経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

会社の体温を上げる

2011-06-01 | 企業経営と知的財産
 前回に続き、特許庁の中小企業向けの知的財産戦略支援プロジェクトの関係で多くの中小企業を回っていて、共通点として気付いたことをもう一つ。独自の製品やサービスで確かな存在感を示している中小企業を訪問すると、会社の活気というか、社員の方々の‘熱さ’が感じられるということです。例えば、我々が訪問した際に、受付だけでなく多くの社員の皆さんが立上って「いらっしゃいませ」と迎えてくださる。こうしたケースが少なくなかったのですが、得意先でもない訪問者であっても、社長を訪ねてくる人達を「会社への来客」として迎える気持ちが浸透しているのでしょう。会社のことを我がこととして捉える、当事者意識が浸透していることは、まさに会社の強さに結びついているのではないかと思います。

 かなり前の話になりますが、ニュース番組か何かで日本電産の永守社長へのインタビューが放送されていました。日本電産が買収する会社は、どうして短期間で赤字から黒字に転換することができるのか。この問いに対して、次のように答えておられました。
「それは、社員の意識を変えることです。私は、赤字で社員にやる気がなく、工場もオフィスも汚れっぱなしの会社をみるとウキウキします。そうした社員に目標を持たせ、やる気を引き出すことができれば、購買担当の社員は1円でも安く仕入れようとする。営業担当の社員は1円でも多く販売を伸ばそうとする。こうした個々人の努力によるコストの削減、売上の増加を積み重ねていけば、赤字の会社だって黒字にすることができるんです。その意識付けをするのが経営者の仕事。だから、同じ赤字であっても、工場がきれいに掃除されていて、社員のやる気も十分といった会社であれば、私が経営したって黒字にすることはできないんですよ。」(実際は関西弁やったと思いますが…)
 この話からもわかるように、組織の本当の強さというのは、メンバーの当事者意識というか、活力というか、会社の体温の高さみたいなところにあるのだと思います。技術力だ、ブランド力だ、戦略だ、ビジネスモデルだといっても、それらを生み出すのは人間の力だし、会社の置かれている環境は常に変化していくから、技術力・ブランド力云々の強みだって常に変化に適応していかなければいけません。その原動力となるのが社員の熱さであり、会社の体温として表れるのでしょう。

 以前のエントリで、
「知的財産権を保有する企業は、成長性が高く、倒産しにくい」 というデータに対して、それは、
「知的財産権を保有すれば、成長しやすく、倒産しにくくなる」 ということではなく、
「新しいことにチャレンジする活気がある会社は成長性が高く、そういう会社であれば新しいチャレンジから知的財産権を保有する機会も多くなる」
「時代の変化に柔軟に対応できる会社は倒産しにくく、そういう会社であれば変化の過程で知的財産権を保有する機会も多くなる」
ということなのではないか、ということを書きました。だから、
「知的財産権を取得すると収益が向上しますよ」 ではなく、
知的財産権を取得するネタがたくさん出てくるような活気のある企業体質を作っていきましょう」 という、
そういった提案のほうが本当の意味で強い会社を作ることに結びつくのではないか。つまり、
知財活動を通じて会社の体温を上げていきましょう」 ということです。
私が毎年注目している中国電力さんの知的財産報告書からは、まさにこういう方向を志向されていることが感じられます。昨年訪問したある資材メーカーでは、「特許でもライバルに勝つことは我々が最先端であることを証明することでもあり、それは現場の士気にかかわることだ」といったお話がありました。短期的に多少の金銭を得ることができたとしても、会社の体温を下げるような知財活動では‘体質’の強化にはつながりません。ここは、本当の意味で会社の競争力強化に結びつけるという観点から、しっかり頭に置いておきたい部分ではないでしょうか。

<お知らせ>
 拙著「経営に効く7つの知財力」のFacebookページを開設しました。
 企業の競争力と知的財産の関係について、私の考え方をまとめてみましたので、よろしければそちらもご覧ください。
企業の競争力強化と知財マネジメント


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。