経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

製造業ベンチャーの難しさ

2007-06-17 | 企業経営と知的財産
 日経ベンチャーのサイトに「日本に新興メーカーが生まれないわけ」という記事が掲載されています。私もセミナーなどでこの点によく言及するのですが、その原因についての見方はこの記事とは少し異なっています。
 この記事によると、新興メーカーが生まれにくい原因は、日本のVCの投資案件の採択基準にあるとされています。具体的には、VCの「3年で単年度黒字、5年で累積損失一掃」といった比較的短期での投資成果を求めようとする姿勢が問題であり、もっと長期的な視点でリスクをとっていくことが必要だ、と主張されています。
 しかしながら、VCの運用するファンドの運用期間を考えると(最近の事情はわかりませんが、以前は平均で7年前後だったと思います)、「3年で単年度黒字、5年で累積損失一掃」くらいで立ち上がってもらわないことには資金回収がままなりません。よって、記事で指摘されているようなリスクをVCがとった場合に、それを被るのは投資家ということになり、「リスクをとるべし」と訴えるのであれば、その相手はVCではなく、VCのファンドに投資する投資家ということになるでしょう。

 尤も、製造業ベンチャーの難しさは、資金の問題だけではないようにも思います。ソニーやホンダが急成長した頃に比べると、世界中に競合メーカーがひしめいており、競争環境は全く異なります。電子、機械などの分野の製品は、複雑化・多様化しており、優れたコア技術を開発したとしても、製品化のためにはそれ以外にも様々な技術を必要とするのが通常であり、ベンチャーが単独で開発した新製品をもって世界を席巻するには以前と比較にならないほど環境は厳しくなっていると思います。
 また、特許という視点から見ると、
・ バイオ系ベンチャーであれば、開発したコア技術をとにかく特許でしっかりと囲い込めば、コア技術をカバーした特許の力によって優位性を維持することが可能であり(図の①)、
・ サービス系ベンチャーであれば、新しいアイデアで早く市場を押さえれば、特許にはあまり影響されることなく優位性を確立していくことが可能である(図の③)
のに対して、電子、機械などの分野(図の②)で優位性を固めていこうとすると、1件、2件とただ特許をとりさえすればよいというものではありません。大手メーカーの特許網が張り巡らされている分野なので、1件、2件の特許でどうなるものでもなく、「特許ポートフォリオ」によって優位性を固めていくことが必要になってきます。このような環境下で戦っていくためには、特許についてそれなりに熟練したノウハウが必要ですし、「ポートフォリオ」となるだけの特許を取得する相応のコストも必要になります(「知的財産のしくみ」p.52~55)。つまり、特許という点に関しては、①や③の分野に比べると、②の分野は非常にハードルが高く、新興メーカーの育ちにくい一因となっていることが考えられます。
 一方で、ここ2~3年の新規上場企業をみると、その中には実力派の新興メーカーが意外に多く含まれています(証券コード;6157~6163,6258~6266etc.)。これらのメーカーは、ニッチ分野、かつ匠の技のノウハウ系の企業であることが多いように思いますが、上記のような事業環境を考えると、こうした条件をみていけば、新興メーカーが登場する余地は十分にあるのではないかと思います。


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