の現状と対比する一つのモデルとして(この本の整理が正解とは限らないので、あくまでも対比するモデルの一つとしてということです)、実用性が高まっているのではないかと思います。
 もう一つは、図にあるようにライセンス等でその価値が顕在化している知財は氷山の一角に過ぎず、「顕在化した知財だけが競争力なのではない」ということを明確に示しているところです。では、顕在化していない部分をどうやって測るかというと、そこは明確ではないのですが(私個人の意見としては、ビジネスの現場と知財部門でその特許が「必要である」という認識が共有されていれば、それを敢えて定量化して説明することは特に必要ないのではないかと思いますが)、知財の実態を語る上でこの部分を理解しているかどうかは重要なポイントであるように思います。
 この本の良さを実感するにはある程度の経験が必要とされそうですが、言葉が踊っていない地に足の着いた良書であると思います。

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6 コメント

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知財権の潜在力に頼ることは危険 (久野)
2007-06-25 06:07:35
知的財産権は保持しているだけで威圧効果を有する場合があるということは確かです。そして、通常の場合、保持している知的財産権の中で実際に権利行使する知的財産権はほんの一部であるということも確かです。しかし、保持しているだけで発生していると推定される知的財産権の潜在力(威圧効果)だけに頼って、権利行使をしないでいると、知財組織が退化していき、組織パワーも情報パワーも喪失していきます。

その結果、いざ、威圧効果が効かず、競合企業が自社の事業領域い侵入してきても、知的財産権を用いて戦うことができなくなっています。なぜなら、知的財産権の威圧効果だけに頼っている組織運営を長期間にわたって継続していると、その組織からは知的財産権を行使するために必要な人材、組織としての判断基準、予算の組織内分担の仕組み、権利行使に耐える知的財産権が大変に弱体化してしまうからです。
すなわち、知的財産権の保有数を分野別にグラフ化したり、さまざまな社内規則や会議体をつくったりというビジュアル系知財活動を活発化させるだけになっていきます。
そうなると、いざという時に役に立たない知財部門ということになります。
例えて言えば、武士であった平家が公家のような生活を続けているうちに、戦闘能力を失っていくようなものです。
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Unknown (土生)
2007-06-25 08:42:30
久野様

いつもコメント有難うございます。
念のため誤解のないように付け加えさせていただくと、この本の説明は「顕在化した知財だけが競争力なのではない」というものであって、「知財を顕在化させる必要はない(潜在的な効果で十分)」といっているわけではありません。
ご指摘のような知財組織の弱体化はおそらく由々しき問題なのだと思いますが、逆に知財の潜在的な効果に対する意義が正当に評価されないと、社内的に知財部門は何をやっているのだと批判を浴びてしまい、モチベーションが低下しかねないという側面もあると思います(特に知財の専門家以外には、きっちり説明していかないと潜在的な効果が評価されていないことが多いと思います)。事件が起こらないのは、いつも警察官が巡回してくれているおかげ、ということの理解も必要、といったところでしょうか。
要は、目に見えない部分についての理解もえて、戦うべきときは戦う、という状況が理想なのではないでしょうか。
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知財の潜在的効果の評価は長続きしない (久野)
2007-06-25 21:02:20
知的財産権の威圧効果(潜在的効果)が存在することは確かです。しかし、威圧効果は威圧される者には測定できますが、威圧した側は威圧効果を測定できない場合がほとんどです。
そして、時には威圧効果が効かない相手が侵害してくることも発生します。そのため、目に見えない部分である威圧効果の存在と効果を長期間にわたって実感を伴なって信じることは困難です。
知的財産権の威圧効果を中心に知財業務をしている知財部門は、知財倉庫の管理人のようになり、倉庫の中の知財の個数や倉庫への知財の出し入れにばかり関心を持つようになります。そのうち、知財権を武器であると感じなくなり、売買対象としての商品であるかのように取り扱うようになります。
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氷山? (かつての知財部員)
2007-06-28 00:53:37
 お二人とも、そして企業の知財部員や昨今の知財ブームに踊らされて知財を過大評価する人には、「知的財産権ならば相応の価値がある/武器である」という前提で考えているように見えます(そして、知財の一面から見た考えを一般論として展開している)。しかし、その前提は正しいですか?
 知的財産権ならば(どんな知的財産権であれ)「図にある氷山」に含まれるのではなく、氷山にすらならない(海水?)知的財産権が大半であるのが現実ではないでしょうか。潜在的な威圧効果/価値(これを客観的に定量化することは不可能)を持つ知財が全体の一部であり、その中の極一部が氷山の一角として顕在化しているに過ぎないのです。
 それなのに、知財であればライセンスなどによる顕在化した効果がなくても威圧という潜在的効果があると解釈するのは言い訳です。
 久野氏のいうビジュアル系知財活動は現実を反映していていますが、それしかできないケースが多いからです。人材や組織に問題があるから知的財産権という武器が使えないのではなく、「知的財産権ならば武器として使える(はず)」という前提がおかしいのです。その前提を理解していない経営者やエンジニアに対する言い訳として氷山に例えて「潜在化していますが、それでも効果があります」といったりビジュアル系活動を活発化させるのは自己防衛手段として分からんでもないです。問題は、多くの知財関係者が、それを言い訳と認識せずに、当然のことと捉えていることではないでしょうか?そのような考え方を続けるのであれば、偶然に頼らない限り、知財を武器にすることなど夢また夢でしょう。
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Unknown (土生)
2007-06-28 02:48:11
かつての知財部員さん、
コメントありがとうございます。仰られているポイントは、よく理解できます。

どうも私の説明の仕方(特にコメント欄)の表現に問題があったので、お二人の誤解を招いてしまったようですね。「潜在的効果を説明する」という趣旨は、久野様の仰るビジュアル系の説明が必要ということでは全くなく(その世界に私は相当否定的です)、事業を担当する企画部門や営業部門から「役に立っている」「あってよかった」と実感を得られるような権利を創っていけるように、他部門としっかりコミュニケーションとるという意味です。過去を説明するということではなく、今どのように取り組むか、という話です。また、ここでの「役に立っている」という意味ですが、それを今はどうも「ライセンス収入」や「侵害訴訟で勝った」などの特許の世界での勝負だけで測ろうとしている部分がありますが、事業サイドから見るともっと違う見方もあると思っています。事柄の性質上あまり具体的には書けませんが、事業サイドの意図を汲みながら、その後方支援として潜在効果も含めて特許という武器を使っていく方法はあると思います。

以上のように、かつての知財部員さんがご指摘された、「知的財産権ならば相応の価値がある/武器である」という前提で考えている、という部分について、全くそうは考えていません。知的財産権であっても、何の武器にもならない不良在庫が世の中には多数存在していることは紛れもない事実であり、それを都合のよいように美化することは、弊害あって一理なしです。「知的財産権という制度は、ハンドリングの仕方によっては有効な武器になる」ものです。「特許で発明を守る」という考え方を脱し、「特許で事業をサポートする」というスタンスで武器を揃え、その使い方を工夫していくというのが、特許業務に取り組む際の私の基本的なアプローチです。
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かつねの知財部員さんへ (久野)
2007-06-28 19:52:22
「知的財産権ならば相応の価値がある/武器である」という前提で考えているというのは、誤解です。
下記サイトをご覧ください。

http://www.patentisland.com/memo5.html
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