経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

要は、持ち手の問題。

2011-02-03 | 企業経営と知的財産
 あるところで議論していたときに考えたことなのですが、これは結構重要なことかもしれないのでちょっと覚書的に。
「知的財産権を保有する企業(保有する知的財産権の価値が高い企業)は、成長性が高く、倒産しにくい」
という説について。この説については、裏付けとなるデータがいくつかあるそうで(例えばコレ)、一定の相関関係が認められるようです。
 ここから、
「知的財産権を保有すれば成長性が高まる、倒産しにくくなる」
という因果関係を立証できれば、「だから知財活動に取り組むことは重要なんですよ」と、定量的な裏付けをもって説明できる。知財業界的には触手を伸ばしたくなる説ですが、現実の事業構造はそんなに単純なものではなく、正直なところ「ホンマかいな」という怪しさが残ります。
 これに対して、次のようなシニカルな説明に説得力があったりします。
「それは、お金のある企業は知的財産権を保有できる、ということの裏返しにすぎない」
すなわち、ヴィトンを持てばお金持ちになれるのではなく、お金持ちだからヴィトンを持てる、という理屈です。こういうシニカルな意見って、もっともらしく聞こえたりもするのですが、この説も実際に生じている現象を逆にして説明しただけで、そこに企業のどういう意志がはたらいているか、という部分が無視されてしまっている。
 そこで、最初の説の原因と結果を逆転させてみたところ、何か本質が見えてきたような気がしました。
「成長性が高い企業、倒産しにくい企業は、知的財産権を保有している(保有する知的財産権の価値が高い)」
すなわち、成長性の高い企業、倒産しにくい企業というのは、一般に、進取の気性があり、時代の変化に柔軟に対応し、社員のモチベーションも高い。そういう企業というのは、自らの強みをしっかりと認識し、アイデンティティが確立しており、その強みやアイデンティティが特許権や商標権といった形で表出しやすくなり、その特許権や商標権がさらに成長性や安定性を支える役割を担う。こういう因果関係なのではないかと。だから、自らの強み、アイデンティティが認識されないままに知的財産権だけを獲得したとしても、それだけで成長性や安定性に結びつくものではない。根っ子にそうした企業の性質があるからこそ、成長性、安定性があるのであって、そういう企業であれば知的財産制度もうまく活用してさらに成長性、安定性を高めやすい。今年度訪問した知財活動に熱心で結果も出している多くの中小企業も、まずは開発重視の積極的な姿勢ありきで、まさにそういった印象でした。

 あまり良い喩えではないかもしれませんが、「スマートフォンを持っている」ことと「仕事ができる」ことに相関関係があったとします(実際は逆だったりするかもしれませんが…)。相関関係があるからといって、「スマートフォンを持てば→仕事ができるようになる」という因果関係があるかどうかはわかりません。ビジネス向けのアプリを使って仕事の効率が上がるからですよ、なんて理屈でスマートフォンを持たせたところ、仕事に身が入らなくなってかえって仕事ができなくなってしまった、なんてことになってしまうかもしれない。
 これを逆に「仕事ができる人は→スマートフォンを持っている」としてみるとどうか。スマートフォンを持つことは、好奇心とかチャレンジ精神の表れであって(今となってはそれほどでもないかもしれませんが)、そういう人だからこそ仕事もできるし、そういう人がスマートフォンを持つと仕事にもバンバン活かして武器になり得る。本質は、持ち手の意識や性質にあるのかと。

 こうやって考えてみると、知的財産制度を利用したことのない中小企業を支援する際には、「知的財産権を取得すると収益が向上しますよ」というシナリオではなく、「知的財産権を取得するような企業体質を目指しましょう」というところから入っていくことが必要なのではないかと思います。その企業体質とは、自律、能動的、柔軟、とかいったイメージのものです。先月まで、愛媛県の西条市で、木戸弁理士にもご協力をいただいて西条知財塾というプロジェクトに取り組んでいたのですが、全6回のセミナーで、出願のハウツーとかを扱うのではなく、最終回には参加者の皆様に自社の事業計画書(その中に知財活動の目標も織り込む)を作成してプレゼンをしていただく、という構成で進めました。このプログラムの基となる思想も結局は同じことだったのか、なんて振り返っている次第です。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。